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何の期待もしていなかった『ロブスター』

予備知識ゼロで作品に出会うのが好きだ。

ゴッホ展にいっても、ピカソ展にいってもそういう体験はできないし、フェラーリにも先入見なしに乗ることはできない。

あのフェラーリに!
あのピカソが!
あのロレックスを!

みたいな「あの」が必ず付きまとう。これは仕方のないことなのだが、「あの」の数をなるべく増やしたくない。

映画を見る時にも、全米興行一位になった「あの」映画とか、アカデミー賞を取った「あの」作品とか、「あの」有名監督が作った映画とか、なるべくそういう「あの」なしで、出逢いたいと思っている。

映画館に行くしかなかった頃はそれが無理だったが、レンタルビデオの時代がきて、予期せぬ出会いが増えるようになり、配信の時代が来るともっとそうなってきたので、しあわせなことだ。

なんの期待もしていなかった『ロブスター』

昨日見た『ロブスター』(2015)もその1本だ。Amazonプライムでたまたまサムネイルが表示されたので、ふとクリックして見始めたのだが、最初の感じとしては

どうせホラー映画だろうな・・
あまりにひどければ途中で止めよう

という感じだったのである。それが、出だしの1分で圧倒されてしまった。こういう出会いがたまらない。

ただし、今、ふりかえれば、僕がものを知らなかったということにすぎなず、ギリシャのヨルゴス・ランティモス監督といえば映画マニアの中ではすでに知られた人だったみたいだ。

しかも、ぼくは

どうせハリウッドの低予算映画だろう

と高をくくって見始めたんだけど、実際は、ギリシャ・フランス・アイルランド・オランダ・イギリス合作という、ハリウッド以外のEU諸国がのきなみお金を出しているタイプの映画だったのである。

そういう浅はかな観客を実力でうならせてくれるような映画に出会えたので、ほんとにうれしい。

結婚しないと動物になる

映画で描かれるのは近未来の社会で、そこでは結婚することが義務付けられていて、離婚した人はホテルに監禁される。そして、45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に改造されてしまう。

・・という設定自体があまりにバカバカしいのだが、作りが優れているので、違和感なく受け入れてしまう。

一方で、そういう社会から逃げ出した人々が森で暮らしており、かれらは独身至上主義者である。

ホテルの中は恋愛が推奨され、オナニー禁止で、オナニーをした人はトースターで手を焼かれてしまうくらいにサディスティックな管理社会だ。

一方、森の人々は、オナニーはやり放題だが、恋愛がばれると殺される。

こういう、極右と極左みたいな両極端の世界の中で、主人公はホテルを逃げ出して森のコミュニティに加わるんだけど、そこで恋愛してしまうのである。

アイルランドでロケしているらしく、見たことのない風景が続く。

体重は自由自在

主演はコリン・ファレルで、「マイアミバイス」のタフガイのイメージが強いが、この作品を見る限りでは、むしろロバート・デ・ニーロ流の、役作りのためなら、いくらでも太ったり痩せたりするタイプの人らしい。

2015年には、この「ロブスター」以外に、「ブレイン・ゲーム」という作品に出演していているんだけど、「ブレイン・ゲーム」では、「マイアミバイス」以上にスリムになり、若返ったような感じでサイコパスを演じていた。

ところが、『ロブスター』では、ぱっと見コリン・ファレルとわからないほど中年太りして、おなかの出たまじめな会社員である。CGかとうたがってしまうほど見事なおなかだが、本気で太ったみたいだ。

『マイアミバイス』が好きで、コリン・ファレルも好きな俳優さんなんだけど、ここまで役作りに入れあげるタイプだとわかると、もっと好きになってしまう。

「石原裕次郎と小林旭が太ったせいで映画の人気が落ちた」といわれていた昭和の日本映画では考えられないことである。

見たことのない不思議な作品

とにかく見て損のない作品であり、ネット上のレビューも好評で、

これまで見たことのない不思議な作品

と評している人が多い。今ならアマゾンで見れます。


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