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≪わたしごと67≫私の膨大な遠回り計画

私はロンドンでコンサベターというお仕事をしている。来年帰国予定で、日本でも保存修復のお仕事がしたいと思い、去年からリサーチを始めた。

いきなりまずぶち当たったのが、そもそも保存修復の分野自体があまり普及していないという事実。国立の美術館でも修復室があるのは数えるくらいである事。それでは、誰がどこで美術品の修復をしているのだろう?当然ながら、ものがあるという事は劣化し破損するわけで、誰かが修復または修理しているはずである。

NPOの方、美術館の方、大学の教授、保存修復の学生さん、文化庁。。去年の一時帰国の際に少しずつお話を伺い始めた。そこで何となく分かってきたのは、日本には保存修復のマーケットが存在しない事、多くの美術館は国立であっても修理修復は外注するという事、あまり保存修復の倫理の部分は大学で教えられていない事、政府は保存修復師を美術館・博物館に増やす予定は現在無い事。

私が出来る事って何だろうと考えても、何をどうしたら良いのかすぐにはわからない。でも何かしたいと思った。何故なら、ロンドンで経験した大英博物館のインターンとVictoria&Albert Museumでのお仕事は、最高に楽しかったからだ。コンサベーションって本当に面白い。私はそれに意味があると思っている。

普及していないという事は、価値を人にお伝えしないといけない訳で、そうすると教育普及となって来る。共感してもらう、価値を理解してもらうと言っても、ファンドが巡らないといけないので、そうすると企業やNPOだろうか。でも、お金を企業が出すという事は、それだけの価値が企業にとってもあるという事で、その価値って何だろう?そう考えると、そういった活動をサポートしているという事を人々が支持するという事に辿り着く。

でもそもそも、人々がそれを支持するという事は、価値を理解しているからで、人々がそういった文化や文化財を守る事、将来に繋げて行く事にこころから価値を見出すには、どうしたらいいのだろう?とぐるぐる考えると、最終的にこどもの教育に行きつく。

こどもの教育、でもそれって彼らが大人になるまで10年、20年かかる。。大人とこども同時に出来ないものか。ここまでくると、始まりは保存修復の普及だったのが、要は私たちは私たちの文化や文化財をどう考え、どう生きていくかが課題になってくる。私たちはよく生きたい。その "よい" が何であって、どう実現するかを考える事がセンターにある様な気がする。

コンサベターは、美術品や資料を保存修復するお仕事だけれど、保存しているのは、ものその物自体では無いと私は思っている。そのものの持つ "価値" を保存している訳で、その価値の所在はとても主観的だ。なので、そのものに関わる人たちが、対話する必要がある。何が守るべき文化で、どれを変えていくべきなのか。何をどうして保存したくて、それをどうしたいのか。その合意があって、どうそれを実行し、実現するか。

それは一人一人の "よく生きる" の "よい" が主観的で、一人一人の経験や文化に根差しているのと似ている。でも、それらを対話を通して、何がこの時点での最善かを考える。コンサベターが実行する修復手段で、絶対的な唯一の解は存在しない。何故なら未来は分からないからだ。いつも、the best option at the time その時の最善、better option より良いオプションだ。

日本での保存修復を考えて、そこに何か貢献出来るために、なにやら膨大な遠回りをする様になりそうだが、なんだか楽しいかも知れない。たくさんの素敵な人に出逢えたら良いなと思っている。

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