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広尾の思い出とスイスの保険

そういえば、と思い出した。

20年くらい前、私は、広尾にある一軒家で数人の外国人と暮らしていた。

というと、かっこいい感じだけど、実際はネズミやゴキブリが出るボロ屋で、英会話の先生、水商売の子数人、金融会社に働くエリートオージー、音楽関連の仕事の日本人、しらぬ間に同居人のものをくすねていくと警戒されているアジア某国の子、大使館職員、とかいろんな種類の人が入れ替わり立ち替わり入居しては出ていく、「外人シェアハウス」の一部屋に住んでいたのだった。

一時期、スイス人の女の子もそこで生活していたんだけど、なんだかちょっとイカれた女子で、英語の先生をやってるらしいのだが、発音の訛りはひどいし、行動も生活スタイルも胡散臭いような、危なっかしいような子でした。

なぜか、わざわざ共有のリビングに、水を張った洗面器を持ち込み、椅子に腰掛けて、よく、足裏にヤスリをかけてた。
それを見た、イギリス人の子が激怒してたな。あっちの国では、そういうことを人前ですべきではないのだ、ということを知った。

ある時、そのスイス人の子は、なんだか憤った様子で、リビングで足裏をガシガシやりながら、「もう日本からは出るんだ」と言っていた。

「もうコリゴリ。お母さんに話したら、いい加減に帰ってきなさいって言われたわ。美しい自然も、きちんとした保険システムもある、スイスに戻って来なさいって言われたの。もう日本には懲り懲りだわ」

なんて言いながら、足をゴシゴシ。
イギリス人の女の子が出て来て、共有のリビングで足裏のケアなんてやめて、と怒っても、「ふーん、知るもんか!」と言って、中指を立てている。

あまりよくないと言われていた、イギリスの保険システムのことをなんとなく知っていた私は、「日本のシステムってそんなに悪いのかな」なんてぼんやり考えてたんだけど、そっか、彼女は出ていくのか、ということにホッとしていた。

日本の保険システムよりも良いとすると、スイスの保険システム(もしくは、彼女は医療のことを言ってるのかもしれないけど、)って、そんなに良いものなんだろうか。と、漠然と思いを巡らせていた。

そして、今、私はそのスイスにいる。けど、彼女と彼女のお母さんが言っていた、素晴らしいスイスの保険システムがなんなのか、まだわからん。

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