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産院での調乳指導から製品名まで、粉ミルクのマーケティング戦略_東京爆誕子育生活

前回のnoteで出産〜入院中の悲喜こもごもをご紹介しましたが、入院中にもう一つ印象深い出来事があったのでご紹介したいと思います。その名も「調乳指導」…経産婦しか知らない、でも日本各地で密かに行われている、産まれてはじめてのダイレクトマーケティングです。今回は調乳指導から製品名まで、粉ミルクのマーケティング戦略について考えてみたいと思います。

人生初のダイレクトマーケティング

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産後4日目、点滴も外れてやっと自力で歩けるようになった頃、突然病室にピンクのエプロンのおばさまが訪ねてきました。

「こんにちは!江崎グリコから調乳指導で参りました。少しお時間いただいて、おっぱいの事やミルクの事についてお話しても宜しいでしょうか?」
突然で驚きましたが、出産した瞬間に誰もが思い悩むのが授乳のこと。量やタイミング、飲ませ方など、分からないことばかりで藁にもすがる思いなので、お話を伺うことにしました。

訪問販売に相応しい笑顔が優しく丁寧な指導員さんは、いきなり自社製品たるミルクの話はせず、母乳の重要性や、良質の母乳を出すために必要な食事や栄養の話をした後ようやくミルクの話に。作り方を説明しつつ、嫌味にならない程度に自社製品のUSP(ユニークセリングプロポジション)を匠に織り交ぜて説明してくれます。

最後にどっさりサンプルと、自社のウェブサイトからの購買を誘引するリーフレットを手渡して終了。合計20分程度と、かなり丁寧に時間を掛けた内容でした。

調乳指導のCPAはいくらか?

ここまで母の顔をしながら笑顔で話を聞いている私は、ふと考えるわけです。以下心の声。

めっちゃコスト掛かってるじゃん!11床の産院で一人20分、移動や入れ替え考えても週2回、一日3〜4人へのコンタクトが限界。訪問販売員さんの人件費考えてもCPA(Cost Per Acquisition)莫大だな。
そもそも産院の許可がないと訪問販売できないわけだから、B to B マーケティングからはじめて入り込む必要があるし、病院で使ってもらう粉ミルクは特別価格もしくは無料だろうから、その分のコストも鑑みると莫大だな。そこまでして最初のタッチポイントを重視するということは、オムツ等のコモディティ商品に比べてスイッチングコストが高く、LTV(Life Time Value)が大きい商材なんだな。

と言う訳で、調乳指導をきっかけに粉ミルクのマーケティングに興味が湧いたのでした。

粉ミルクのDMUは誰か?

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ここで改めて粉ミルクを見てみると、パッケージデザインは今風なのに、製品名が意外と古風であることに気づきました。例を挙げると、

はいはい (アサヒグループ食品)
ほほえみ (明治)
はぐくみ (森永乳業)
アイクレオ (江崎グリコ)
すこやかM1 (雪印ビーンスターク)
ぴゅあ (雪印メグミルク)

というように、ひらがなで分かりやすい古風な商品名が多く、同じ赤ちゃん商材でも、パンパース、メリーズ、GOON等、カタカナやアルファベット名称が多いオムツとは対照的です。

人生初のダイレクトマーケティングと書きましたが、もちろん赤ちゃんが購買できるわけではないので、DMU(Decision Making Unit)は母親または父親にです。ではそのDMUに影響を与えるインフルエンサーは誰か。まず真っ先に考えられるのは産院で、入院中にはじめて赤ちゃんに与えて飲んでくれたミルクを退院後も買い続けることが想定されます。
ところが、意外と強力なインフルエンサーとして影響力があるのは母親(おばあちゃん)ではないでしょうか。赤ちゃんグッツは生まれる前に一通り揃えておくことが多く、産院の影響を受ける前に購買する可能性が高いです。粉ミルクの比較サイトなどもありますが、1番の決めてはやはり母親(おばあちゃん)の「私はこれを使っていた」「あなたに飲ませていたのはこれ」というレコメンドではないでしょうか。里帰り出産していたらより母親(おばあちゃん)影響力は強まります。そうなると、純粋想起で名前が挙がったブランドを手に取ってもらうためには、30年前と同じ名前である必要があります。よって、粉ミルクの製品名は古風なものが多いのではないでしょうか。

営業に来た江崎グリコのアイクレオ、実は過去2回商品名称が変更されていますが、おばあちゃん世代、お母さん世代にも馴染みのパッケージデザインと商品名称をリーフレットに印刷し、「100年前に小児科医が開発した」点をアピールしていました。

一方オムツは直接口に入れるものではないため、よりコモディティとしての性質が強く、粉ミルクのようなブランドエクイティの構築よりも、クーポンやまとめ買い値引きなどのプル戦略がより有効なのでしょう。

ということで、天国のようにフワフワとした優しい雰囲気の産院で繰り広げられる熾烈なマーケティング合戦の一旦を垣間見たのでした。

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