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『僕と私の殺人日記』 その2

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「見て見て。カメがいる。おっきいよ!」

「ホントだ! 土の中にいたのかな?」

緑色をした二十センチくらいカメが畦道をのそのそ歩いていた。それをユイカちゃんはどこから持ってきたのか、木の枝で甲羅をつんつんと突いている。 びっくりしたカメは甲羅の中に頭を引っ込めた。まるで、さっきまでコタツに潜り込ん でいたわたしみたいだった。

それを面白がったユイカちゃんは甲羅を枝でばしばし叩いた。わたしも叩きたかったけ ど、近くに枝がなくて残念だった。完全な防御態勢に入ったカメは微動だにしない。人間とカメの激しい攻防戦は、固い甲羅により枝が折れてしまったため、カメの勝利となった。

「つまんない!」 負けたユイカちゃんは不機嫌そうに、折れた枝を田んぼに投げ捨てた。

「ダメだよ、そんなんじゃ」

わたしはふて腐れたユイカちゃんに、カメの勝ち方を伝授した。わたしはカメの甲羅に手を向ける。

「じゃんけんと同じだよ。枝がチョキならカメはグー。勝つならパーでないと」

そう言ってわたしは手を広げ、甲羅を掴んだ。土から出てきたばかりなのか、ひんやりして冷たかった。そのまま腕を振り上げ、思いっきり田んぼに向かって投げる。カメはきれいな放物線を描いて、向こう側の畔へ消えていった。

「すっご~い。さすがリナちゃん! 運動神経すごいね!」

「これぐらい普通だよ」

友だちに褒められて、わたしは気がよくなった。勉強は苦手だけど、運動には自信があ る。学校の体育の成績では男子にも負けたことがない。それからわたしたちは適当にお話しした。でも、すぐに話題がなくなった。

「暇ねー」とユイカちゃん。 「暇だわー」とわたし。 わたしたちは畔の上に体育座りして、ぼーっと景色を眺めた。見渡す限り山と田んぼですぐに飽きた。 わたしはお空を見上げた。お日様はまだ頂点に達していない。時間はまだまだたっぷりあった。

「ねえ、ユイカちゃんち行ってもいい?」

「いいけど、何もないよ」

「それでもいい」

半ば強引に、わたしはユイカちゃんの家へ行くことに成功した。あそこに行くと、いつもおいしいおやつをごちそうしてくれる。せっかくの誕生日なのだ。おいしいものが食べたい。

ユイカちゃんの家は川沿いにある。川は村のど真ん中を横切る感じで通っていて、お米を作っている人たちにとっては、とても重要らしい。その川の中央付近にお目当てのお家が建っている。つまり、村の中心だ。

「小さな兵隊さんが十人、背中を刺されて、残りは九人♪ 小さな兵隊さんが九人、血を流し過ぎて、残りは八人♪」

元気よくユイカちゃんは歌いながら歩く。よくわからないけど、外国の童謡をアレンジした歌らしい。兵隊さんが一人ずつ殺されていなくなるという歌だ。一緒に歌おうと誘われたけど、楽しくなさそうなので断った。

「やっと着いた。さすがに暑いね、ユイカちゃん」

昼が近づき、日は強さを増す。冷え性のわたしも汗で服が蒸れていた。

「ただいまー。何か飲み物、頂戴」

「ちゃんと手を洗いなさい! あら、リナちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔します。おばさん」

玄関に入るとユイカちゃんのおかあさんが出迎えてくれた。おばさんはいつもおやつを出してくれる。やさしくていい人だ。 手を洗って居間に行く。テーブルの上にはシュークリームとオレンジジュースが乗っていた。わたしの大好物だ。

「やったー! シュークリームだ!」

「リナちゃん、今日、お誕生日でしょ? だから、作って渡そうと思ってたの」

「うれしい! おばさん、大好き!」

ユイカちゃんのおかあさんは料理がとっても上手だ。いつもこんなおいしい料理を毎日食べられるユイカちゃんはうらやましい。

「そんなに食べて大丈夫?」

シュークリームを口いっぱいほおばっているわたしに、ユイカちゃんが心配そうに聞いてきた。たぶん、お昼ごはんのことだろう。

「へーき。どうせ、お昼はそうめんだから」

うちは誕生日に何か買う分、ほかが貧相になるのだ。たった一日なのだからもっと贅沢すればいいのに、と毎年思っている。

「リナちゃん。何かして遊ぼ!」

「何がいい?」

「リアルかくれんぼがいい!」

「何それ?」

ユイカちゃんはいつも変な遊びを提案してくる。この前はどっちが多く蟻を踏みつぶせるかという遊びをした。正直、足が疲れるだけで面白くなかった。 結局、わたしが勝ったけど。

「えっとね、隠れた人が、鬼に見つかったら殺されちゃうの」

「それで?」

「終わり」

「・・・それ、面白いの?」

どうやら勢いだけで提案したらしい。だけどわたしもほかに何も思い浮かばなかったので、その遊びをすることにした。


続く…



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