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初めまして。ライフスタイルジャーナリストの吉野ユリ子です。ファッション誌やウェブマガジン、企業のPR誌や広告などで、「書く」ことを中心に仕事をしています。

これまでアメブロで毎日のことを書いてきましたが(それも続けるのですが)、それとは別に、ここでは私が仕事をしてきた中で「聞く・引き出す・捉える・発見する・書く・伝える・届ける」ために何をしているか、ということを自分なりにまとめていきたいなと思っています。

既にそれぞれのスペシャリストの方が、もっと体系的に、あるいは専門的に語ってきた本や記事は世の中にあまたあると思いますが、もっと極私的なものとして、私個人が経験し、感じた事例を、丁寧に紐解いていくつもりです。よろしければたまに覗きにきてください。そして皆さんのやり方も、伺えたらとても嬉しいです。


初回にふさわしいかどうか、今回のテーマは「着るもの」。ちょうど昨日ブログで取材時の服装の話を書いたところ反響があったこと、昨日フリーランス協会主催のウェビナーで、パーソナルスタイリストのみなみ佳菜さんによる「もう一つの名刺としての装いの力」という講座を受けたこと、さらに一昨日発売の25ansで担当している、植松晃士さんの連載が「外見で誤解される」というテーマだったことから、これは今書くべき、と。

毎朝クローゼットを開けて、「今日何を着よう」と考える時、まず浮かぶのは天候ですが、次に考えるのが「誰と会う日か」ということ。多い日は3つ4つのアポがあることもありますが、何か1つを軸に、他のアポにも無理のない範囲で服を選びます。

優先しているのは「初対面」の人、そして「取材」の相手、特にその方の人格や人生にまつわるお話を伺う人をその日の軸にします。それは、限られた取材時間の中で、相手の方に十分「心」を開いてもらえなければいい結果につながらないから。問い方や声、相槌、表情、いろんなものが助けてくれますが、「服装」も重要。事前の企画書で、ある程度のことは伝えてあっても、多くの場合、初対面の取材対象の方は、私の情報をほとんど持っていません。媒体情報(テイストや読者層)さえあまり把握していないこともあります。一方、こちらは相手の方のことを可能な限り調べています。ご本人が忘れたいことまで知っていることもあるでしょう。つまりインタビューを受ける方は、どこの誰かもわからない人に丸腰で向き合うことになるわけです。取材を受諾している以上、警戒はしていないまでも、誰だって情報の見せ加減は考えます。だからまず、できるだけこちら(私や媒体)の情報を開示します。それは「あなたを決して悪いようにはしない相手である」という情報でなければいけません。味方であること、共通する価値観を持っていること、あなたの話に十分な関心や基礎的な知識は持っているということ、など。言葉でそれを伝えるチャンスもあるかもしれませんが、ファッションもそれを助けてくれます。

例えば堅いビジネスの話を聞く時にラブリーなワンピースでは、「この人に話してわかるだろうか?」と重要なことを端折って話そうとするかもしれません。とはいえ、若い女性のファッション誌の取材なのに、老舗企業の方だからとこちらがオーソドックスなビジネススーツで訪問したら、相手は媒体特性を忘れて込み入ったビジネストークに傾いてしまうリスクもあります。その逆も然り。ファッション業界の人に「この人にファッションの話して理解できるか?」若い方に「こんなおばさんに言ってもなあ」、取材を受け慣れない一般の方に「こんなすごい媒体の人にこんな話してもつまらないと思われるかも」などと思われないか、と、心を開いてもらえる可能性を阻害する要因をできるだけ排除する装いを意識します。

写真がモノを言う取材の時は、スタジオの雰囲気にも合わせます。シャープな雰囲気のスタジオ、ヴィンテージっぽいインテリアのスタジオなど。スタジオ選びは企画全体の目指すゴールと大きく関わっているので、服1枚でも、的外れな情報にならないに越したことはありません。ロケや移動の多い撮影で、編集者として現場の仕切りも担っている場合は、動きやすさ、靴の脱ぎ履きのしやすさも重要ですが。

ずいぶん前にタレントのベッキーさんを取材した時、黄色系のヴィンテージ調のワンピースを着ていったところ、取材ではジャラジャラとたくさんつけたカラフルな携帯ストラップを見せてくれたり、「黒はお悔やみの色だから、衣装が黒縛りなどでない限り絶対に着ない」というお話をしてくれました。偶然かもしれませんが、私が黒いシャープな服を着ていたら、話すのを控えたかもしれません。

これもずいぶん前ですが、漫画家の桜沢エリカさんを取材したときには、お洒落できれいな色が似合う方というイメージがあったので、黄色や紫の幾何学的な柄のマルニのトップスを選んだところ、その日の桜沢さんの衣装もマルニ! スタイリストさんが選んだものですが、答え合わせをしたような気分になりました。スタイリストさんと息が合うことも、同じゴールを目指せている証拠なので、嬉しいバッティング。あんまりかぶりすぎているとちょっと気まずいですが(笑)。

コンサバ雑誌だけど今日の企画はぶっちゃけトークをしてほしい、という時は、ギリギリ攻め気味な服を選ぶこともあります。「その方にその媒体、そのテーマで取材依頼をした意図」みたいなものと、トンマナがずれないように。

こう考えてみると、取材の時、私が服で送っているのは「共有したいゴールの提示」かもしれません。私とあなたは対峙しているのではなく、短時間でも、読者に向けてひとつのメッセージをともに作るチーム、という気分で。

こんなにたくさん語ったけれど、とはいえ、インタビュアーはあくまで黒子なので、相手やスタッフの気が散るほどメッセージの強い装いは「悪目立ち」。誰も気づかない程度の、あくまでサブリミナルに訴えるような密やかな仕掛けとして。

さあ、明日はどんなゴールのために、何を着ていきましょう。

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