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新型コロナウイルスはなぜ進化が早いのか仮説&考察

この記事では、仮説を含め、新型コロナウイルスの進化速度について考察していきます。

進化の原動力である変異が起こりやすい理由(仮説)

変異しやすい要因として考えられるのは
・同時流行数がかつてないほど多いので変異の期待値が大きい
・感染力が元々強いので、多少の不利な変異も許容される
  → 遺伝子プールが多様化しやすい
  → 人間にとって致死的な変異(強毒化)も、死ぬ前に感染できるなら淘汰されずに残る
・感染力が強いため通りすがり感染ができ、異なる集団を渡り歩ける
  → 有用な変異も含めて遺伝子交換が頻繁に起こる
・感染力が、都市丸ごと単一のクラスターとみなせるレベルに高い
  →遺伝子プールが極めて大きい
・同時流行数が多いので、形質変化がほとんどない、ほぼ中立な変異(プチ変異)が多い
  → 変異株スクリーニングは全ゲノム解析ではない。微細な変異は見つけられない
  → 少々不利な変異であっても、感染力の底力が高いので生き残れる
  → すぐには役立たない変異も他の変異と混ざると生存に有利になるかも
  → プチ変異は隠れた才能。他の才能と出会うことで急激に開花することがある
・同時流行数が多いのでプチ変異が混ざりやすい
  → 交雑の機会と生き残り先が多い

・感染力が高い(実効再生産数が高い)と、流行数の母数が大きく、多様性を保てる
・さらに、感染可能期間が長いので後発組の変異もデビュー可能
  → 変異した直後は感染者体内でもマイノリティなので他者感染率が低い
  → 他者に感染しても、集団に定着できるかは運次第
  → 感染の実数・機会が多ければ、マイナー変異もメジャーデビューできる
  → 実質的に、遺伝子に対するボトルネック効果が起こりにくく、しっかり進化できる

ちょっと画像一枚でもまとめておきます。こっちの方が見やすいかな?

コロナウイルス感染シミュレーション_変異の秘密1

コロナウイルス感染シミュレーション_変異の秘密2


プチ変異

プチ変異は僕の造語です。生物学的な「非表現突然変異」「サイレント突然変異」とよく似ていますし、ほぼ一緒なんですが、意図するところというか集団内での遺伝子としての文脈としては異なることを強調するためにあえて違う語を使っています。きちんと集団遺伝学の文脈で考えられる方は「集団内の遺伝的多様性という価値だけはある、ちょっと不利な場合も多い、一塩基単位のサイレント突然変異」という風に理解してください。

コロナウイルスのようなRNAが変異しにくいウイルス種では、変異自体が稀とされています。さらに、コロナウイルスは変異を修復する機構もあるとのこと。こういう、「遺伝子が保守的なウイルス」においては、突然変異による進化は難しいはずです。

しかしながら、コロナウイルスはRNAウイルス中でもトップクラスの約3万塩基をもつウイルスでもあります。変異の期待値自体は大きいのです。

さて、保守的であるために進化しにくいはずのウイルスが変異を蓄積するためには、一旦起こった変異は大切にとっておく必要があります。仮に、100兆分の1の確率で変異が起こるとしましょう。一人の人間の体内に存在できるウイルス数を1兆個とするなら、確率的には100人の感染者がいればその集団内で1塩基変異が、一個だけ起こることが期待できます。

本来、変異ウイルスには発生直後から強烈な不利条件が存在します。それは、変異が生じたころには既に人体内で原種タイプが多数派になっており、利用可能なリソースがほとんど残っていないことです。

コロナウイルス感染シミュレーション_マイノリティは定着しにくい1

いわば、老舗企業が市場ニッチを独占し、新興ベンチャーは入り込むことができない状態です。運よく感染後中期に発生できても、せいぜい市場の30%をとれれば御の字です。

コロナウイルス感染シミュレーション_マイノリティは定着しにくい2

さらに、少数派であると、次の感染時にはボトルネック効果で消えてしまう可能性が高くなります。

しかし、新型コロナウイルスは
・感染初期から治癒後しばらくまで長期間感染チャンスがある
・感染力が高く、変異ウイルスにもけっこうチャンスがある

といえるでしょう。これは、多少不利な変異であっても許容できるという特徴がある戦略です。つまり、コロナウイルスの感染戦略には多様性を維持する仕組みがあるのです。

こうして社会に出たウイルスの変異を「プチ変異」と仮称しましょう。こうしたプチ変異は、それだけでは大して貢献しません。むしろ、変な変異で無用どころか不利かもしれません。しかし、こういった変異が少しずつウイルス社会に定着していくと、遺伝子交換ができるようになります。アメリカで発生したA変異とブラジルで発生したB変異が合わさったC個体、さらにデンマークで発生したD変異とエジプトで発生したE変異が合わさったF個体という風に少しずつ変異を蓄積できます。

これらは、遺伝子として有効になるまでは目に見えません。PCRスクリーニングは全塩基検査ではなく、特異的なプライマーを用いた指標領域の検出です。プチ変異は、人間の目をすり抜けてウイルス社会に少しずつ蓄積する目に見えない遺伝的資産というのが、僕の仮説です。

そして、どこかの時点で十分な変異を持ったウイルス同士が出会います。こうして新たな、そして極めて危険な変異が生まれます。このモデルの場合、ある程度集団内にプチ変異ウイルスが蓄積していれば複数個所で同じような変異が起こりうる可能性があります。

一旦有利な変異を持てば、その個体は自然淘汰によってたちまち主流になりますが、それまでの間に既にかなりの変異が集団内に蓄積されるのではないかと言い換えることもできます。

コロナウイルスは、こうした遺伝子交換が起こりやすい要因を沢山持っています。
・症状が出る前に感染可能
・通行人同士、他地域を通過しただけで感染可能
・感染力自体の底力が高いのでクラスターも大きくなりがち

まとめ

高い感染力と長い感染期間が、マイナー変異、ちょい不利変異、強毒変異など定着しにくい遺伝子変異を容認する。さらに、感染可能集団サイズが大きいため、遺伝子変異を絶えさせることなくストックできる。さらに、本来なら「変異発生直後には変異ウイルスが少ないためにボトルネックで消える」「変異発生ちょっと後には感染している人間が少ないためにボトルネックで消える」各種のボトルネック効果が打ち消され、優秀な遺伝子は少ないうちから遺憾なく能力を発揮できる。平等で能力主義でありつつ多様性も保っている。


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