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しがらみからの解放

最近、いろんなことを考えすぎて、思考が逆に停止していたが、あることを思い出して元気になれたので、その話をしたい。

離婚した元旦那と出会ったのは、彼が大学生の頃だった。

彼の父は会社を経営していて、使っていない軽トラが余っていた。

白い、二人乗りの、小さな荷台のある、いわゆる軽トラ。

道路の状態をもろに受けて、ガタガタ揺れるし、マニュアル車なので、彼の腕も大忙しだ。

海や温泉や動物園やディズニーランド。ちょっとした買い物から、旅行まで、いろんなところへ行った。

私は、軽トラが大好きだった。

彼が大学を卒業し、2人で暮らすようになったある日、アパートの前に、黒い軽自動車が停まっていた。

「軽トラは売って、新しい車を買ったんだ!」と彼は嬉しそうに言った。

私は悲しかった。せめて、きちんとお別れがしたかった。

新しい車はスティングレーという車だった。

乗り心地は軽トラより快適だった。オートマなので、彼も運転が楽そうだった。

たくさん出かけて、いろんな思い出ができた。

私はその車も大好きになった。

ある日、「見せたいものがある」と言われ、スティングレーをしまっている車庫へ行った。

車庫を開けると、ピカピカのスポーツカーが代わりに入っていた。

私は、泣きだしそうだった。スティングレーとも、お別れが出来なかった。

彼がとても誇らしげだったので、私は普段通りニコニコしていた。

「ちょっとドライブしよう」と彼が言った。

私は、乗り慣れない、妙に車高の低い車に、楽しそうなフリをして乗った。

「高級車なんだから、もうちょっとスマートに乗れよ。」 

彼は、だせーなぁ…とため息をつきながら言った。

私は相変わらずニコニコしていた。

でも、心の奥底でズキンっと音がした。

「あれ?」

彼に出会って、初めて違和感を感じたのはこの時だった。

若くして会社を任された彼は、どんどん忙しくなっていった。

お夕飯を食べて、テレビを見て、一緒に眠るだけの、なんでもない、2人だけの小さな幸せが、変化しはじめた。

ほどなくして、古いアパートから、一戸建てへ引越し、そのタイミングで結婚した。

私は相変わらず、ニコニコしていたが、新しい生活は長く続かなかった。

軽トラを運転する彼の横顔や、風の香りや、なびく髪を思い出すと、羽のように軽い自由な気持ちがよみがえる。

「私は、一生軽トラでいい。」

彼の表情を曇らせてでも、言うべきだったのかもしれない。

お金も、スキルも、キャリアも何も持っていなかったけど、不安はなかった。

空っぽの荷台で、どこへだって行けた。

「そんな重い荷物、捨ててしまおうよ。」

思い出の白い軽トラが、空を自由に飛び回りながら私に言う。

いろんなしがらみで、がんじがらめになりそうだった私へ、軽トラからの貴重なアドバイスだ。笑

思い出さえ、私を応援してくれる。







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