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第1話 「秘密です」

 人生は闇鍋だ。どれだけ慎重な選択をしても最悪の結果を引き当ててしまう。そう考えれば俺の現状も起こるべくして起きた結果なのだろう。

「つまり、あんたらは宇宙人と未来人と超能力者だって言うわけね」

 見知らぬ砂浜で目が覚めた俺が初めに得たのは、頭に電波の入った男女三人が自称した身分だった。それだけでも充分に頭が痛いくらいなのに、さらに悩みの種がもう一つ存在している。
 俺自身の記憶が欠落しているのだ。名前は憶えている、住所も言える。けれど、なぜここにいるのかは記憶にない。

「あなたが目を覚ますまでに周辺を散策したのですが、僕たちのほかには誰もいませんでした。差し詰め、無人島に流れ着いたと言ったところでしょうか」

 事態を飲み込めていない俺に気付いたのか、超能力者を自称した能登力也が説明を始めた。

「ですが、目に見える距離に微かにですが島があることが確認できます。すぐに救助も来るでしょうから」

 そう明るく話して、能登は場を和ませようとする。ほかの二人は何を語るでもなく黙ったままでいる。

「あんたらはどうしてここに」

 俺は記憶が欠如していることを伏せて彼らに聞いた。そうすると彼らは顔を横に振り、合わせたように「わからない」と口にした。

「気が付いたら砂浜で寝ていたというか、どうしてここにいるのかなんでなのかわからないんです」

 おずおずと口を開いて話してくれたのは、未来人を自称した三崎美来だった。何かに怯えているのか背中を丸めて小さくなっている。その隣では宇宙人を名乗った灰原彩香が空をじっと見つめていた。

「灰原さんは何をしてるんですか」

 俺は思わず尋ねてしまっていた。

「交信」

何か気の利いた返答を待っていたわけではなかったが、彼女から戻ってきたのはおおよそ予想通りのものだった。自称するのが宇宙人なのだから当然の答えではある。悪いのは何の考えもなく聞いてしまった俺のほうだろう。
 だが、この瞬間に自分の中である考えが浮かんでしまった。ほかの二人にも自称している事柄について質問したらどう答えてくれるのか。そんな意地の悪い考えに抗えず、俺は三崎さんに声をかける。するとビクビクしながらこちらに顔を向けてくれた。

「あの、三崎さんは未来人なんですよね」

「そうですけど」

「よかったら、未来の話とか教えてもらえませんか。今後の参考にしようと思うので」

 俺の言葉を聞いて、おろおろとしながら彼女はすぐに口を開いた。

「だめです、だめです。それは教えられない決まりなんです」

 それだけを言い残して、こちらとの距離を取られてしまった。どうやら彼女の中でまだ出来ていない設定の部分を聞いてしまったようだ。いきなり踏み込みすぎたのかもしれない、と反省しつつも俺は能登にも同様の質問をするべく近づいた。

「能登くんは超能力者だって言っていたけど、どんな力なんだい」

 そう聞くと彼は「秘密です」と言って笑みを浮かべていた。


続く

担当:志央生

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