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昼間から呑むということ

昼間から呑むにあたっては、それなりの流儀というものがある。世間のみなみな様方がまだ額に汗して働いてるうちから呑むのだからして、ただしい流儀で飲まなければならない。

たとえば、あなたが一杯飲み屋でまっ昼間から焼酎をあおっているとしよう。そこで揚げ物を注文することになった。メニューには「エビフライ、トンカツ、チキンカツ、メンチカツ、ハムカツ、コロッケ」とある。はたしてどれを頼むのが正解だろうか?

「どれでも正解?」「好きなものを頼めばいい?」いやいや、そんな優等生的な答えで昼間から酒を呑むことはできない。

正解は「ハムカツ」である。

なぜならハムカツは日陰の存在だからだ。エビフライ定食、トンカツ定食、チキンカツ定食、メンチカツ定食、コロッケ定食はあるが、ハムカツ定食はない。

中でも、エビフライ定食やトンカツ定食はきちっと労働している人が頼むべき物だ。または、日曜日に家族そろってデパートへ行った場合に頼むべきハレの食である。

そして、チキンカツ定食、メンチカツ定食、コロッケ定食は、学生がごはんを何杯もおかわりするために存在する。そのどちらでもないのがハムカツ。

真っ昼間の一杯飲み屋で焼酎をあおるにあたってトンカツを注文するようなやつは、人が労働しているあいだに酒を呑むという行為の罪悪感を正面から受け止めてきれていない。

うっすいハムカツをチョイスすることこそが、昼間呑むということの日陰感と罪悪感を正しく表現したオーダーである。だから、ぼくはハムカツをたのむのだ・・

・・というようなヘリクツをこねつつ、真っ昼間の一杯飲み屋でハムカツを注文したことがある。横の知らない人がだまって耳を傾けていたが、真に受けないでほしいのである。そのときの気分でハムカツを注文し、思いつきと酒のいきおいでヘリクツをこねていただけだ。次に飲みに行ったときにはトンカツを頼んでいる可能性もある。

じつは、昼間に酒を呑むにあたってはこういう非生産的で役に立たないヘリクツで罪悪感をごまかしながら呑むのが正しい呑み方なのだ。

ところで、ドラマ『孤独のグルメ』のシーズン2の第1話を見直した。

舞台は川崎の食堂で、おおぜいのおやじが昼間から呑んでいる。どうしようもない連中である。そして、原作者の久住さんがでてくるおなじみのシーンにはゲストでなぎら健壱さんも出ていた。そして、カメラに向かって

みなさん~、われわれは昼間からサケを呑んでいるのではありません。たしなんでいるんです。さて、もう一杯たしなもうかな~。

と赤い顔で言っていた。ヘリクツである。昼間からサケを呑むにあたっては、こういうヘリクツで盛り上げなければならない。

やはり目指すべきはなぎら健壱である。いっぽんでもニンジンである。ぼくより16歳も年上だ。これから16年間は、なぎら健壱的な方向性を目指していけばいいのだな~と思えてきてなんか希望が湧いてきた。


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