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パンドラ文書でウクライナ大統領とその側近のオフショア保有が明らかに

OCCRP 2021年10月3日の記事の翻訳です。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、東ヨーロッパの国を一掃するという公約を掲げて政権を獲得したが、パンドラ文書は、彼とその側近がオフショア企業ネットワークの受益者であったことを明らかにしており、その中にはロンドンの高価な不動産を所有する企業も含まれていた。

主な調査結果:

  • ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領とコメディ制作のパートナーは、英領ヴァージン諸島、キプロス、ベリーズに拠点を置く自社のビジネスに関連するオフショア企業のネットワークを所有していた。

  • ゼレンスキー大統領の現在の首席補佐官セルヒイ・シェフィールと同国の治安当局長官もオフショアネットワークの一員だった。

  • シェフィールと別のビジネスパートナーは、ロンドンの高価な不動産を購入するためにオフショア会社を利用した。

  • 2019年の大統領選挙の頃、ゼレンスキーは主要なオフショア会社の株式をシェフィールに譲渡したが、2人はゼレンスキーの家族がオフショア会社から資金を受け取り続ける取り決めをしたようだ。

俳優のヴォロディミル・ゼレンスキーは、秘密企業を利用して海外に富を隠していた歴代の指導者を含むウクライナの政治家階級に対する国民の怒りの波に乗って、ウクライナの大統領に就任した。

今、流出した文書は、ゼレンスキーと彼の側近が独自のオフショア企業ネットワークを持っていたことを証明している。大統領のパートナーが所有する2つの会社は、ロンドンの高価な不動産を購入するために使用された。

この暴露は、国際調査報道ジャーナリスト連合にリークされ、OCCRPを含む世界中のパートナーと共有された、14のオフショア・サービス・プロバイダーからの数百万のファイルであるパンドラ・ペーパーの文書によるものである。

文書によると、ゼレンスキーとテレビ制作会社「Kvartal 95」のパートナー達は、少なくとも遡ること2012年までに、オフショア企業のネットワークを構築していた。このオフショアはまた、ゼレンスキーの仲間がロンドン中心部に3つの一等地の不動産を購入し、所有するためにも使われた。

また、当選直前に、重要なオフショア会社である英領ヴァージン諸島籍のマルテックス・マルチキャピタル社の株式を、ビジネスパートナー(まもなく大統領補佐官となる人物)に贈与したことも文書に記されている。そして、自分の株を手放したにもかかわらず、そのオフショアが現在彼の妻が所有する会社に配当金を払い続けることができるような取り決めがすぐになされたことが、文書に示されている。

ヴォロディミル・ゼレンスキー
Credit: Mykhailo Palinchak / Alamy Stock Photo

2000年代から有名だったコメディアン兼俳優のゼレンスキーは、2015年にオリガルヒのネットワークで放送が始まった政治風刺番組『サーバント・オブ・ザ・ピープル(国民の僕)』で主役を演じてから数年後、政治的な出世を始めた。ゼレンスキーは地味な歴史教師役で出演し、授業中に反汚職のために暴言を吐いたところを生徒に撮影され、ネット上で拡散され、国政選挙で当選する。

テレビドラマを模倣した人生の例として、ゼレンスキーは番組開始からわずか3年半後、73%以上の得票率で現実のウクライナ大統領選に勝利した。
ゼレンスキーは汚職に対する国民の怒りの広がりを利用したが、2019年の選挙戦は、自身の銀行から55億米ドルを盗み、パートナーのヘナディイ・ボホリウボフと協力して海外に流したとして告発されているコロモイスキーのメディアによって選挙戦が盛り上がったことから、彼の反汚職の善意に対する疑念に悩まされた。

選挙戦の最中、(当時の)現職大統領ペトロ・ポロシェンコの政治的盟友は、ゼレンスキーと彼のテレビ番組制作パートナーが、コロモイスキーの銀行であるプリヴァートバンクから4100万ドルの資金を受け取ったとされるオフショア企業の網の目の受益者であることを示すと称する図表をフェイスブックで公開した。

その盟友、ヴォロディミール・アリエフは証拠を提出せず、彼の告発は証明されていない。しかし、パンドラ文書は、この疑惑の詳細の少なくとも一部が現実に対応していることを示している。リークされた文書には、アリエフのチャートに詳述された構造と一致するネットワーク内の10社の情報が示されている。

オフショア 95: ゼレンスキー大統領の財務秘密
オレナ・ロゴノワとヤキフ・リュブチッチによる調査ドキュメンタリー「オフショア95」

新文書は、このネットワークの一部が、パンドラ文書リークの一部を構成する14社のうちの1社であるオフショア・コンサルタント会社、フィデリティ・コーポレート・サービスの支援を受けて管理されていたことを示している。文書によると、ゼレンスキーと彼のパートナーは、英領バージン諸島(BVI)、ベリーズ、キプロスを拠点とする会社を利用していた。

オフショアネットワークのゼレンスキーの仲間のうち2人は、彼のテレビ番組制作会社の一員でもあり、現在は有力な地位に就いている。セルヒイ・シェフィルはゼレンスキーの大統領補佐官で、イワン・バカノフはウクライナ保安庁の長官だ。

これらの強力な地位にはリスクも伴う。シェフィールは9月22日、キーウ郊外で車が銃撃され、暗殺未遂事件から間一髪で逃れた。彼は無事だったが、運転手が負傷した。

ゼレンスキーはオリガルヒの抑制を繰り返し公約に掲げている。シェフィールが襲撃された翌日、国会はオリガルヒの登録簿を作成し、オリガルヒが政党に資金を提供したり、民営化に参加したりすることを禁止する法案を可決した。ゼレンスキーは、シェフィールの生命が狙われたことは強い反撃を受けるだろうし、既得権益との闘いに影響を与えることはないだろうと述べた。

ゼレンスキーのスポークスマンはコメントを避けた。シェフィールとバカノフは質問に答えなかった。

2019年、ゼレンスキー大統領選挙本部にてセルヒイ・シェフィール(右)とヴォロディミル・ゼレンスキー(左)
Credit: ZUMA Press, Inc. / Alamy Stock Photo

マルテックス・マルチキャピタル社の一部オーナーであるセルヒイ・シェフィールの弟ボリスは、彼が本当に(会社の)オーナーである可能性はあるが、ウクライナの現保安庁長官であるバカノフの仕業であるオフショア・アレンジメントの詳細については知らないと語った。

「バカノフは私達の財務責任者で、私達の会社の財務スキームを設定しました。正直に言うと、私はあなたに答える準備ができていません」と彼は言った。

ボリス・シェフィールは、"当局と盗賊 "が会社を脅かしているため、このようなオフショアの手配は必要だったと語った。Kvartal 95(ゼレンスキーのプロダクション)のメンバーはオフショアからの撤退を進めているが、それは時間がかかり困難なプロセスであると彼は述べた。

ホームズ氏の新しい隣人達

オフショアネットワークの大半が何に使われていたのかは不明だが、その謎の答えの一端は、ロンドンのベイカー街、もう一つの有名な架空のキャラクターの住居の近くにある: シャーロック・ホームズだ。

パンドラ文書によると、あるネットワーク会社は、現在、アーサー・コナン・ドイル卿の伝説的探偵の住所であるベーカー街221bにある博物館から歩いてすぐのロンドンのアパートを購入するために使われていた。この地域は、匿名のペーパーカンパニーを利用する外国人投資家に好まれるロンドンの高級地のひとつである。

セルヒイ・シェフィールがアパートを購入したロンドンのベーカーストリートにあるチャルフォント・コートの建物
Credit: Aubrey Belford/OCCRP

そのアパートはグレントワース・ストリートにある3ベッドルームのフラットで、シェフィールが所有するベリーズの会社、SHSNリミテッドによって2016年に158万ポンド(228万米ドル)で購入された。2014年にシェフィールが220万ポンド(350万米ドル)で購入したベーカー・ストリートのチャルフォント・コート・ビルにある近くの2ベッドルームフラットも、2018年にSHSNリミテッドに譲渡された。

文書にはまた、Kvartal 95のもう一人の株主であるアンドレイ・イアコブレフが、国会議事堂から歩いてすぐのウェストミンスター・パレス・ガーデンズ・ビルにあるおよそ150万ポンド(230万米ドル)のアパートを、彼のBVI(英領ヴァージン諸島)会社が不動産を所有する別のBVI会社を購入した後、2015年に手に入れたことも記されている。

記者にイアコブレフはこう語った 「お嬢さん、私は知らない人とは話しません。うちの弁護士に連絡してください。」

ゼレンスキーとそのパートナーのために働いたことがあり、パンドラ文書で発見された文書のいくつかに名前が出てくるウクライナの弁護士、イウリイ・アザロフもコメントを避けた。

選挙期間中の操作

ゼレンスキー自身がロンドンの不動産取引に関与していた形跡はない。しかし、文書によれば、彼はオフショアネットワークの他の部分で重要な役割を担っていた。

外国企業の網の中心にあるのは、マルテックス・マルチキャピタル社(Maltex Multicapital Corp)で、これまでゼレンスキーとのつながりはなかった。

2017年までに、マルテックスはゼレンスキー、イアコブレフ、セリヒイ・シェフィールとボリス・シェフィールの兄弟に属するペーパーカンパニーに等分されていた。現在ウクライナの秘密警察長官を務めるKvartal 95のもう一人のパートナー、イワン・バカノフは、他の4人のマルテックス所有権の名義人兼受託者として機能する別の会社の受益者だった。

ゼレンスキーは妻とともに、フィルム・ヘリテージというベリーズ籍の会社を通じてマルテックスの4分の1を所有していた。しかし2019年、ゼレンスキーの選挙戦の最中に、フィルム・ヘリテージはマルテックスの所有権を、まもなく大統領首席補佐官になるセルヒイ・シェフィールが所有する別の会社に譲渡した。譲渡書類はイウリイ・アザロフが作成した。

この取引によって、ゼレンスキーはオフショアネットワークから距離を置くことができた。

「株券は、受け取った側が金銭を支払っていないことを示している。」OCCRPのためにこの書類を検証した金融犯罪コンサルタントのマーティン・ウッズは言う。

約6週間後、同じ弁護士アザロフは、マルテックスが(同社の株式を所有しなくなったにもかかわらず)、ゼレンスキーのフィルム・ヘリテージに配当を支払い続けることを定めた別の文書に署名した。フィデリティー(投資信託)のために用意されたマルテックスの顧客プロフィールであるこの文書は、同社の5大収益源がウクライナ、ベラルーシ、ロシア、ベリーズ、キプロスであることを明らかにしている。

パンドラ文書には、配当金の規模や、何回支払われた可能性があるかについての詳細は含まれていない。2019年以降、関係者の資産申告のオンライン登録によると、ゼレンスキーの妻、オレナ・ゼレンスカがフィルム・ヘリテージの唯一の受益者となっており、その後の支払いは全て彼女に流れたことになる。

金融犯罪コンサルタントのウッズは、この株式譲渡は、マルテックスへの出資を隠しながら金儲けをするための "見せかけ "である可能性があると述べた。ゼレンスキーは、マルテックスの25%を所有していた2018年の資産申告を含め、マルテックスについて一切言及していない。

このような取り決めでは、「本当の所有者が、自分の代理人として別の人物を置き、株主のふりをする」とウッズは言う。

「譲渡を行った人物は、株式とその利益を保持したいが、そのような状況であることを他の人に知られたくないのです。」

パンドラ文書のリポーターが送った質問に対し、フィデリティー(コーポレート・サービス)は、マルテックス・マルチキャピタル社の登録代理人であることを認めたが、ゼレンスキーは現在、同社の管理下にある会社の所有者でも受益者でもないと述べた。

「現ウクライナ大統領は当社の顧客ではなく、当社の管理下にあるいかなる団体の所有権やその他の地位も有していない」とフィデリティーは述べた。

同社はまた、ゼレンスキーが2019年に政界に上り詰める前に、彼のために働いたとしても何も問題はなかったと主張した。「このような民間人が、適切と判断されるのであれば、BVI(英領ヴァージン諸島)の事業会社を含め、国際的に事業を展開することを妨げられる正当な理由は見当たらない。」

同社は、ゼレンスキーの他のパートナーや、マルテックス・マルチキャピタル社の持ち株がシェフィールのパートナーに譲渡されたことについての質問には回答しなかった。

より広い網

パンドラ文書には、2019年の選挙期間中にゼレンスキーと彼のパートナーに対して提起された、より広範なオフショア操作の疑惑と関連する詳細も含まれている。

選挙期間中、親ポロシェンコ派のアリエフ国会議員は、ゼレンスキーと彼のパートナーは、オリガルヒのコロモイスキーが略奪したとされるウクライナの金融機関、プリヴァト銀行を起源とする4,100万ドルの支払いを受けたオフショアネットワークの受益者であると主張した。

アリエフの疑惑は、彼がフェイスブックで公開した、BVI、キプロス、ベリーズを含むオフショアヘイブンに拠点を置く幾重にも重なる企業間の複雑な取引の網を示すチャートに詳述されている。そのチャートは、銀行から一連の明白なシェル・エンティティを経由して、ゼレンスキーとその関係者が所有していたとされる会社に資金が流れていることを示していた。

アリエフは自身の主張を裏付ける文書を提出していない。

しかし、パンドラ文書は彼の主張の要素を初めて裏付けるものとなった:資金を受け取ったとされる企業のうち10社が実際にゼレンスキーとそのパートナーに属していたということである。このような情報はこれまで公開されていなかった。

だが、この新文書は、アリエフの主張する、オフショア企業がコロモイスキーのプライヴァト銀行から資金を受け取ったことを裏付けるものではない。ゼレンスキーとそのパートナーのオフショアネットワークを通じてどのように資金が動いたかについては、断片的な情報しか提供されていない。文書から見える資金の流れは、コロモイスキーが顧客であった彼らのテレビ番組制作事業に関連しているようだ。

リークされた文書によれば、オフショアネットワークは2012年にKvartal 95の背後にいる個人によって設立されたもので、Kvartal 95がコロモイスキーの1+1グループと制作契約を結んだと地元メディアが報じたのと同じ年である。

パンドラ文書によると、2013年5月の時点でBVIの持株会社マルテックスが半分所有していたSVT Films Ltdは、コロモイスキーの1+1ネットワークとつながりのあるオフショア企業から、テレビ番組 "Make a Comedian Laugh "のライセンス料120万ドルを2013年1月までに支払われることになっていた。

2015年には、ゼレンスキーの友人アンドリー・イャコブレフが最終的に所有していたジメンティアノ・ホールディングスという会社も、コロモイスキーのプリヴァト銀行のキプロス支店の口座に75万ドルを受け取っている。この資金はSVT Films Ltd.から "中間配当金の支払い "のために入金されたものだった。

OCCRPは以前、キプロス支店がコロモイスキーとそのパートナーによる銀行からの数十億ドルの窃盗容疑において重要な役割を果たしたと報告している。コロモイスキーのパートナーであるボホリウボフは、記者団が両氏に送った質問への回答を拒否した。

ゼレンスキーが反オリガルヒキャンペーンを推し進めるなかでも、彼の誠実さを疑い続ける者はいる。その中には、2019年にゼレンスキーによって国の最高検察官に抜擢されたものの、2020年初めにその職を追われたルスラン・リャボシャプカがいる。彼はOCCRPに対し、これはオリガルヒのコロモイスキーからの圧力によるものだと考えていると語った。

「大統領はオフショア企業を所有すべきではない。一般的にオフショア企業は、それが大統領の所有であろうとなかろうと、悪いものだ。」とリャボシャプカは語った。

リャボシャプカは、ウクライナは "法の支配がない "危険な国だと思われていたため、海外に資金を移動させることは "昔からの伝統 "だと語った。しかし、それでも今日、このような企業を利用することは、「脱税や汚れた資金の合法化」という危険信号を発している、と彼は言った。

「それがオフショア企業の本質だ。」

翻訳補佐的に参考にした記事:GQ「ウクライナの大統領になったコメディアン。ウォロディミル・ゼレンスキーはどのようにして“物語”を支配したか?」

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