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人とのつながりが、この世界をまた美しくするー「WAVES」

気づかぬうちに自分を責めていた、そう気づいたことが今までに何度もあります。嫌な思いをしている友達を助けかれなかったとか、正直な気持ちを言えなかったとか。そういった出来事がずっと心のどこかにあって、知らず知らずのうちに、いつまでも自分を苦しめている。それは誰しも経験のあることではないでしょうか。

『WAVES/ウェイブス』ポスタービジュアル

映画「WAVES」では、自分の未熟さや他人を救えなかった後悔と向き合う過程を、兄タイラーとその妹エイミー2人の視点から描いています。
前編と後編でタイラーからエミリーへ視点がスイッチし、撮影手法や音楽の系統もガラリと変わります。まるで違う映画を見ているのかと錯覚するほどでした。

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エミリー

前編で描かれる順風満帆なタイラーの学生生活は、父親からのプレッシャーによって崩壊の一途を辿っていきます。
「もしあの時こうしていたらタイラーを救えたのに」
事件の後、家族の誰もがそうつぶやきますが、それは自身と他人への「赦し」へと続く長い道のりの始まりでした。


他人の人生に向き合うなかで、
自分の過去と対面する

事件の後、家族の心はバラバラになってしまいます。しかしエミリーはルークとの出会いによって心を開き、彼と過ごす中で過去を消化していきます。その中で彼女を突き動かす大きなきっかけとなったのが、ルークと彼の父親のある出来事でした。

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幼い頃から恨んでいた父親が、ガンで余命幾ばくもないとの知らせを受け、ルークは彼に会いに行くことを決意します。そこでふたりが目にしたのは、死の淵に立ち、後悔に苛まれる弱りきった父親の姿でした。
エミリーの目に映った、父親の最期を看取るルークの行いは「赦し」そのもの。この出来事をきっかけに、エミリーは自分と家族の物語を再発進させようと、彼女はまたペダルを漕ぎ始めます。


音楽はもう一つの脚本
奏でられる、こころの機微

本作では、Frank OceanRadioheadをはじめとする、アーティストの楽曲から脚本が作られたというほど、音楽に重点が置かれています。終始この物語に流れる豪華なプレイリストはもちろん、音楽とまでは呼べない音階や突如おとずれる無音もこの作品の大きな魅力で、それによって登場人物の心境を垣間見ることができました。

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サブ②

例えばエミリーが、のちにボーイフレンドとなるルークに話しかけられ、デートの約束を交わすシーン。
ピアノの単音と和音が交互に紡がれるのですが、2つの音が歩み寄って一つになることで、ふたりの心が徐々に近づいていることを示唆しているようでした。


人とのつながりが、
この世界をまた美しくする

人と人が紡ぐ関係。そこに差し込む光が暗闇を照らし、それに導かれて人はまた前に進むことができる。
それがエミリーの姿を見ていて感じたことです。

「人生には浮き沈みがあり、人とのつながりがこの世界をまた美しくする。
暗闇の先にある景色はとても美しい」

監督のトレイ・エドワード・シュルツがEMPIREのインタビュー記事でそう語っているように、この作品は希望を信じて生きるすべての人を、強く支えてくれると思います。

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サブ➀

作品のなかで時折映し出される、いくつかの色が混じりあい違った色へ変化していくグラデーションは、まさに移りゆく人生を表しているようです。
暗い色に染まる時もあれば、眩しいほどビビッドな色になる時もある。新たな色の世界へ導いてくれるのは、自分以外の誰かとの交わりなのだと、そんなメッセージを受け取りました。


『WAVES/ウェイブス』
4月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.


この記事は、映画Webメディア「OLIVE」にも掲載しています。
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