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ぜんぶテレビのおかげです

モノを選ぶときに、人はどれくらい比較にもとづいてやっているのだろうか。

どこかの心理学者がすでにそういう実験をやって、証明されているのかもしれないけど、そういうことは知らないので、あくまで実感だけで書くけど、ぼくが「映画っていいな」とおもう場合は、かなりの場合

テレビに比べて・・

そう思っている気がする。また「ネット動画っていいな」とおもう場合もたいてい

テレビに比べて・・

そう思っており、また「海外メディアはいいな」とおもう場合もたいてい

日本のテレビに比べて・・

そう思っている。

稲川淳二さんの場合

稲川淳二さんは「55歳でテレビにレギュラー出演するのはやめよう」と心に決めて、それを実行に移した人で、以降は、夏のライブの宣伝を兼ねた出演以外はやっていないそうだ。

理由はいろいろあるのだろうが、ライブでよく説明してくれる理由は一貫しており、それは

テレビでは本物を映せないから

というものだ。稲川さん自身は、テレビで心霊モノをやっていたころも、がんばって本物を映そうとして実際に撮れたこともあるのだそうだが、そうなるとディレクターから

だめだ淳ちゃん。これ使えないよ

と言われて

なんで?

と聞くと

だって本物なんだもん

ということになるのに愛想をつかせたと言っていた。本物をオンエアしたら放送事故になるらしい。

「自分は本物を視聴者に届けようと思って体を張っているのに、そもそも本物が使えないんだったら意味ないではないか?」というのがテレビに感じた限界なのだそうである。

極楽山本さんの場合

極楽山本さんも15年間くらいなかなかテレビに出られなかったし、ちょろっと出るたびにうるさい人が文句をつけてくるので、見ているほうもフラストレーションがたまっていたのだが、2017年にAmazonプライム・ビデオのオリジナルバラエティー番組『戦闘車』というのを見たら、フツーに出演していた。

最初にずらっとタレントさんが並んでいるところに山本さんもフツーに映っており、冒頭、司会の浜田雅功さんから

モザイクかけなくていいんですか?

と言われて

アマゾンはイイんです!

と力強く答えていて、ぼくは「ネットって風通しが良くていいな」とつくづく思ったのである。

岩下志麻さんの場合

言わずと知れた大女優だが、1981年の角川映画『悪霊島』でオナニーシーンを演じていた。当時中学一年生だったぼくは、劇場で岩下志麻のオナニーを見て完全に悩殺された。

これほど興奮することなど後にも先にもないというくらいに興奮したのだが、あの大女優がテレビでいきなりオナニーを始めることなどありえないので

映画って本当にいいな

と思うのはこういう瞬間なのだ。多くの俳優さんが、テレビでは絶対にやらないようなことを、映画なら体当たりでやってくれるのが映画のいいところである。

人ってそんなもの

話はそれるが、ついで書いておきたいことがある。

『悪霊島』は金田一耕助主演のミステリー映画で、前年に暗殺されたジョン・レノンにトリビュートされた作品だ。テーマ曲は「レット・イット・ビー」で、ジョンに対する喪失感あふれる映画なのだが、ぼくはジョンが暗殺されるまで「ビートルズ」と「ずうとるび*」の区別がついていなかったことをここに告白しておきたい(*日本の男性アイドルグループ)。当時の田舎の中学生と言うのはだいたいそんなものである。

しかし、映画館を出るころには、ジョンに対していっぱしの喪失感を抱いており、その後、さもわかったようにビートルズを聞き始めたので「まあ、人ってそんなものだよな」と今でも思うことがある。

テレビは偉大

以上、テレビの悪口を言っているように見えるかもしれないが、そうではなくて逆である。

ぼくが「映画っていいな」と思う場合も、「ネットっていいな」と思う場合も、テレビと比べてそう思っているわけで、テレビが不自由であればあるほど、映画やネットの魅力が増す。

これは、北朝鮮の不自由さを知るにつけ、日本のありがたみが増すのと似ており、テレビばかり見て、テレビに文句ばかり垂れている小うるさい視聴者の群れがいてくれてこそ、映画やネットの魅力が増すのだから、その意味では小うるさい視聴者は、ぼくにとっては実にありがたい存在だ。

小うるさい視聴者よ、今日もありがとう!

と言いたい。

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