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第6話 サツマイモのボイコットですね

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「それって何かしらの事件に巻き込まれたかもしれない、って言ってるんですか? ありえないでしょ、ここ学校ですよ」

喜多は笑いながら靴を履き替えている。たしかに普通に考えればありえないことだろうが、すでにいくつもの不可解な出来事が起きている。それも一日のうちに、だ。

「部室に戻る」

下駄箱に背を向けて僕は来た道を引き返す。後ろで喜多が「ちょっとー」とぼやいていたが無視して行く。一連の出来事は部室で起きている。どういった意図があるのかは見当がつかないが、次も何かが起きるのなら部室である可能性は高い。そう思うと自然と部室に向かう足取りが早くなる。

「先輩、置いていくのはヒドいですよ」

思考していた意識が背後からかけられた声によって戻される。僕は振り返ると、喜多が息を切らして立っていた。

「き、来たのか。べつに来なくてもよかったのに」

僕がそう言うと、喜多は手を伸ばして鍵を渡してくる。

「戸締まり先生から借りてきました。まったく、鍵も取りに行かないで部室に向かうから」
「ありがとう」
「まぁ、いいですよ。これも後輩の役目ですから」

鍵を受け取り、部室へ向かい足を進める。隣を歩く喜多は「IMO、IMO、IMO」とリズムよく口ずさみ、どうして部室に戻ろうとしているのか理解しているわけではなさそうだった。

「なんでサツマイモだったんだろうな」

ふと口にした僕の疑問は、喜多を静かにさせた。それに連動するように足が止まる。あの美術室には他のオブジェがあった。いくつかの果物やワインボトルなど、サツマイモよりも華やかなものはいくらでもあったはず。それなのに、わざわざ地味な紫色単色で構成されているサツマイモを選んだのか。

「先輩、ネットニュースが大変なことになってます」

思案に更けてっていた僕を呼び戻した喜多がスマホの画面を見せてくる。そこには嘘のような記事が掲載されていた。

「全国で突如サツマイモが消失、原因は不明。被害のあった店では、いつサツマイモが消えたのかわからない、との声が」

文面を声に出しながら、僕は自分に言い聞かせるように読み込んでいく。自分たちだけに起きていると思っていた現象が他でも起きていた。それも全国という範囲で。

「これはサツマイモのボイコットですね」

喜多はそう言いながらケラケラと笑う。僕は規模が大きくなってしまったサツマイモ事件に頭を痛めるしかなかった。

続く
担当:志央生

次回更新は8月15日(木)予定です


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