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『僕と私の殺人日記』 その18

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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日はまだそこまで傾いておらず、強烈な陽光が降り注いでいた。夏の暑さを帯び始めて いた日差しが、草木や家々を皆平等に焼いている。田植えの終わった田んぼに光り輝く水が、青い苗の成長を応援していた。

しばらく走っていると、田んぼ道の途中に大きな木が一本だけ生えていて、生い茂った 木の葉が影をつくっていた。そこでしばし休憩することにした。

すると、遠くの方から白黒の車が走って来た。車の屋根には赤いランプがついている。 間違いなくパトカーだった。 心なしかこっちに向かってきている。

リナちゃんの顔が強張る。どうしようか悩んでいるようだ。 道を飛び跳ねている蛙を見て、リナちゃんは何か決心したらしく蛙を素手で掴んだ。

手のひらから蛙の柔らかい感触を感じる。 畔に向かったリナちゃんは蛙を電気の柵に投げつけた。バチッという音がして、空中で手足をピクピクさせながら蛙は田んぼへ落下した。

蛙が水面から消えるのと同時に、ぼくは最悪の表舞台に立たされた。また都合が悪くなりそうだから、ぼくと交代したのだ。 面倒を押しつけられて、ぼくの心は怒りと悲しさで爆発しそうだった。 そんなぼくをよそに、無慈悲にもパトカーがそばに止まる。

「おや、こんなところにいたのかい? ちょうど君を探していたんだよ」

こわもておじさんがパトカーから降りて話しかけてきた。まるで不審者を見るような目つきをしていた。

「君は武富ユウちゃんだよね? この村の住民票を確認していたら、その中に『武富ユウ』 という名前は無かったんだよ」

「・・・」

やっぱり気づかれた。ぼくは黙ることしかできなかった。

「それで武富家に行ったんだけど、『ユウ』なんて子供はいないとそこの家族は言っていたよ」

おじさんはゆっくりとした口調で話す。住民票を持ってきてペラペラめくる動作が怖かった。

「でも、『武富リナ』という女の子はいるというんだ。君と同じくらいの年齢だ。ほら、住民票にも名前がある。それでその女の子に会おうとしたら、家にいなかったみたいなんだけど・・・」

首をじわじわ絞めつけられる気持ちになった。おじさんの言葉一つひとつが苦しくて、 逃げ出したかった。

「君は武富リナちゃんだね? なんでウソの名前を言ったのかな? もしかして、あの目 撃証言もウソだったんじゃないよね?」

もう言い訳できなかった。何を言っても信じてもらえそうになかった。 ポケットには凶器のナイフが入っている。刃についた血を調べられれば、ぼくが犯人だと確定してしまう。暗い牢屋に入れられて、だれとも会えないまま、一生を過ごすところを想像した。孤独なまま、惨めに死ぬ。 そんな寂しい死に方は嫌だ・・・。

「あれれ? ユウちゃんどうしたの?」

泣きそうなぼくの背後から聞き覚えのある声がした。振り向くとユイカちゃんが立っていた。 ぼくは驚いた。なんでぼくの名前を? なんでこんなところに?

「んん? 君はリナちゃんのお友達かな?」

こわもておじさんが不思議そうに聞く。

「うん。樫内ユイカだよ。ユウちゃんの友だち!」

ユイカちゃんは元気に答える。

「樫内ユイカ・・・確かに住民票に名前があるな。それにしても『ユウちゃん』ってどうい うことかな? この子の名前は『リナちゃん』だろ?」

「うん、そうだよ。『ユウ』はリナちゃんのニックネームなの。好きなアニメのキャラの名前をつけて呼び合っているんだよ! ちなみにユイカは『アサ』!そうだよね? 『ユウ』 ちゃん?」

「う、うん。そうだよ、『アサ』ちゃん」

警察官たちは納得したのか、鋭かった目つきがやさしくなった。

「なるほど。じゃあ、あの時は間違ってニックネームの方で言っちゃったわけか。確かに苗字の方は合ってたしな。次からは間違えないようにしないと、みんな混乱しちゃうから気をつけるんだぞ」

「ごめんなさい・・・」 ぼくが謝ると、おじさんたちは満足そうにうなずいた。

「ところで、ユイカちゃんだっけ。君の苗字、『樫内』だけど、まさか・・・」

「そうだよ。それがどうかしたの?」

ユイカちゃんは首をかしげて、元気に答える。ぼくはそれがなんとなく怖かった。雰囲気に、言葉では表せられない気迫がこもっているように感じた。

「い、いや、なんでもないよ。それでは」 おじさんたちは憐れむような顔をして、町の方へ帰って行った。

「恐そうなおじさんだったねー」

「そ、そうだね」

木の陰で涼みながら、ぼくたちはお話しした。そよそよ流れる風が気持ちいい。ユイカちゃんのおかげでぼくたちは助かったのだ。

「ありがとう、ユイカちゃん」
ぼくは心からユイカちゃんに感謝した。

「どういたしまして! さっきは危なかったね!」

「でも、どうして『ユウ』って・・・」

「あー、パトカーの後ろから話を聞いてたの。面白そうだから」

そういえば、そういう子だった。助けてもらったのに複雑な気持ちになった。

「ところでさ・・・」 嬉しそうな顔をしていたユイカちゃんは、突如、悪魔みたいな笑みを浮かべ、あること を問いかけた。

「おじいさんとおばあさんを殺したの、リナちゃんでしょ?」

「え?」


風が、止んだ。


続く…


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