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雑貨屋『このは』のお話。(その4)

 カウンターの上に個性豊かなお皿やカップが並ぶ。ポスターを作るために、私ともみじさんが選びだした逸品だ。どれも紹介したいものばかりで、なかなか絞り込むことができない。本当は全部ポスターに載せたいと思うほど、魅力的だ。けれど数が多いと、その分、写真も小さくなってしまい、魅力が伝わらない。
「どうしたものでしょうか……」
 もみじさんも腕組みをして悩んでいる様子。自分と友達とで一生懸命作ったものであれば、なおさら想いは強いだろう。何かテーマや枠があれば、決めやすいのだけれども。
 私は薄紅のカップを手に取り、じっくりと観察する。
「ねえ、もみじさん」
「なんですか、里子さん」
「このカップの底のところにある印って何ですか?」
 私はひっくり返したお皿を見せる。
もみじさんはちょっぴり恥ずかしそうに笑って言った。
「それ、私達のサインなんです」
「サイン?」
「私達は普段、自分のナワバリに臭いや傷をつけて、そこが自分のものだって印を付ける習性があるんです」
 ああ、いわゆるマーキングってやつだ。犬とか猫とかが、おしっこしたり体をこすりつけたりするあれだ。
「だから自分が作ったものにも、何かそれが自分のものだっていう印をつけずにはいられないのです。例えばそれは、あなぐまさんの鼻の跡です」
 そう言われて見れば、動物の鼻の先を押し付けたように見える。
「そしてこれはきじさんのくちばしで、これはうさぎさんの足跡ですね」
 なるほど、裏のサインを見て分類してみると、作者それぞれに個性があるのが、素人の私にも見えてくる。
「ところで、もみじさんのサインはどれなんですか?」
 すると、もみじさんは、いつもの何倍ももじもじしながら、小さな花瓶を差し出した。それは私が最初に買った物と色違い(椿の葉を思わせる艷やかな深緑)の一輪挿しだった。
 受け取った一輪挿しの裏を見ると、そこには一枚の葉っぱのような模様が描かれていた。
「それ、私、爪で彫ったんです。なかなか上手にできなくて、変な葉っぱになっちゃう事もあるんですけど」
「ってことは、私が前に買ったのって、もしかして……」
 もみじさんははにかみ、頷いた。

ーーああ、やっぱり!

 私は思わずもみじさんを力いっぱい抱きしめそうになった(きっとものすごく驚かせてしまうから、自重したけれども)。

 改めて思う。私ともみじさんは、きっと巡り会うべくして巡り合ったのだ。

 私はますますこの雑貨屋『このは』ともみじさんが大好きになった。

つづく。

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