夜空と宇宙の。

壮大な話をします。

夜道を歩いていました。街のなかはそろそろ美味しいご飯とお酒と笑い声で黄色く光る楽しい時間です。

私はせっせとお家へ向かっていました。寒いし、雪で足元が凍っているので、それはもう小さく素早く歩いていました。さむいさむい、帰ってさっき買ったワインが飲みたい。チーズ、あったっけ。はちみつでもかけようか。ほほ。うお、さっぶ。

すると、ある店の中から、小さな男の子がぽてぽてと一人で出てきました。

私は、おやまあどうしたのかしらと思いました。だってその男の子はとてもまるまるとした真っ赤なお顔で、ただただ上を見上げながらふらふらと出てきたからです。

そして、その子は、目を大きく開いて、小さな腕をまっすぐ上に上げて、人差し指をぴしりとつきだして、叫びました。

「みてーーー!!!!

うちゅうが、あったーー!!!!」

。。。ええええええ!

その子のあまりの迫力に、私もすぐ上を見上げてしまいました。

でもいつも通りのよく晴れた夜空です。少し小太りの月が光っていて、よくみると遠慮がちに星が散っているだけの、街中の薄い夜空です。後からすぐに、お母さんらしき女性が「ほれ、寒いからね、中はいるよ。」とその子を連れて戻っていってしまいました。

宇宙が、あった...。

私はしばらく考え込んでしまいました。たしかに、言われてみれば、夜空は宇宙だ。でも私にとって普通、夜に空を見上げたら夜空だ。夜空は、窓から見る景色であり、時間を確かめる基準であり、どこか遠い場所にいる誰かを想う空間だったり、つまりは私の日常の一部だ。そして宇宙と言われたら、科学とか、哲学とか、なんだか難しいことを思い浮かべてしまう。少なくとも私にとって日常ではない。それをこの子は、こんな薄い夜空を「宇宙」と呼び、しかも、「あったーー!!!!」である。なんてことだろう。あの、でかいでかい、終わりのない宇宙を、まるでチョコボール見つけましたみたいに「あった」と言うのか。強い。この子は多分偉大になるわ、お母さん、やったね、大事に育てるんだよ。

そして、また私はてくてく夜道を歩きます。歩きながらなんとなく気付くのです。そうか、同じ夜の空でも、私にとっては夜空で、彼にとっては宇宙があるのだな。私は夜空の下で時間を気にしたり、誰かを気にしたり、足元の氷で空にすら気づかないこともあるわけだけども、一方で彼はただ目の前に広がるものを「ある」として、宇宙にダイブしちゃっているわけだ。そういえばそんな無謀さ、小さい頃もっていたような気がするな。すごく素敵で感激してます。

この世界、人それぞれなんですね。誰にとっても紛れもない本物。私の夜空だって本物。でも彼の本物は、ほんとうほんとうに綺麗だと思いました。

そしてみんな近くで暮らしてる。
なんて良き夜でしょうか。ワインをあけます。

追記: このお話を読んで、お友達が曲を作ってくれました...!! https://youtu.be/UmSKlE3gcLc

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