ビジュアルにとらわれすぎると、大事なことを聞き逃す
どんな本でも初読と2回目とでは印象が変わる。あたりまえなんだけど、ガラッと変わることもある。
なんでもそうだ。
映画でも、マンガでも、受験参考書でも、スポーツの試合でも、観光地でも、おいしいお店でも、1回目とリピートしたときでは印象が変わるし、2回目があったほうがより深く理解できるのはまちがいない。
しかし、2回目があると思うと気がゆるむ、のもまた真実である。
「チャンスの女神には後ろ髪がない」とよく言われるが、これは女神は刈り上げスタイルだということではなくて、
といういましめである。それくらいの気合でものごとに臨めということだ。人生は一瞬一瞬がライブなのだ。巻き戻したり、やりなおしたりはできないのである。
ぼくが小学生のころ、テレビとはそういうものだった。見逃したら二度と見ることのできない瞬間の連続だった。
しかし、いまはなんでも録画できるようになったので、ぼくもだいたい録画してから見る。そして止めたり巻き戻したりいつでもできると思っているので、どこかしら気が緩む。
といいつつ、実際には二度目を見ることはほとんどない。次から次に新作のが放送されるので同じものばかり見ていられない。なので「ドキュメンタリー番組は1回見たら消去する」というルールをじぶんに課している。そして、その分、気合を入れて見ている。
そうはいっても、優れたドキュメンタリーほど情報量が多いのでその場で消化しきれない。なので2回見るのもアリかなあと・・思い始めた。
たとえば、遺伝子についての番組を見ている場合に、「遺伝子とDNAと染色体」の区別があいまいだったりすると混乱する。つまり、こっちがバカだと消化しきれない。
昨日紹介した『アウシュビッツに潜入した男』という番組もこのパターンだった(「ウラの組織とはどういうものか」)
1度目で消化しきれなかったので、やむなく2回目を見てから書いたんだけど、そのおかげでいろんなことがわかった。
アウシュビッツには第一収容所と第二収容所があり、ガス室があったのは「第二」なんだけど、そのことをわかっていなかった。
先に作られたのが「第一」で、ここには「ポーランド侵攻」後にポーランド人が収容されていたらしい。毎日大勢の人が殺さていれたけどガス室はなかったのである。番組の主人公がいたのもここだ。
その後独ソ戦がはじまり、ソ連軍捕虜によって建てられたのが第二で、ここでガスによるユダヤ人の大虐殺がはじまる。
ドキュメンタリーは主人公の目線で語られるので、こんなふうに背景知識をまとめてくれない。あらかじめ頭に入れておかないと、ぼくのように混乱する。
あと、ナチス親衛隊(SS)とナチス秘密警察(ゲシュタポ)のちがいとか、そういう簡単なこともわかっていなかったので、ビデオを止めてせっせとググった。
そうやって二度目にアタマを整理しつつ見て
と気付いたことがたくさんある。一度で済ませていたら、大事なことはほとんどわからないままで終わっていたはずだ。
・・というわけで、人生には限りがあるので同じものばかり見ていられないけど、復習も大事なのである。
他にもわかったことがある。
一度目に大事なことを聞き逃してしまうのは、ビジュアルにとらわれている場合が多い、ということ。
この番組では、アウシュビッツから生還したおじいさんたちの貴重な証言が集められているのだが、あるおじいちゃんは、最初見たときあまりに鼻毛がすごかったので、
ということに気をとらえて、何を言っているのかぜんぜん頭に入らなかった。
別のおじいちゃんは、うすいシャツの下にブラジャーをしているように見えてしまい、
とそこだけ気になって話が頭に入らなかった。
また別のおじいちゃんは、アメリカ西部劇の悪役として名高い「ジャック・パランス」に似ていたので、
とだけ思っていて、話しが頭に入らなかった。
このように、ドキュメンタリー番組は映像の力で押してくるけど、あまりビジュアルにとらわれると、大事な情報を聞き逃してしまうことがある。
だから二度目は、下を向いて画面をほとんど見ず、音声だけを聞いた。
そうすると、収容所と独ソ戦の関係もわかったし、抵抗組織の活動には3つの段階があったということもわかったし、ジャック・パランスそっくりなおじいちゃんが悪玉ではなくて、きれいな心の持ち主だということもわかった。
全体を抽象化して頭に入れるには、ある程度ビジュアルを無視することも必要だ。
それで思い出したことがあるので、最後につけ足しておく。「男性脳と女性脳では、見えてみるものがちがう」という話だ。
女性の脳は
のだそうだ。10倍くらい太いといわれる。
だから女性には、男性には見えないこまなかビジュアルまで見えるそうである。ただしその分、全体像が見えにくくなっているともいわれる。
男性脳も女性脳もそれぞれの良さがあるわけだが、この番組を1回目に見た時に、鼻毛やブラジャーが気になり、収容所と独ソ戦の関係に気づけなかったも、これと似たようなことだったのかもしれない。
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