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【第6輪】 お湯の中で音を聴く?! 銭湯絵師・田中みずきさんが描く新しい銭湯と日本文化観(後編)

12/11に投稿させていただいた記事では、銭湯絵師の田中みずきさんをお呼びし、インタビューを敢行しました!

前編は「稲荷湯と田中みずきさん」と題し、具体的な描き換えのエピソードを深掘っていきました。

後編の今回は「銭湯と銭湯絵師」というタイトルで、みずきさんの銭湯絵師としての営み、日本文化観、描く将来を、壮大なスケールでお届けします。

それでは、本編をどうぞ!

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まもる:今回の銭湯絵の描き換えは、僕たちの提案を踏まえて、みずきさんには絵にしていただきました。

描き換えの流れは、基本的には同じなのでしょうか。普段、他の銭湯さんからペンキ絵を依頼された時には、どのように進めているのか、教えてください。
みずきさん:どの銭湯でも、まずは現場を見せて頂くことが多いです。その際に壁の縦横比や壁のコンディションなどを特に見ています。

壁が傷んでいる場合には、そこの補修から始めます。また、銭湯の中の様子を見させていただいている時に、依頼主の方と絵の相談をしています。

コロナ禍では、Zoomで銭湯さんと繋いだり、メールで浴室内の写真を送ってもらうこともありました。
たなかい:銭湯絵師として、下見は欠かせないのですね。銭湯絵のアイディアを考えるために、依頼を頂いた銭湯に“お客さん”として行かれる事もありますか?
みずきさん:銭湯のある地域のお店やお客さんの層を見るために、実際に銭湯に行くことはあります。

行った際には、お店の方やお客さんに直接お話を聞く事もありますね。町の雰囲気や客層に合わせて色味をアレンジしています。

ですが、出産してからは、銭湯の開店は15時くらいのところが多いので、入浴してから子どもを保育園に迎えにいくと間に合わないため、なかなか最近行けなくなってしまっていますね。
まもる:なるほど...難しい問題ですね..。

銭湯側からみずきさんへ、絵のモチーフなどを提案されることはありますか?
みずきさん:ペンキ絵を長年描き続けている銭湯さんだと「おまかせで」と言われることが多いです。ですが、その場合にも、「富士山はいれた方がいいですよね?」とか、赤富士か青富士にするかなど、富士山の色味なども確認をします。

変わったご依頼を頂いた場合には、どんなモチーフにしたいか、色味などを銭湯の方と確認しながらイメージ図を作成していきます。
今は「おまかせ」と言われることと、変わったご依頼を頂くことは、大体1:1くらいですね。
ユウト:「おまかせ」の場合でも、みずきさんが銭湯の壁に描いたら面白そうだって思ったものを、銭湯側に相談せずに好き勝手に描く、ということは、さすがに無いですか。
みずきさん:基本的にはしません(笑)

すごく変わった絵の場合は、今回の稲荷湯さんのように、あらかじめモチーフなどの依頼があります。なので「おまかせ」の一言だと、「青い空に富士山と水辺の風景」という、みなさんが想像されるような絵を描きます。

その風景をもとに、アレンジしていく形なのだろうと推察します。
ユウト:なるほど、みずきさん自身で変わった絵を描かない理由ってありますか?
みずきさん:はい、変わった絵を描かない理由は二つあります。

一つ目は、ペンキ絵には今言ったような「青い空に富士山と水辺の風景」という型を描き続けることが重要だと思っているためです。その型があるからこそ、稲荷湯さんのような変わった絵がある銭湯に来た時に、「ここは何か珍しい絵があるぞ」ってご覧になった方は驚くのだと思います。

一つの型に見えても、前の絵と比べてよく見てみると、富士山の色や位置が変わっている、ということもあります。

ちなみになのですが、みなさんは学生時代には制服って着てましたか?
ユウト:着てましたね。
みずきさん:私の時代には、小ギャルの方がいらっしゃって、制服の型があるけれども、スカートの長さや靴下とかに、それぞれアレンジを加えていたり、制服じゃなくて私服で面白い服をを着ている人もいたりとか、色々なアレンジがされてたんですね。アレンジの差が個性の出し方の違いとなって見えてきて面白かったですね。

なので、「型」と「アレンジされたもの」はどっちも重要で、どっちもあるからこそ、それぞれの個性がわかりやすくなる、という事もあるので、制服の型は守っていこうというふうに思っています。
ユウト:なるほど、二つ目はなんですか?
みずきさん:変わった絵を描く時にも、毎日見続けて飽きないか、見て落ち着くかが重要だと思っているからです。

見ていて楽しくなることはいいのですが、例えば赤を多用してしまうと、お客さんの気分が立ってしまったり、イライラしやすくなってしまうこともあるようです。お客さんはせっかく銭湯に来て下さっているので、銭湯に来て絵を見たみなさんが明るくなったり落ち着いたり、お風呂に入ってスッキリしたぞ、というプラスの気持ちを味わっていただきたいのです。

変わった絵と言っても物凄くアバンギャルドな絵にしてしまうと落ち着かなかったり、見ていて逆に考えすぎて疲れてしまったり飽きてしまったりすることもあるんです。

今回の稲荷湯さんの絵でいうと、銭湯に入った方が、斜めの線が多いとちょっと酔ってしまう事もあるかもしれないと思い、イメージ図の中ではフィルムを斜めに描いてたんですけど、実際のペンキ絵では、水平に横の線で斜めにしないで描くように変えていました。

以上の、2点から銭湯のペンキ絵と言われると、みなさんがイメージするようなペンキ絵の型に沿った絵を考えていくのがいいのかなと思ってます。
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ユウト:あくまで規範があって、そこをどうずらすのかが銭湯側の個性で、好き勝手にやるのは、銭湯絵のスタイルとは違ってるって感じなんですかね?
みずきさん:そうですね。好き勝手やることがあってもいいとは思いますが、自分はおそらくやらないだろうと思ってます。


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ユウト:僕が、みずきさんにお聞きしたかったのが「大きい絵を部分部分から描いていくことの難しさ」です。

銭湯絵って、大きな壁がキャンバスなのに、描くときは壁に近付くしかないじゃないですか。こうした描き方の難しさは、銭湯絵自体の構図に影響したりはするんですか?
みずきさん:それこそ、前回の稲荷湯さんの描き換えのときは、足場などを運びながら、どこに何を描いたら収まるかを考えていたりしましたね。

全体の辻褄を合わせるためには、一旦足場を降りて、確認して、という流れにはなってしまいますね。
ユウト:その頭の使い方が、とんでもなくスゴイんですよ!

まさに、ナスカの地上絵と同じ難しさですよね。空から見ると、絵になるけど、地表からだと、全体は捉えられない。そうした感覚下で、一枚の絵を仕上げていくというのは、まさに匠の技ですね。
みずきさん:なかなか褒められないので、なんか嬉しいですね。


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たなかい:銭湯絵の描き変え当日には、(稲荷湯を運営する)長谷川家の繋がりで、日本の高校に留学している韓国出身の子が見学に来ていましたよね。

その高校生に、みずきさんが「この年で日本に来てくれてすごい嬉しいです」っておっしゃっていたのが、とても印象に残っています。

その言葉から、銭湯絵師という職人として、仕事をなさっている田中みずきさんの日本文化観がとても気になりました。日本文化といっても広いのですが、銭湯や職人文化に限った話でも良いのですが、その辺りをお聞きしたいと思いました。
みずきさん:私が学生の頃に旅をしていた時には、地域の画家さんの絵を見に行ったり、昔ながらのお寺や教会とかを見に行ったり、その地域の歴史みたいなものとかを考えていました。おそらく留学をしてきてくれる子って、今その地域で何が勉強できるかや、その地域の歴史、どんな文化があるのかを考えて来てくれていると思うんですね。

世界には魅力あふれる国が多くある中で、日本という場所を選んできてくれて、しかも銭湯のペンキ絵を描くところに見にきてくれたっていうのは、すごく大きなことです。

知らない国で知らない人とお風呂に入るのってちょっと怖いことかもしれないなって想像はしているので、本当に気さくな感じで、みんなが入浴しているっていうことを知ってもらいたいですね。

そのためには、事前に銭湯の様子を見にきてもらって、壁にこんな絵が描いてあるんだなっていうのを知ってもらうと、ちょっと身近になってハードルが下がるのかなと思っていて。

そして、もしそこで彼女の印象に残って、留学中に一軒でもいいから、「ちょっと銭湯に行ってみようかな」って思ってもらえたら嬉しいなあ、と思っていました。
たなかい:「日本に来てくれて、とても嬉しいです。」っていうのは、その中に銭湯の記憶が残るから嬉しいってことだったんですね。

今回の銭湯絵の描き変えが一つのきっかけになって、銭湯っていうものを知ってくれて、はたまたそれが、韓国に帰った時に友達に知らせてくれた、とかになったら、それは嬉しいですよね。
みずきさん:彼女のように、外国の旅をしている方の考えの中にもし銭湯ペンキ絵が入り込み(それはペンキ絵じゃなくていいのかもしれないですけど)銭湯に行って入浴をしようって思ってもらえるような、小さなきっかけを作れればいいなって、銭湯絵を描きながらいつも思ってます。
たなかい:素敵ですね!

今回の稲荷湯の銭湯絵は「みんなに開かれた銭湯」というニュアンスがあるので、そうした考えと親和性がありそうですね。
みずきさん:今回の稲荷湯さんの絵は、みんなが楽しめるものとして描いてある、ということが伝わればいいなって思いました。

色々なところの名所が描いてあるので、世界中の人に来てほしいですよね(笑)

チューリップが描いてあるのでオランダの人とか、アルプスがあるスイスの人とかは、どんな反応をするんだろうって思いますよね。
たなかい:僕は今、オンラインで留学をしているのですが、海外の学生と話していて、みんな自分の国の文化がどれだけ海外に広まっているのかっていうのを認識していないんだなって感じることもあるので、稲荷湯に来て、それを認識してくれたら面白いですよね。
みずきさん:日本の人にも、逆に再発見してくれたらなっていう思いもありますね。


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ユウト:現在みずきさんは銭湯絵師として活動されていて、基本的には、依頼されて絵を描くと思います。

もしみずきさんが自分で銭湯を開いて、自分が依頼主となったとき、どういう絵を描きたいですか?
みずきさん:面白い質問ですねー!自分で銭湯を開く...かあ...実はやりたい企画は二つあります(笑)

一つは、絵の位置を低くするなどして、そこにご近所の色んな方がお魚など小さなモチーフを描きこんで、ペンキ絵を一緒に描くっていうのをやってみたいです。あるいは常連さんとかに意見箱でどんな絵を描いて欲しいか募って描くというのをやってみたいですね。

もう一つは、お湯の中で音楽を聴くことができるのではないかと思っています。アーティスティックスイミングなどに水の中で音楽を聴いて踊るものがあると聞いて、聴覚障害の人も音を耳ではなく体で感じる文化を作ることが可能かもと思っています。

ただ、調べてみると聴覚障害のかたは中耳炎になるのを避けるために水中に耳を入れることを避ける場合もあるそうで、その場合は身体への振動で音を疑似体験するといったものになるのかも知れないのですが...。

そういった音の体験をしながら観る絵というのを考えて、そして音楽を合わせた絵を見せる機会を作って、みんなに見にきてもらえたら、面白いと思うんですよね。

銭湯は体を洗ってきれいにして、体で感じる面白さがあると思うんですけど、そこからもう一段階面白いことができるのではないかなと感じています。お金も設備も必要ですが、そんなことも妄想しています(笑)
ユウト:すごい面白いですね!この質問に対する答えは結構絵のコンセプトを想定していたのですが、みんなで銭湯絵を作っていくとか音楽を聴くとか絵にプラスにした全体の仕組みの面白さを考えられていて、まさに新しい銭湯だなと思いました。

稲荷湯でも要検討ですね。やってみたいです。
みずきさん:えーぜひやってください!
まもる:湯の輪らぼ企画になりそうですね(笑)
ユウト:大学も巻き込んでやろう。
まもる:超一大企画じゃん(笑)
みずきさん:でも本当に大学生のうちに教授で仲良い人頼れる先生を見つけると、他校とかさらに広い繋がりができていいですよ!

他校に潜りまくるのと学校や先生を巻き込んで何かやるのは大学生のうちだと思うので、本当に実現してくださいよ!(笑)

沸々とやりたいと思っていたことが急に実現しそうで嬉しい(笑)
編集部一同:任せてください。やってみせます!


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さて、前編後編からなる、銭湯絵師・田中みずきさんへのインタビューは、楽しんでいただけたでしょうか。

先日の稲荷湯の描き換えから日本文化観まで、幅広くお話を伺ってきました。

そして、今回の記事の最後では、みずきさんの実現したい「新しい銭湯」像も語られました。

あの世界観には、湯の輪らぼ編集部一同も、激しく賛同しており、なんとか稲荷湯での実現を目指したいです!

よし!湯の輪らぼの来年の目標には、コミュニティで描く銭湯絵、音楽を感じられる湯船...etc からなる「新しい銭湯の創造」を追加だ〜!

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