『僕と私の殺人日記』 その10
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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武富家では、家族がそろってからごはんを食べるのが常識だった。遅れるとおかあさんのお説教が飛んでくる。そのため、日が沈む前に帰らなければならない。
ぎりぎり、晩ごはんに間に合ったリナちゃんは、ケーキをほおばっていた。昨日、あまり喉が通らなかったぼくは、出されたケーキを一カットしか食べていなかった。その残りを、入れていた冷蔵庫から引っ張り出して食べているのだ。
リナちゃんは好きな物を最初に食べるタイプのようだ。ぼくなら最後に残して楽しみに取っておく。動き回った後なのか、半分くらい残っていたケーキをペロリと平らげてしまった。
「こら! ごはん食べる前にケーキ食べるなんてダメでしょ!」
おかあさんが皿を運びながら怒ってきた。今日の料理は麻婆豆腐だった。辛そうな匂いがリナちゃんの鼻を突っつく。 ケーキを食べた後に辛い物、食べたくないな。 リナちゃんはそう思った。
それはそうだろう。ぼくも甘い口で刺激のある物は食べたくない。ぬるま湯から熱湯風呂に放り込まれた気分になる。
「食べなかったら、お小遣い無しよ!」
「た、食べる!」
さすがにリナちゃんのわがままも、おかあさんのお小遣いには敵わないようだ。満腹になっていたおなかに麻婆豆腐を流し込んでいる。その様子は面白かったけど、ぼくにも味や触感が伝わってきて、笑い事じゃなくなった。
映画みたいに光景を見ているわけではなく、リナちゃんが体験したことをそのまま自分にも感じてしまうからだ。リナちゃんの身体はぼくの身体でもあることを忘れてはいけない。
晩ごはんが終わって、お風呂に入る。昨日も入ったけど、裸になるのが恥ずかしい。ぼくは男だから女の子の身体が、見てはいけない禁断の領域に感じるのだ。見ないようにしようとしても、目から映し出される光景が有無を言わさず見せつけてくる。
でも、リナちゃんはぼくが見ていると知ってか知らずか、気にした風もなく身体を洗い出した。
長く垂れる赤茶色の髪。手から感じるリナちゃんの身体。柔らかくてすべすべしている。胸の辺りに手を伸ばした時は、ぎゅっ、と目を閉じて耐えた。それでも、リナちゃんの感覚がすべてぼくにも伝わってきた。 恥ずかしくて、恥ずかしくて、たまらなかった。
お風呂からあがったリナちゃんは自分の部屋に入った。ベッドの上に寝て、今日の疲れを癒す。枕元には折り畳まれたサバイバルナイフが大事そうに置かれていた。
まるで、宝物のように・・・。
疲れたのか、リナちゃんはすぐに眠った。
ぼくの前にリナちゃんが現れた。昨日と同じだった。どうやら眠っている間だけ、会って話せるらしい。この夢がぼくたち唯一の待ち合い場所だ。
「今日はありがとう」
ぼくはお礼を言った。
かけっこ勝負のことだ。もし、入れ替わらなかったら完全に負けていた。
「どおってことないわ。それにしてもあんた、弱虫ね。あんなやつ、ガツンと言ってやりなさいよ。ガツンと」
やっぱりぼくの考えていたことを聞かれていたようだった。失望されてしまっただろう か。そう思うと胸が痛くなる。
「でも、ちゃんと勝負を受けたところは見直したわ。あんた、やるじゃない」
「あ、ありがとう。あと、ぼくの名前はユウだよ・・・」
「ユウくんね。覚えておくわ」
よかった。悪く思っていないみたいだ。ぼくは安心した。
「それに、借りは返したから」
「借り?」
「顔についた血。泥を塗って誤魔化したのはあんたでしょ? それにわたしがミーちゃんを殺したのをだまってくれてたし。これでチャラよ」
あの時のことをリナちゃんは感謝していたようだった。
ちがう。ちがうんだ!
ぼくは胸の中で叫んだ。あれはリナちゃんを守るためにしたんじゃない。ぼくが怖かったからだ。だってリナちゃんがやったことは、ぼくがやったことになるから・・・。
勇気がなかった。本当はおかあさんに言うべきだった。ミーちゃんを殺してしまったこともあのサバイバルナイフのことも。田んぼに投げ捨てず、渡しておいた方がいいのに、 ナイフの存在をなかったことにしようとした・・・。
「もう、生き物を殺すのは止めようよ・・・」
ぼくは精一杯の勇気を振り絞り、あの惨劇を止めるように頼んだ。
「なんで? わたしはもっと殺すわよ。次はもっと大きいのがいいな」
「どうして・・・殺すの?」
「そんなの楽しいからに決まってるでしょ」
「ひどい・・・そんな理由で・・・」
「なに? 怖気づいてるの? 意気地なしね」
リナちゃんはあきれていた。それでもぼくは止めてほしかった。たった一つの命をもっと大切にして欲しいから。
「そうだ! 今度は人間を殺してみよう! きっと切り裂き甲斐があるわ!」
ぼくの悪夢はまだ、始まったばかりだった。
続く…
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