イタリア語ディクション・子音編

歌うイタリア語における【子音】を扱います。

 何気なく発音してしまいがちなイタリア語の子音。日本人にとっては、他の言語に比べると最もカタカナ(ローマ字読み)に置き換えやすく、ゆえに取っつきやすいのがイタリア語という言語です。でも、簡単そうに見えて、実は思ってたものと違うかもしれません。私自身、「なんとなく発音してたけど実は全然違った!」ということがたくさんあり、勉強を進めていく中で、「イタリア語は、実はほとんどカタカナに置き換えられない」ということを学んだのです。

 ここでは、日本語話者に特に知ってほしいと感じるポイントを整理しました。私のこれまでの経験、ディクション教育の先進国であるアメリカ、その最高峰であるメトロポリタン歌劇場での訓練、また私が行っているオンライン・ディクションレッスンでの所感をもとにしています。
 もちろん需要に合わせて追記していきたいと思いますので、「ここに書いてないこの子音はどないやねん」というものがありましたら、どうぞお気軽にご連絡くださいね。(aoki.note◆gmail.comまで。◆→半角@)

このノートでは、
・基本的な読み方を既にご存知の上で、発音を更に磨いていきたい方を対象とした解説を行います。
「正しい」だけにとどまらない、ラクで美しくかつ効果的な発音を探ります。良いディクションとは、一番ラクに一番響かせるための方法です。
・そのために、発音の仕組みやルールを解説し、発音練習で実践しながら覚えていきます。
・前半では、音声学・IPA(国際音声記号)の力を借りて子音を観察し、日本語話者として具体的に何に気を付けたらいいのか、詳しく見ていきます。
・後半では、より歌詞を明確に伝達することを可能にする「子音の二重化」のルールについて解説します。

◆ 実はカタカナとこんなに違う!
 〜音声学から見るイタリア語の子音〜

カタカナに置き換えられられそうで実は置き換えられない、イタリア語の子音について解説していきます。

① ”f” と「フ」

突然ですが、日本語の「フ」は”f”ではありません。
じゃあなんなのかと言うと、日本語の「フ」の発音記号はこれです。ジャーン!

日本語の「フ」= [ɸ]

なんだか見覚えあるような…(こういう顔文字で → (ノ*ФωФ)ノ)
で、イタリア語の”f”はこれです。

イタリア語の”f” = [f]

何が違うのかと言いますと、作り方が全く異なります。

[ɸ] = 両唇音 = 両方の唇を使って作る
[f] = 唇歯音 = 上の歯と下唇の濡れたところで作る

(ちなみに、ドイツ語の”f”および”v”も[f]です)
イタリア語の”f”をうっかり日本語の [ɸ] にしないよう、唇と歯を使って発音しましょう。歯を使って摩擦するので、より少ない力で子音がよく飛びます。
この際、力一杯摩擦させようとして、顎や舌に力が入ってしまうことは避けましょう。響きの空間を潰してしまいます。歯は、唇の濡れたところに優しく添えるだけで十分です。

🦷[ɸ]にならないように、歯と唇を優しく使いながら発音してみよう👄
fiume, fumo, facile, fede

② ”gno”と「ニョ」

ニョッキってありますよね。料理の。これはイタリア語でgnocchiと書きますが、実はこれ、「ニョッキ」とは読みません。
日本語の「ニャ」「ニュ」「ニョ」とイタリア語の”gna”, “gnu”, “gno” は、異なる音なのです。
まず、IPAで見てみましょう。

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