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『僕と私の殺人日記』 その3

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「ユイカ、鬼する!」

「じゃあ、わたしは隠れる」

二人しかいないので必然的にそうなった。隠れる役の方が楽だから、わたしには都合がよかった。ユイカちゃんはどこから持ってきたのか、おもちゃの刀をぶんぶん振り回している。

「それじゃ、数えるね。いーち、にー」

居間の隅でユイカちゃんは数をかぞえ始めた。おもちゃの刀は握ったままだ。わたしはとりあえず居間を出た。廊下を歩いてある部屋に行く。そこは現在、使われていない部屋だった。ユイカちゃんのおとうさんの部屋だ。わたしはよくこの家に来ている ので、間取りもだれの部屋なのかも大体、知っている。

部屋の扉側にある押入れを開く。
二段になっていて、下は段ボールや使わなくなった古いテレビなどが置かれている。上のスペースには布団が折り畳まれて収納されていた。その布団はユイカちゃんのおとうさんのものだろうか。わからないけど、わたしにはどうでもいいことだった。

わたしは迷わず押入れの上段に入り、布団を広げて枕を置いた。これでわたしの第二のオアシスが完成した。わたしはさっそくその上に寝転がる。ふかふかの布団が気持ちいい。

こうしていると、アニメで見た某ネコ型ロボットを思い出す。そのロボットも押入れの上で布団を敷いて寝ていた。 思わず顔がにやける。ロボットの方がいい環境で寝ているじゃないか。その場所で寝られない、主人公の眼鏡の少年が気の毒でならない。

そんなことを思っていると本当に眠たくなってきた。さっきおやつを食べたばかりだからだろう。瞼が重くなって、うとうとしてきた。

「もーいーかい」 数をかぞえ終わったのかユイカちゃんの声が聞こえた。

「もーいーよー」 わたしは返事をする。

そのせいでせっかくの眠気が消えてしまった。いいところだったのに。

「どこだー。殺しちゃうぞー」 とユイカちゃんの叫び声が聞こえる。声の感じからして、だいぶ見当違いな所を探しているようだ。目が完全に覚めたわたしはしょうがなく起きることにした。

目の先には押入れの天井がある。この中は薄暗くて、ふすまの隙間から漏れるわずかな光のおかげで、かろうじて視界が効いた。目が暗闇に慣れてくる。板で作られた天井には木目が川のように流れていて、時々、人の顔にも見えた。 じっと、木目の線を眺めていると、途中で途切れていた。押入れの端の辺りだった。気になったわたしは身体を起こし、そこまで行ってみる。

ふすまから漏れた光が途切れた部分に吸い込まれている。暗闇の隙間がおいで、おいで、と手招きしているように感じた。 近づいてそれを見上げる。天井の板が少し外れているようだった。わたしはその先がどうなっているのか興味がわいた。

かくれんぼのことなんてどうでもよかった。 隙間に手をかけて、板をずらす。思ったよりすんなり動いた。天井裏はどうなっているのかな。わたしは好奇心が抑えきれず、開いた天井に頭を突っ込んだ。暗い世界が広がっていて、いままで住んでいた世界とは別の世界に来た気がした。 光が拒絶され、何も見えなかった。板を外してできた穴は小さく、わたしの肩がギリギリ入らないくらいだった。

だから、奥に行こうとすればするほど、穴は身体で塞がれて、 光が入ってくれない。もどかしくなったわたしは手を伸ばして天井裏の様子を探った。腕を穴に突っ込むと、今度は頭が入らないので、下を向く格好になった。 腕を限界まで伸ばして周りを確かめていく。

とにかく暇なのだ。何かあってほしい。だけど手は宙を掴むばかりで、それ以外の感触は天井の板だけだった。何もないと考えて諦めかけたその時。手に、何かが当たった。 固いものだった。感触からして木のようだ。わたしはそれを掴み、引っ張り出す。意外に軽かった。ふすまの隙間に近づける。漏れた光でそれがなんなのか、わかった。

木で出来た箱だ。長方形の箱は紫の紐でしっかり結ばれていた。 わたしの好奇心は最高潮に達する。さっそく紐を解き、ふたを外す。現れたのは大きなナイフだった。柄の部分が黒く、小さい鍔もついている。刃がわずかな光を反射して、鋭く光った。

そのナイフをわたしは気に入った。不思議と手に馴染む。小学四年生のわたしには大きすぎるけど、運命の出会いのように感じた。


続く…



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