死にかけの子猫を、トイプードルの母乳が救った話
猫を拾ったことがありますか?
私はあります。二度も。
正確に言えば拾ったのは私ではなく母親で、しかもそれも近所の人だとか祖母だとかに押し付けられるようにして拾ったのだが、結果的に拾った。
一度目は、約八年前、家の敷地内で。
紫陽花の下で弱り切っていた、目やにだらけの淡い色の三毛猫は、我が家に迎えられた。
病院で綺麗にしてもらった彼女は、見違えるほど美しく、可憐だった。
今ではリビングの一番高いところで、大あくびをしながら私たち人間や犬たちを監視している。大事な家族の一員だ。
二度目は、5年前。
祖母の家の前だかで、まだ目も開かないほど小さい猫だった。
あんなに小さい猫を見たのは初めてだったので、母親が連れて帰ってきた時、「なにこれ!?」と言ったのを覚えている。
(iPhoneと同じくらいの大きさ…)
こんなに小さい子猫が、母親と離れてしまって大丈夫なのだろうか?(母猫はいくら待っても現れなかったらしい)
あまりに小さくて、「かわいい」よりも「こわい」という思いが強かった。
とりあえず、食べさせなければいけない。
ミルクを与えてみる。
しかし、飲まない。全然飲んでくれない。おなかはすいているはずなのに。
このままでは、死んでしまう。どうしたらいいんだろう。
そんな時、母の勤め先のペットサロン(繁殖も行っている)で、子犬を生んだトイプードルがいた。
「ちょうど乳離れのタイミングだし、この子連れて帰ってみたら?」
店のオーナーの提案で、母はその子を連れて帰ってきた。
猫が犬の母乳を飲むのだろうか。
そして犬は、猫に母乳を飲ませてくれるのだろうか。
不安だったが、ミルクを飲んでくれないことにはどうしようもない。
トイプードルのケージに子猫を入れて、パンと膨らんだ乳房の前に置いてみた。
すると、小さな前足で乳房を確認し、乳首に吸い付いた。そして、飲んだ。
プードルの方も、まったく嫌がることもなく、見ず知らずの科も異なるちいさな生き物に母乳を吸わせている。
ミルクは全く飲んでくれなかったあの子が、乳首に吸い付いて離れようとしない。
この奇跡のような出来事に、家族一同、安堵すると同時にすごくすごく感動した。
2日間犬の母乳を飲んだ子猫は、おなかがまんまるになった。
何だこの顔は。
そして拾ってから5日後、片目が開いた。
プードルママの母乳をたっぷり飲み、すくすく成長している。
きらきらしてて、とってもかわいい。早く全貌が見たくて指で開きたくなってしまうけど、ガマン。
6日目、両目が開いた。
開いたばかりだから、まだうるうるのお目目。
頭はポヤポヤ、耳もちょこんとしていて子ザルみたい。
7日目、目がはっきりした。
ちょっと猫らしくなってきた。子猫の成長は早い。
うちの先住犬も、興味津々に見つめている。
12日目、プードルママのおっぱいの上で居眠り。
「おっぱい飲んで、ねんねして」を見事に。
あったかくて気持ちよさそうね。
親子だと思っているのは子猫の方だけでなく、なんとプードルママも。
私たちが子猫をケージから出そうとすると、我が子を守らなきゃ!と大騒ぎ。一緒にケージに入れているときは、体をなめてあげたり、ずっとお世話をしてくれる。
子煩悩なママがいて安心ね、子猫ちゃん。
14日目、子猫だけを出すとプードルママが騒ぐから、騒ぐから、一緒にだっこ。腕の中でも、片時も目を離さないママ。
「狭いよう」と不満なのか、眠たいだけなのか、ぼーっとしたお顔の子猫ちゃん。
19日目、ピアノを演奏するおしゃれキャット。
お耳もピンとしてきて、どんどん猫らしくなってきた。
25日目、プードルママとお別れをして、離乳食開始。
後ろ足はおかしいけれど、ぺちゃぺちゃと元気に食べる子猫ちゃん。
これも全部プードルママのおかげだね。本当にありがとう。
いっぱい食べるから、どんどん丸く。
一人部屋になってベッドも作ってあげたのに、トイレで寝ちゃう子猫ちゃん。
30日目、もうすっかり猫らしくなった子猫ちゃん。
じゃれついたり、走り回ったりもするように。ころころで、かわいい。
この頃に、里親が決まった。
知り合いの方で、ちゃんと大切にかわいがってくれそうな、やさしいご家族。
一緒に遊べるようにもなって、子猫ちゃんのことはかわいくて仕方なかったけど、うちには犬も猫もいたし、かわいがってくれる人のところで暮らせるならこんなに幸せなことはない。
子猫を拾って47日目、ついにお別れ。
引き渡すところを見たら泣いちゃいそうで、でも泣いちゃったら新しいご家族に失礼だから、ひっそりお別れをして、引き渡しは見届けなかった。
少しの時間しか一緒に過ごせなかったけど、プードルママの母乳で大きくなっていく子猫、そしてその子猫を必死で守るプードルママの姿を間近で見ることができたのは素晴らしい経験だった。
今でもたまに、子猫のピャーピャー鳴く声や細い爪、ふわふわの後頭部に鼻を押し付けたときのにおいを思い出しては、胸がきゅんとする。
プードルママの母乳がなかったら、どうなっていたんだろう。
そんなことは想像したくないが、想像せざるを得ない。
あれから5年もたってしまったけれど、やっぱりちゃんと記録として残しておきたくて、そして、誰かにも知ってほしくて、記事にしてみた。
子猫ちゃんは新しいお家でかわいい名前を付けてもらって、今も元気で暮らしている。
そういえば書いていて思い出したんだけど、連れ帰った初日に窓際で安心しきって寝ている写真が送られてきて、ちょっと妬いた。
一日くらいさみしがって鳴いてほしかった…でも幸せならオッケーです。
おわり
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