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【短編小説】料理の原動力


料理を作る事は嫌いじゃない。
ほぼ毎日作るようになっても、その事実に変わりはない。


だけどどうしようもなく、やる気が湧かない時があるのも事実。

仕事の残業が続いた日や、体調が悪い日。
様々な要因はあれど“こういう日は1番やる気が湧かない”という日がある。

それは、自分だけの為にご飯を作る日だった。

『自分の体のためにもしっかり食べることが大切』
なんてそれっぽいことを自分に言い聞かせてみても、やる気が出ないものは仕方がない。


私がどうして急にこんなことを言い出したかって?
それは、今日がまさに“その日”だから。

私と夫の仕事が休みであるはずの今日。
私は夜ご飯を1人で食べなければならない。

夫の仕事が忙しく休日出勤になってしまったようだから、仕方がない。

仕事が終わるのは23時を過ぎるようで
「先にご飯、食べといて」
そう言って仕事に出かけた。

「何か食べたいものある?」
言葉を投げかけたが、
「なんでも!」
と言い残し玄関の扉が閉まった。


『なんでも』か。
よく受け取れば、何を作っても文句はない。
悪く受け取れば、何を作ればいいのかわからなくてとても困る。

「今食べたいものないしな〜……何を作ろう」
口に出して問いかけて見るが、誰もいない部屋では答えが返ってくるはずもなかった。


ソファに横になってSNSをぼーっと見ていると、17時を過ぎていた。
ソファに沈み込んだ体を起こし、洗っておいた食品トレーと牛乳パックをエコバックに詰め込んだ。

「ペットボトルは……明日でいっか。」


スーパーへ向かい途中、まだメニューが決まっていないことに気がつく。
なんでもいいから料理を思い浮かべようと試みると、1週間前にカフェで食べたチキンが美味しかったのを思い出し、今夜のメニューが決定した。

え?先週も食べたのに2週連続になるって?
だって、『なんでも』って言ったじゃない。

スーパーにつくと、真っ先にお肉コーナーに向かう。
以前、安売りの影響でお肉が品切れになっていて面食らったことがあるからだ。

鳥もも肉のパックは残り2つ。

「セーフ」
コレがないとまた考え直さないといけないところだった。

後は副菜用の野菜をいくつかカゴに入れてレジに向かう。
全部で1200円
少々ズッキーニの値段が高かったが、その分ナスがたくさん入っていたから、まあ良しとしよう。


家帰って、早速調理開始。
1度休憩するとそのまま寝てしまいそうだからね。

鳥もも肉を広げ、脂身や硬い部分を取り除く。
さらに筋を包丁でとるが、コレがまた厄介だ。
筋を抑える指は滑るし大切な身が一緒に取れてしまう。

「この作業、本当面倒なんだよな……」

自炊を始めてした時にはこうやって丁寧に下処理をしていた。
ある日、面倒に思って下処理をほとんどしないまま調理に使ったが、そこまで食感や味に違いを感じず、あの時間はなんだったんだと思ったことがある。

面倒なことには、それに見合った対価が必要なんだ。

本来、今日は1人で食べる夕食。
だけど夫の分を用意をするならと、今この超面倒な下処理をおこなっているわけだ。

いつも味に正直な感想を言ってくれる夫だが、この下処理をしてないからと言って夫が何か言ったりするとは思えない。

それでも疲れて帰ってくる夫を待ちながら作る夕食は、時間が掛かっても下処理を丁寧にしようとやる気を起こさせる。


「この家に帰ってくることが夫の楽しみになってるといいな。」


私は、大切な人のことを思い浮かべながら作っている時間が1番好きだ。

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