ドイツ語ディクション・母音編

歌うドイツ語における【母音】を扱います。

 ドイツ語と言えばやっぱり「子音」が特徴的だと思われる方も多くいらっしゃると思います。そもそもやたら多いし(“entschlossen“なんて一気に子音6個も並んじゃってるし)、とにかく唾飛ぶくらい子音を強く大きくたくさん、口先を激しい疲労に追い込みながらマッチョな破裂と摩擦をしてこそドイツ語である!みたいな印象を持たれがちですよね。

 でも、実はドイツ語こそ母音がめっちゃめちゃ大事なんです。
 ドイツ語の母音を一つ一つ理解し、然るべき方法で輝かせてあげることによって、ドイツ語の発音はもっと楽に、もっと美しく、もっとレガートに「乗せやすく」なります。また、母音を磨くということは、子音を響かせるための土台をしっかり作ることでもあります。母音の活かし方を知ることによって、口が疲れるとばかり思われがちなドイツ語も、効率よくラクに発音することが可能になるのです。

 ここでは、日本語話者に特に知ってほしいと感じるポイントを整理しました。私のこれまでの経験、ディクション教育の先進国であるアメリカ、その最高峰であるメトロポリタン歌劇場での訓練、また私が行っているオンライン・ディクションレッスンでの所感をもとにしています。
 もちろん需要に合わせて追記していきたいと思いますので、「ここに書いてないこの母音はどないやねん」というものがありましたら、どうぞお気軽にご連絡くださいね。(aoki.note◆gmail.comまで。◆→半角@)

このノートでは、
・基本的な読み方を既にご存知の上で、発音を更に磨いていきたい方を対象とした解説を行います。
音声学・IPA(国際音声記号)の力を借りて、母音を観察していきます。これによって、それぞれの母音を解明します。
・前半では、母音全般の仕組みを確認した上で、ドイツ語の母音を見ていきます。日本人が苦手とされる "u" と、知られざる [ə] の活用法に特に注目してみました。
・後半では、母音の種類を見分けるために欠かせない、単語構造の解説を行います。「接頭辞・接尾辞」の一覧など、便利な表をたくさんご用意しております(^^)

■ 早速ですが、執筆者からのメッセージ✍️
 IPA(国際音声記号)は、ディクションを体系化して考えるためには欠かせないものです。でも、IPAはあくまで発音を「外側」から眺め、比較するためのツールに過ぎません。自分の耳と頭と心を(!?)使って、記号では表しきれない、その言語だけの特別な色を探っていくところに、ディクション探究の本当の喜びがあります。
 そして、IPAによって「正しい型」および「システム」を知ることは、その探究を切り拓いてくれる大事なステップです!というわけで、張り切って見ていきましょう😆

◆ 母音のキホン

さてさて、まずは母音のキホンからです。この記事ではこれをベースに解説を行いますので、できれば読み飛ばさないでくださいね。

① 母音はどうやって作る?〜母音のレシピ〜

世の中、色んな言語の色んな母音がありますけど、それぞれの母音を定義づけるものってなんでしょう?母音は、主に3つの要素によって定義づけられ、分類されます。

① 唇が丸められているか否か
 (円唇、非円唇 の2パターン)
② 舌のどの部分が一番高くなっているか
 (前舌、中舌、後舌 の3パターン)
③ 空間はどれくらい広い/狭いか
  =舌はどれくらい高い/低いか

 (狭、半狭、半広、広 の4パターン) 

文字だと分かりづらいので、以下の図をご覧ください。

画像13

母音は、この3つの要素の組み合わせによって区別されます。

※ 厳密に言えば、母音の成り立ちは声道全体の形によります。しかし、この記事では調音音声学の考え方(口の使い方、つまり唇と舌に注目した基準及び比較)に則った分類と解説を行います。

試しにいくつか母音を作ってみましょう。

【 非円唇 + 前舌 + 広母音 = [a] 】

唇が楽で、舌の前の部分が一番高くなっているけれど、舌の高さ自体は一番低い音。これはIPA(国際音声記号)で [a]、つまりドイツ語の a になります。Mann の a ですね。

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では、ここから一つ要素を変えてみましょう。

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