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イタリア・オペラを読むなら押さえておきたい超定番語彙 〜 代名詞&最重要動詞の古語・文語特有の活用


オペラのリブレット(台本)を読む際の難点として、主語と述語がどこにあり、どの言葉が何を修飾しているのかといった文の構造がわかりにくい点が挙げられるかと思いますが、動詞がどこにありどんな活用をしているのかが判断できると、読解のハードルは大きく下がります。

そこで、この記事では、動詞の「発掘」作業を手助けするための基礎知識として、
・現代語ではまず用いられないもののリブレットには頻出する代名詞
及び
・現代語で多用される最重要動詞で、かつリブレット中に古語・文語特有の活用が頻繁に用いられるもの
をまとめました。

オペラの台本を読むなら、現代イタリア語の文法と並行してリブレットに頻出する語彙や活用が頭に入っていると、読解の際にかなり楽になります。
本当に定番のものばかりですが、一度まとめて自身の記憶を整理しつつ、もしどなたか一人にでもお役に立つことがあればと思い、こちらで記事として公開することにしました。

動詞に関しては実際にオペラの台本に用いられている例を添えました。この作業が一番楽しかったです。
さくっと要点だけ掴みたい方はぜひ直接あとがきに飛んでみてください。

それではBuona lettura!

追記: 人称代名詞と指示代名詞の項を分け、表にしました。また、代名詞にも例文を掲載しました。第1章と第3章で代名小詞について少しだけ触れ、また、子音重複についてお役立ちリンクを掲載しました。(2020/4/5)


1.代名詞


◎人称代名詞
・ei
egli (pronome personale soggetto maschle singolare)
彼  (人称代名詞   主格 男性 単数)

・eglino
essi (pronome personale soggetto maschile plurale)
彼ら (人称代名詞 主格 男性 複数)

・il
lo (pronome diretto maschile singolare)
彼を  (直接代名詞 男性 単数)

・ne
ci (pronome diretto plurale)
私たちを  (直接代名詞 複数)
※ci には間接代名詞として、更に代名小詞としての用法もあります。文法についての説明はこの記事の意図するところではないので省略しますが、古語ではneが直接代名詞のciと同義で用いられることもあったようです (ダンテの神曲・天国篇より "né potrà tanta luce affaticarne" 強い光も私達を疲弊させることはできない)。



・mel / tel
me lo / te lo (pronome combinato: indiretto+diretto)
私にそれ(or 彼)を/あなたにそれを
(関節代名詞と直接代名詞の複合形)

・nol
non lo 
それ(or 彼)と否定のnonの複合形 (例:nol vedo: 彼が見えない)

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例:
Ei duce!” 「彼が来る!」(アイーダ、1幕1場、アムネリス)
“Germont è qui! Il vedete?” 「ジェルモンがいる!見えますか?」(椿姫、2幕12場、ドゥフォール男爵)
“M'ama... Ora qui mel disse...” 「私を愛してるって...今ここで私にそう言ったの」(道化師、1部3場、ネッダ)
“Nè in volto il vedesti? / No, nol vidi” 「顔は見たのか?/いや、見ていない」(フィガロの結婚、2幕フィナーレ、伯爵 / アントニオ)



◎形容詞と同様の活用をする指示代名詞

Codesto、medesimoなど現代語であまり使われないものもあるので、確認のため表を掲載しておきます。

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Questo, codesto, quelloは、指示代名詞として人を指すのに用いると敬意に欠けたニュアンスになります。日常会話ではLui, lei, loro等を使います。また、codestoはオペラでは頻出ですが、日常会話では殆ど用いられません。

例:
“E che dir vuole codesto gioco di strane parole?” 「で、そんなおかしげな言葉遊びで何が言いたいんだよ」(メフィストーフェレ、1幕2場、ファウスト)
 ※ここでのcodestoは形容詞



stessoとmedesimoは、指示代名詞や指示形容詞としては同義で使用されます。
medesimoの日常会話での使用頻度は低いです。また、指示代名詞として使われる際はlo stesso、la medesimaのように冠詞を伴います (文中で名詞として使われることは少ないですが、ト書きではよく、直前に登場した人物を指して “prende la mano della medesima” (彼女の手をとる) などと使われます)。

形容詞としては「同様の」という意味以外に「〜自身/自体」「まさに〜こそ」など強調の意味合いでも使われますね。
日常会話では “ti piace questa o quella? - per me è lo stesso” (こっちとあっち、どっちがすき? - どっちでも) といった使われ方もされますが、この場合medesimoは使われません。

例:
“Della tua Susannetta - Di te? - Di me medesma”
 「(伯爵が欲しいのは)あんたのスザンナちゃんよ!」「君?」「わ・た・し」
(フィガロの結婚、1幕1場、フィガロ&スザンナ) 
※ここでのmedesmaはmeを強調する形容詞



◎形容詞と同様の活用をしない指示代名詞

・desso / dessa
lui / lei (valore rafforzato)
彼 / 彼女  指示代名詞 主格(強調:まさに彼、彼こそ、彼自身、etc)

・lui、quegli, questi, quei, que’
colui (pronome dimostrativo maschile singolare)
その人、あの人 (指示代名詞 男性 単数)
Lui以外は指示形容詞の男性複数と同じ形ですが、ここでは男性単数の主格にのみ使われます。
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※colui、colei、coloroは、che を後置することで関係代名詞 chi と同様の働きをします。

例:
“Ora colui che legge dentro a un cuore sa l'amore ed è... lettore.” 
「心の中を読める人は、愛について知っていて、それで…読み手ね」ボエーム、2幕、ミミ)

 “Era desso  il figlio mio” 「彼は私の息子でした」(ルクレツィア・ボルジア、2幕8場、ルクレツィア)

“Padre, a costoro schiava non sono...” 「お父様、私はあの者どものための奴隷ではありません…」(アイーダ、3幕、2重唱) ※costoroはschiavaにかかる形容詞ではなく名詞。自然な順番に直すと “schiava a costoro”

“La costoro avvenenza è qual dono di che il fato ne infiora la vita” 「女たちの魅力は、贈り物のようなもので、その贈り物でもって天は、女たちの人生を美化するんだ。」(リゴレット、1幕 ”questa o quella”)
※costoroはavvenenza (魅力、愛らしさ) にかかる形容詞で、前の文で女性たちについて話しているので「女たち」の意。代名小詞 ne は、ここでは di costoro (=delle donne)。

“Chi è colui? - Chi è colei? - Chi è costui? - Colui chi è? - Chi è costei?” 「あの人は誰?- あの女性は誰だ?-あの男は誰だ?-誰だあの人は?-あの女は誰だ?」
(ヴェネツィアのテオドーロ王、1幕18場、ベリーザ/テオドーロ/ガッフォーリオ/アクメット)




2.前置詞と人称代名詞や定冠詞の結びつき


現代語の口語では離して書かれるものが、古語や文語においては結合されることがあります(dello、dalle、sui など、現代語でも常時結合されるものもあります)。

◎con (~と / with)

meco: con me  私と
teco : con te  あなたと
seco : con sé  彼(彼女、彼ら、彼女、自分)自身と
col : con il (男性名詞単数の定冠詞)
collo : con lo (男性名詞単数の定冠詞 : 一部の子音の前にくる場合) 
colla : con la (女性名詞単数の定冠詞)
coi : con i (男性名詞複数の定冠詞)
cogli : con gli (男性名詞複数の冠詞 : 母音や一部の子音の前にくる場合) 

例:
“Perfida, e in quella forma ella meco mentia?” 「ひどい、そうやって僕に嘘をついていたのか?」(フィガロの結婚、4幕11場、フィガロ)
“Teco io sto” 「私はあなたと共にいる」(仮面舞踏会、2幕2重唱、リッカルド)

◎per (~に、~のために)


pel : per il (男性名詞単数の定冠詞)
pei : per i (男性名詞複数の定冠詞)

例:
“il regno e il core pel tuo core io dato avrei!” 「王国も心も、貴方の心の為なら差し出したでしょう」(ナブッコ、1幕5場、アビガイッレ)

3.代名詞と結合された動詞

現代語でも命令形や原形の後に代名詞が結合して一語になることはありますが (dammi, datelo, cantarlaなど)、古語では、それ以外でも動詞の直後に結合されるケースが多々あります。

つまり、見慣れない単語で-mi、-ti、-si、-ci、-ne、-vi などが語尾にあるものを見かけたら、語尾の代名詞を取り除くと動詞の原形が予測しやすくなります。

例を見て行きましょう。

aprasi=si apra
aprirsi (代名動詞:あく、ひらく) 三人称単数接続法 
例:”Concedi che il segreto non aprasi ancor” 「お許しください、秘密はまだ打ち明けません」(シモン・ボッカネグラ、2幕6場、アメーリア) 

cedasi=si ceda
cedere (他動詞:譲る、屈服する)の再帰的用法、三人称単数(二人称敬称)接続法 / 命令形
例: ”Cedasi in tal momento." 「いま降伏するのです」(マオメット2世、1幕1場、コンドゥルミエーロ)

celasi=si cela (si nasconda)
celarsi (再帰動詞:隠れる)三人称単数(二人称敬称)現在形
例: "Io so l'odio che celasi in te."「あなたの中に潜む憎しみを知っています」(シモン・ボッカネグラ、2幕3場、パオロ)

cormi=cogliermi
còrre=cogliere (他動詞:掴む、とらえる)原形+mi(直接代名詞一人称)
例: "Il russo Mencikoff riceve l'ordine di cormi i trappola nel mio palagio" (riceveは現在形ですが、日本語でもあるように、過去の出来事を現在形で描く表現はよく用いられます。)「ロシアのメンチコフは、私の館で私を罠にかけろとの命令を受けていました」(アドリアーナ・ルクヴルール、3幕、マウリツィオ)

destasi=si desta
destarsi (代名動詞:目を覚ます)三人称単数(二人称敬称)現在形
例: ”Destasi orrendo sospetto in me" 「私の中に身の毛のよだつ疑惑が呼び起こされる」(第一回十字軍のロンバルディア人、1幕2場、アルヴィーノ)

distruggeasi=si distruggeva (半過去については後述)
 distruggersi (代名動詞:壊れる、憔悴する 同義語にstruggersi)三人称単数半過去
例: "Ei distruggeasi in pianto" 「彼は涙のうちに消えていった」(トロヴァトーレ、2幕1場、アズチェーナ)

duolmi=mi duole
dolere (自動詞:痛む、残念に思う)三人称単数現在形
例: "Quanto duolmi, Susanna, che questo giovinotto abbia del Conte le stravaganze udite!" 「この若者が伯爵の奇行について聞き知ってしまい、残念に思うわ」(フィガロの結婚、2幕2場、伯爵夫人) 

parmi=mi pare
mi (間接代名詞一人称単数)+parere (自動詞:~のようだ)三人称単数現在形
例: "Parmi veder le lagrime scorrenti da quel ciglio" 「あの眼から涙が流るのを見た気がする」(リゴレット、2幕1場、公爵)

rimanti=Rimani 
Rimanere (自動詞:留まる)二人称命令形(ここでの代名詞は強調の役割を担う)
例: "Rimanti, anima bella!" 「行かないで、素晴らしいお人!」(ドン・ジョヴァンニ、2幕7場、レポレッロ)

sciolgansi=si sciolgano
Sciogliere (他動詞:解く)三人称複数命令形+非人称のsi
例: "Della rea sciolgansi le catene" 「罪人の鎖をほどくのです」(タンクレーディ、2幕6場、オルバッツァーノ)

stansi=se ne stanno
stare (自動詞:いる)+si+ne (再帰動詞的用法)=starsene (じっとしている、動かずそこにいる)三人称複数現在形 Stassi=se ne sta (三人称単数現在形), Stommi=me ne sto (一人称単数現在形)
例: "Ai loro uffici intente stansi altrove le ancelle" 「侍女達は向こうで彼女達の務めに集中している」(アンナ・ボレーナ、1幕3場、ズメトン) 

tormi=togliermi
tòrre=togliere (他動詞:取り去る)原形+代名詞で「(人)から~を奪う」
例: "Tu vuoi tormi la pace" 「私から平和を奪いたいのですね」(コジ・ファン・トゥッテ、2幕6場、フィオルディリージ) 

vanne = vattene
Va' (andare 行く 二人称単数命令形)+ 代名小詞 ne (ここでは場所を指す代名詞。「発つ」時に使います)。
Va’は強勢で終わる言葉なので後続の語の子音重複が起こります (raddoppiamento sintatticoといいます。ちなみに、書かれていないのに二重子音として発音するケースも多々あり、これについては宮本史利さんがこちらで詳しく説明されています: https://note.com/miymaon/n/nc97071733949#1RsXG
イタリア語での説明が読みたい方はこちらへ: 
http://www.treccani.it/enciclopedia/raddoppiamento-sintattico_(Enciclopedia-dell'Italiano)/ )

例: "Vanne, la tua meta già vedo" 「行け、お前の行き先はわかっている」(オテッロ、2幕2場、ヤーゴ)

verravvi=ci verrà
venire (自動詞:来る)三人称単数未来形+ 代名小詞 ciもしくはvi (ここでは場所を指す代名詞。「いる」または「来る」時に使います)。
verràは強勢で終わる言葉なのでraddoppiamento sintatticoが起こります。
例: "Signora, ella mi disse che Figaro verravvi" 「奥様、彼女はフィガロがここに来るはずだと言っていました」(フィガロの結婚、4幕9場、スザンナ)

vuolmi=mi vuole
volere (他動詞:欲しい)三人称単数現在形+直接代名詞一人称
例: "Vien poi l'occasione che vuolmi il padrone" 「それから、旦那様が僕をお求めの時が来る」(フィガロの結婚、1幕1場、フィガロ)




4.半過去

現代語の場合、-are, -ere, -ire で終わる動詞の一人称半過去は-avo, -evo, -ivo 、三人称だと-ava, -eva, -iva となるのはご存知の通りですが、古語の -ere 形と -ire 形は、しばしば一人称も三人称も同様に、-ea, -ia と書かれます。

頻出例を見て行きましょう。

ambia = ambivo / a
原形 : ambire = desiderare (切望する)
例 : "Ambiva, ardea nomarla sposa" 「彼女を花嫁と呼ぶことを切望し、熱望していた。(第一回十字軍のロンバルディア人、1幕1場、男性合唱)

avea = avevo / a
原形 : avere (持つ)
例 : "Morì di paura un servo del conte, che avea della zingara percossa la fronte" 「伯爵の召使の一人でそのジプシーの額を殴った男は、恐怖のうちに死んでしまった」(トロヴァトーレ、1幕1場、フェランド)

credea = Credevo / a
原形 : credere (信じる)
例 : ”Ah non credea mirarti sì presto estinto, o fiore" 「ああお花さん、こんなに早く枯れてしまったあなたを見ることになるとは思っていなかった」(夢遊病の女、2幕フィナーレ、アミーナ)

dicea = Dicevo / a
原形 : dire (見る)
例 : ”Vieni, ei dicea, concedi: ch'io mi ti prostri ai piedi" 「彼はおっしゃいました、おいで、そして許してくれ、あなたの足元に平伏すのを、と」(ノルマ、1幕8場、アダルジーザ)

dovea = Dovevo / a
原形 : dovere (~しなければいけない)
例 : ”io dovea da te fuggir" 「あなたから去るべきだったのに」(ランメルモールのルチア、1幕6場、エドガルド)

facea = Facevo / a
原形 : fare (する)
例 : "Mamma facea da cuoca e cantiniera, babbo dava le carte a faraone" 「母さんはコックと酒場の女主人をし、父さんはファロでカードを切っていたわ」(西部の娘、1幕、ミニー)

fuggia = Fuggivo / a
原形 : fuggire (逃げる、去る)
例 : "è ver che Frank ferì? Che con Tigrana la cortigiana allor fuggia?” 「本当ですか、フランクを怪我させたというのは?そして、娼婦ティグラーナと一緒に逃げたというのは?」(エドガール、3幕、エドガール)

potea = Potevo / a
原形 : potere (~できる)
例 : "Io cieco, vile, misero, tutto accettar potea" 「僕は盲目に、みじめに、哀れに、すべてを受け入れていた」(椿姫、2幕14場、アルフレード)

solea = solevo / a
原形 : Solere (~する習慣がある)
例 : "Solea la storia con questo semplice suono finir:" 「お話は、この簡素な言葉と共に終わるのでした」(オテッロ、4幕1場、デズデーモナ)

venia = venivo / a
原形 : Venire (来る)
例 : "Di quell’ignota che i dì passati a pregar qui venia" 「最近ここに祈りに来ていたあの見知らぬ女性の…」(トスカ、1幕3場、堂守)


5.条件法


条件法の一人称&三人称単数 -rei, -rebbe 形が、古語・文語では -rìa と変化することも多くあります。

頻出例はこちらです。

avria = avrei, avrebbe (avere)
例 : "Ah più presto m’avria quello guarito" 「ああ、それの方がもっと早く僕を治してくれただろうに」(フィガロの結婚、2幕13場、ケルビーノ)

dovria = dovrei, dovrebbe (dovere)
例 : "di ritorno il Dottore esser dovria" 「医者先生がお帰りになる頃なんだけど」(ドン・パスクワーレ、1幕1場、パスクワーレ)

potria, poria = potrei, potrebbe (potere)
例 : "Doman voi potria il fato colpir" 「明日には宿命があなたを打ちのめすかもしれない」(アイーダ、2幕2場、アモナストロ)

saria = sarei, sarebbe (essere)
例 : ”Saria possibile?" 「ありえるの?」(愛の妙薬、2幕4場、女声合唱)

vorria = vorrei, vorrebbe (volere)
例 : "E suol restar gabbato chi le vorria gabbar" 「彼女達を騙そうとするものは、騙されてしまうのが常なのだ」(アルジェのイタリア女、2幕7場、アリー)


6.特徴的な活用


この他、古語・文語において現代語と異なる活用をする動詞が多々あるので、そのうちのいくつかを記します。

◎troncamento (語尾脱落) を伴う活用

・de', dee = deve
  dovere 三人称単数現在形
・diè = diede 
  dare 三人称単数遠過去
・fe' = fece
  fare 三人称単数遠過去
・fo = faccio
  fare 一人称単数現在形
・fur(o) = furono
  essere 三人称複数遠過去
 ※(同様の活用をするものは他に
 andaro = andarono,
 diero = diedero,
 restaro = restarono
 など多数あり、しばしば語尾のoが省略されます)
・vo' = voglio
 volere 一人称単数現在形
・vo = vado
 andare 一人称単数現在形

※逆バージョンにPuote = Può (potere 三人称単数現在) 
※現代語でも残っているものの一例がSo / Sa (sapere 直接法現在形一人称 / 三人称単数)

例:
"ei la fe' sua" 「彼は彼女を我が物としたんだ!」(ドン・カルロ2幕3場)
"Del reo le sorti furo a lungo agitate" 「罪人の運命は長いこと討議されていました」(ロベルト・デヴリュー、2幕1場、セシル)


◎子音の変更 -gio, -go 形

・chiedere :
chiedo(直接法一人称単数)→chieggo
chieda (接続法、命令法三人称単数)→chiegga,,
chiedano (接続法三人称複数)→chieggano

・dovere :
devo (直接法一人称単数)→deggio,
debba (接続法三人称単数)→deggia 

他にvedere (後述)

例:
 "Al chiostro, all'eremo, ai santi altari l'oblio, la pace chiegga il guerrier" 「修道院に、隠者のすみかに、聖なる祭壇に、戦士は忘却と平安を請うのです」(運命の力、3幕9場、アルヴァーロ)

 三人称複数条件法の -ien 形

dìeno = diano (dare)
sìeno = siano (essere)
語末の o は頻繁に省略されます。

例:
"qual prova avete voi, che ognor costanti vi sien le vostre amanti" 「あなたがたの恋人が絶えず忠実でいるなんて、どんな保証があるんですか?」(コジ・ファントゥッテ、1幕1場、アルフォンソ)

◎三人称単数の-ra 形

Fora = sarebbe / sarà (essere 条件法 / 未来形)
Mora = muoia (morire 死ぬ 接続法、命令形)
Pera = perisca (perire morireと同義 接続法、命令形)

例:
"o, se pur disarmata, qusta man per voi fora crunte" 「武器は持たずとも、この手はお前たちの(帰り)血に塗れるだろう」(リゴレット、2幕アリアCortigiani)


7.超頻出動詞の古語・文語

こちらの最終章では、初級レベルの単語で日常会話でも最も使用頻度の高いものを9語ピックアップし、古語や文語の活用形をまとめました。特にオペラでよく見かけるものは【】をつけてありますので、一般的な活用に加えて暗記してしまいましょう!

7,1 Andare

・直接法現在
vado = 【vo】 (vo', vò は誤り)

・未来
andrò = anderò 

・遠過去
lui andò = andette
loro andarono = 【andaro】

・条件法
andrei  = anderei

例: 
"Non vo che al tempio" 「教会以外には行きません」(リゴレット、1幕2重唱 "Figlia! Mio padre!" ジルダ)

“Dove andaro i giuramenti di quel labbro menzogner?” 「あの嘘つきな口から出た誓いはどこへ行ってしまったの?」(フィガロの結婚、3幕8場、伯爵夫人)


※andareの同義語 gire、ire
・gire
不規則な活用形:半過去 lui gia、過去分詞 gito

・ire
直接法&命令法 voi 【ite】と過去分詞 【ito】はオペラにも度々登場。

例:
"ite presto via di qua!" 「早くここから立ち去って!」(フィガロの結婚、4幕11場、伯爵夫人)


7.2 Avere

・直接法現在
ho = ò、 hai = ai, ha'、ha = a、abbiamo = avémo、hanno = anno

・未来
avrò = averò, arò、avrai = averai, arai、avrà = averà, arà

・半過去
avevo/a = 【avea】

・遠過去
io ebbi = èi、noi avemmo = ebbimo

・条件法
avrei, avrebbe = 【avria】

・過去分詞
avuto = aùto

例:
"Amor avria per me?" 「私への愛情を持っているのかしら?」(ドン・カルロ、2幕2場3重唱、エボリ)

“Io me l’avea scottato, e con l’inchiostro or or l’ho medicato” 「やけどしてしまったの、それで、今…インクで手当てしたのよ」 (セビリアの理髪師、1幕10場、ロジーナ)


※Avere+代名詞で特殊な働きをする用法
【avvi】 もしくは havvi (三人称単数+vi)
 = c è (~がある)
s'has'hanno (非人称のsi +三人称) 
=si deve、si devono (~しなければならない)

例:
"dite alla giovine sì bella e pura ch'avvi una vittima della sventura" 「美しく純粋なその乙女にお伝えください、不運にも犠牲となる者がいることを」(椿姫、2幕5場、ヴィオレッタ)

7.3 Dare

・遠過去
lui diede, dette = 【diè】 (dié や die' は誤り) 
loro diedero, dettero = 【diero】

・接続法
lui dia = dea、loro diano = deano, dieno (命令形も同様)

・条件法
darei, darebbe = darìa 

例:
"L'ordin mi diero di trovar un Notajo, che stipuli il contratto" 「証書を作る公証人を見つけよとの命令を私になさいましたわ」(コジ・ファン・トゥッテ、2幕14場、デスピーナ)

“Iddio del suo poter diè segno” (dare segno di ○○: ○○の気配を見せる)「神はその力を示された」(ナブッコ、1幕2場、ザッカリア)

7.4 Dovere

・直接法現在
devo = 【debbo】, 【deggio】 
devi = 【dei】 
deve = 【dee】, 【de'】 
devono = 【debbono】, denno

・半過去
dovevo/a = 【dovea】

・接続法
io/tu/lui debba = 【deggia】 , devadèbbia
loro debbano = devano

・条件法
dovrei, dovrebbe = 【dovria】 

例:
"Non vo... Debbo parlarti" 「行かないわ…あなたに話があるの」(カヴァッレリア・ルスティカーナ、2重唱 "Tu qui Santuzza"、サントゥッツァ)

“Che lo spettacolo dee cominciare” 「上演が始まるぞ」(道化師、2幕冒頭、合唱)



7.5 Essere

・直接法現在
siamo = semo、siete = sete、loro sono = ènno

・未来
sarò = serò、sarà = 【fia, fora、saranno = 【fian】

・半過去
noi eravamo = èramo

・遠過去
tu fosti = fusti
lui fu = fùe
loro furono = 【furo】fuoro
※似たものに furare (盗む)の遠過去三人称単数furò
 アクセントの位置と主語に注意。
 例: "Al natio fulgente sol qual destino ti furò"
 「故郷の燦然たる太陽から、どのような運命がお前を盗み去ってしまったのだろうか」(椿姫、2幕8場、ジェルモン)

・接続法現在
io/tu/lui sia  = 【fia】 
loro siano = 【fiano】

・接続法半過去
io / tu fossi = fussi

・条件法
sarebbe = 【fora】, 【saria】

・ジェルンディオ
essendo = sendo

・過去分詞
stato = suto, essuto

例:
"forse dischiuse gli fian queste porte sol quando cadavere già freddo sarà"
「死体が冷たくなってしまってようやく、これらの扉が彼に向けて開かれるでしょう」(トロヴァトーレ、4幕1場、レオノーラ)

”Ripreso Castellor, di lei contezza non ebbi, e furo indarno tante ricerhe e tante!"
「カステッロール城は押さえたが、彼女についての情報は得られなかった。ひたすらの、ひたすらの探索は無駄だった!」 (トロヴァトーレ、4幕2場、伯爵)

7.6  Fare


・直接法現在
faccio = 【fo】、fai = faci、fa = face

・半過去
facevo/a = 【facea】
faceva = fea
facevano = feano

・遠過去
io feci = fei
tu facesti = festi
lui fece = 【fe'】, fea, feo
noi facemmo = femmo
voi faceste = feste
loro fecero = 【ferono】,【fero】

・接続法半過去
io/tu facessi = fessi
lui facesse = fesse
loro facessero = fessero

・条件法
farei, farebbe = farìa

・ジェルンディオ
facendo = faccendo

例:
”Misero appien mi festi, Aida a me togliesti, spenta l'hai  forse e in dono offri la vita a me?" 「私をことごとく不幸にした。アイーダを私から取り去った。きっと彼女を殺したんだろう、それでもって、私に命はくれるだって?」(アイーダ、4幕1場、ラダメス)」

"Deh ringraziate per noi quei Numi, che i nostri lumi fero asciugar"
(asiugare i lumi a 人: 人の目を乾かす=涙をぬぐう、慰める) 「我らのために感謝を伝えよ、我らを慰めてくださった、かの神々へ」(イドメネオ1幕最終場)

7.7 Potere


・直接法現在
può = 【puote】
possono = 【ponno】

・半過去
potevo, poteva = 【potea】

・遠過去
io potei = potetti

・条件法
potrei = poterei
potrebbe = poterebbe
potevo, poteva = 【potria】, porìa

・ジェルンディオ
potendo = possendo

例:
"In qual modo usar si puote?" 「どうやって使うんですか?」(愛の妙薬、1幕6場、ネモリーノ)

"Non pentirti, o core; viver non ponno"
「後悔するんじゃないのよ、おお心よ、彼らは生きていてはいけないの」(ノルマ、2幕1場、ノルマ)

7.8 Vedere


・直接法現在
vedo = 【veggo】, 【veggio】
vediamo = veggiamo
vedono = veggono, veggiono

・半過去
vedevo, vedeva = 【vedea】

・遠過去
io vidi = vedetti, vedei, veddi, viddi

・接続法現在
io/tu/lui veda = 【vegga】, veggia (命令形も同様)
vediamo = veggiamo
vediate = veggiate
vedano = veggano, veggiano

・条件法
vedrei, = vederei, vedrìa
vedrebbe = vederebbe, vedrìa

・ジェルンディオ
vedendo = veggendo

・過去分詞
visto = vido, 【veduto】 

例:
"la veggo passar per via, trascinandosi a stento" 「身体を大変そうにひきずって道を行く彼女を見たの」(ボエーム、4幕、ムゼッタ)

"Tu, notte, ne avvolgi di tenebre immota; qual petto percota non vegga il pugnal" 「夜よ、不動の闇で包み込め。胸を突き刺す剣が見えないように」 (マクベス、1幕7場、レディ・マクベス)

7.9 Volere


・直接法現在
voglio = 【vo'】
voglio, vuoi = vuo',
vuole = vole

・半過去
volevo, voleva = 【volea】

・遠過去
io volli = vogli

・接続法現在
io/tu/lui voglia = vogli 

・条件法
vorrei, vorrebbe = 【vorrìa】

・ジェルンディオ
volendo = vogliendo

例:
”e par che in sua favella vogli destar pietà" 「その言うところによると、憐れみをかけてほしいかのようだわ」(偽の女庭師、1幕10場、サンドリーナ)

"vo' andare in Porta Rossa a comperar l'anello" 「ポルタ・ロッサに指輪を買いに行きたいの」(ジャンニ・スキッキ、アリア "O mio babbino caro")


あとがき

 
長々と書きましたが、
・第1章で挙げた代名詞
・第2章で挙げた前置詞と代名詞の組み合わせ
・条件法 -ria と半過去 -ea & -ia のパターン
・第6章に挙げた活用
・第7章に挙げた活用で【】に囲われているもの
だけ覚えてしまい、あとは、古語・文語と現代語の間でよく見られる違いを念頭に置いた上で現代イタリア語の知識を使えば、リブレットはかなり読みやすくなると思います。

古語・文語でよく見られる現代語との違いは、
・代名詞が別の代名詞や前置詞、動詞と結合、もしくは分離される
・二重子音が単一になる、もしくはその逆(vidi = viddi 等)
・連続する子音の間に母音が挟まれて音節が増える(andrebbe = anderebbe 等)
・母音が単体で、もしくはその前の子音と共に省略されることで音節が減る
・子音の置き替え(c ⇔ z、d ⇔ g、s ⇔ f、l ⇔ gli、ng ⇔ gn 等)
・母音の置き替え(uo ⇔ o、ie ⇔ e、ia ⇔ a 等)
・現代語とは別のパターンでの活用
 (例えば、遠過去の語尾には-ere動詞の一人称単数だけでも -ei/-etti/-essi/-rì/-isi/-ensi/-enni/-ssi など数多く存在しますが、どのようなものがあるか頭に入れておくことで、見慣れない言葉が出てきたときに予想がつきやすくなります。例: cessi = cedetti (cedere) 、andette = andò (andare) 等)

といったところでしょうか…。これらの違いは、動詞に限らずリブレットの中の形容詞や名詞などでもよく見られるので、ぜひ探してみてください。

伊伊辞典は以下の2点を参照しました。両者ともオンラインで無料ですのでぜひご利用ください。
Dizionario d'ortografia e di pronunzia, RAI, dizionario.rai.it
Vocaborario Treccani http://treccani.it/vocabolario
伊和辞典は定番のこちらを使用しました。
池田廉ほか 『伊和中辞典』第二版、小学館、1999年

台本は、http://teatrolafenice.it/libretti 及びlibrettidopera.it を参照しました。

ここまでお読みくださった全ての方に感謝致します。