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【短編小説】ひとつの詩

まだ暗い朝の光に映る君の影
これから始まる1日に
希望と少しの翳りが見える

陽の光がてっぺんまで登ったお昼時
あと半分で終わってしまう1日に
何を思い、何を感じるのか

完全に光が沈んだ夜
1日の終わりにホッとするような
寂しいような
これから始まる自由時間に期待するような
そんな眼差し

表情よりも目の奥の色
わからないから読み解くために
今日もじっと見つめる





「知ってる?この人」

「え、知らない。誰それ」

「世間的にはめちゃくちゃ無名の人ではあるんだけど、この人の作品なんか好きでさ、ひっそりずっと追ってたんだけど、この詩の投稿を最後に自殺したんだって」

「え、マジ?」

「なんかこの人の作品とか見てると気難しそうな人のように感じたよ。生きづらそうだなっていうかさ…」

「最近ネットの配信者とかテレビに出る人の自殺の報道多くない?」

「本当にね。なにも死ぬことなんかないのにね。今は辛くても、絶対に希望はあるのに。私なんか、鮭とウインナーが食べれるだけで生きてて良かったって思うよ」

「いや、あんたは図太すぎるんだって…」

「でもこんなの残念すぎるよ、この人の投稿楽しみにしてたのに。なんかわかるんだ、この人の気持ち。破壊衝動とか自分だけの世界がラクだとか。私も職場ではそれなりに馴染めないし、浮いてるからね」

「まぁ、あんたも変わりもんだからね」

「この人の世界観に入り込めたらどうなるかな」

「やめときなよ、自殺しちゃった人の世界観とか。あんたも引っ張られたら、私は嫌だよ」

「大丈夫大丈夫!メンタル強いから!」

「そうだけどさ…」

「じゃあこっちだから!また明日ね!」

「うん、またね!あんまり深入りするなよ?」

「心配性だなぁ!大丈夫だよ!バイバイ!」

「(バイバイって、あいついつも別れの挨拶は使わないのに…。流石に気のせいだよな…)」




「ふぅ、ただいま!」

「おかえり、ご飯食べる?」

「いらない!食べてきたから!ねぇお母さん…やっぱりなんでもない!」

「なに?もう、変な子」

「弟にさ、早く独り立ちしなよって言っといて!またお金貸してって、本当にうざくてしょうがないもん。1000円とかだから別に良いんだけどさ」

「どうしたの急に。喧嘩した?」

「別に!じゃあ部屋篭るから入ってこないでね」

「はいはい」




「さてと…」


『さいごの日記(9/22)』

キラキラ輝くもの
価値観は人それぞれで
私は見つけられない

側から見た私はきっと
明るくて
何も考えてなさそうで
呑気で
馬鹿みたいにはしゃぐけど

本当の私はどこにいる?

今までそれなりに楽しかった

もうすぐ私の物語が終わる
でもこれで良かった

私が死んでも
この世界は当たり前に回る
人間の替えはいくらでもいる

こっそり行った病院で見つかった病気
誰にも告げずにそのまま時が流れ
ついに受けた余命宣告

あの人は人の感情がわからないと
ラジオなんかでもよく言っていた
私も人の感情がわからない
そっち側だった

でも死んじゃった

あぁ、あの人は生きててほしかったな
私は死ぬけど
あの人の作品は続いてほしかった

いずれあの人が有名になっていって
古参アピールしたかったなぁ

それでも
少しでも生きやすくしてくれてありがとう
私はひとりじゃないって思えたよ

なんか紙が濡れて書きづらくなっちゃった
せっかく書いた字も水滴で滲んで


来世もまた楽しい人生だといいな
来世は鮭とかあるのかな?
っていうか、そもそも生まれ変わる先は人間かな?
猫に転生したら人間関係に悩まされないのかな?
でも猫の社会も大変そうだよね

この世界にいる全員が
幸せになれますように

努力は報われない世界だけど
少し人と価値観が違うと浮いちゃう世の中だし
ある程度媚びないと出世しづらい面倒な社会だけど
それなりに楽しかったよ

だって、それをわかってくれる人が絶対にいるからね
それを口に出してこなかったとしても
味方は必ず存在する

これは来世の自分に向けた手紙でもある
絶対に届かないと思うけど

今がどんなに絶望的でも
10年後、20年後はわからない
勝手に希望に変わってくんじゃないんだよ

ほんの少しの君の勇気と意思も必要だ

それじゃあ、ばいばい






「あ、見つけた!この日記!懐かしいなぁ。これ書いたの28歳の時だから、もう7年前か!」

「え、なにそれ?あんた日記なんて書いてたの?」

「うるさい!そんなのはどうでも良いの!」

「良いじゃん!なんで恥ずかしがるのさ!…にしても、本当あの時はどうしようかと思ったよ。余命宣告受けて私に隠すなんて、あんたらしいというか…。何十回も同じこと言うけど、もう二度とそんな真似しないでね」

「あはは、ごめんって」

「本当に良かったよ助かって。あんたは奇跡の存在だね」

「凄いだろ!ま、こうなるって思ってたんだよね、なんとなく!私が死ぬわけないじゃん?奇跡の生還ですよ!」

「まったくもう…」

「今日もいつものとこ行く?」

「いいね、行こうか。あそこのコーヒー美味しいもんね」

「行こう!あそこでちょっと作業したい!小説の続き書きたいんだ!ちょっとずつフォロワーが増えてきたから嬉しくてさ、頑張らないと!」

「あんまり根詰めすぎるなよ?」

「大丈夫!昨日休んだもん!ほら、早く行こう!」




『陽の光がてっぺんまで登ったお昼時
あと半分で終わってしまう1日に
何を思い、何を感じるのか』


あなたの詩から
私はどうかな、といつも考えさせられる

もうすぐ終わる1日に
少し寂しいけどほっとする気持ち

今日も生きれて良かった

でもその中で
今日はなにもできなかったなと
たびたび思う

でも
それでも良いんだ

当たり前に流れる時間
その時その瞬間には二度と出会えないのに
見逃した「◯時◯分」がたくさんある

それを大事に生きていくとか
時間を大切にとか
綺麗事を抜かすつもりはない

好きなように
思うがままに勝手に生きろ

それだけを自分に言い聞かせて
今日もまた夜を迎える





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