たからづくし
「赤」は挑戦してみたい色だった。
個展のテーマを考える時、最初に思い浮かぶのは色である事が多い。ぼんやりと淡い色のグラデーションが頭の中に現れて、今興味があることや、個展の時期の季節の草花の色や匂い、記憶などと混ざり合って、次第にくっきりとして行く。
今回は約一年ぶりの個展。ちょうど会期中に弟の結婚式が重なる事になり、以前から取り組んでみたかった吉祥文様をテーマにしようと思った。
そこで吉祥文様について調べていくと、「宝尽くし」と呼ばれる一連の模様に惹かれ始めた。「宝尽くし」はその名の通り、様々な宝物を集めた文様で、宝袋や打出の小槌などは今でも意味が分かるが、丁子や分銅など現代ではあまり馴染みのない宝物もある(それについては、また別の回で紹介したい)。それらの様々な宝物が散りばめられた着物などは、可愛らしさだけでなく、身に纏う人の幸せを想って一つ一つのモチーフに願いが込められた、お守りのような模様なのだな、と感動した。
この宝尽くしをテーマにしてみたい、と思った。沢山の宝物を一つ一つ銀線で作っていくのは気持ちも込められるし、なんだかワクワクする。
そこで宝尽くしをテーマに個展の構想をして行くと「赤」が浮かんできた。有線七宝で赤を思ったように発色させるのは難しい。銀線と釉薬が科学反応を起こして、釉薬が茶色くなったり黒ずんでしまう事が多い。でも、日本ではお祝い事に「赤」という色は欠かせないのでは無いだろうか。日本人にとって赤は特別な色のように思う。
夕陽の赤、珊瑚の赤、梅の赤、、、好きな「赤」は挙げればキリが無いけど、はっきりと主張の強い色はあまり得意では無く避けてきた。でも。
赤は挑戦してみたい色だった。今がその時じゃないか。
そこから、いつもの実験が始まった。綺麗な発色の為に焼成温度を変えて見たり、厚みを変えてみたり。次第に鮮やかな色を出すコツが掴めてきた。今回は刺繍で使う金糸や銀糸のように、一つのモチーフの中に金箔や銀箔を加える事も試みた。箔と色が重なる事で、今までとは違う色が出る。それと同時にガラスの生地自体にも色を重ねていった。去年までは透明な生地を作っていたけれど、生地自体に表情が入る事で、器から模様を呼ぶことがあるのも解って来た。
色々なことを重ねて、このテーマにのめり込んでいった。
生きていると色々な時期があるけど、だからこそお祝い事の時は思いっきり幸せを願って祝福したい。そしてこの展示も、同じものは二度と作れない。毎回一度きりだからこそ、今やりたい事の全てを出し切りたいと思う。
「たからづくし」この2019年の夏の個展は、そんな幸せを願う祈りや実りの喜び、そこに作る事の喜びを重ねたものたちを並べます。
「たからづくし」 藤井 友梨香 展 会期:2019.9.20 (金)〜9.29(日)*9.25(水)定休日 時間:11:00〜19:00
会場:SAVOIR VIVRE (サボア・ヴィーブル)
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