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【読書】左巻健男『学校に入り込むニセ科学』(平凡社)

先日読んだ原田実『オカルト化する日本の教育』に続いて、オカルトまがいの教育実践に警鐘を鳴らす本書。(原田実氏の本に関してはnoteにまとめてあるのでそちらをご覧下さい。)

(1)著者について

左巻健男氏といえば、最近だと『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)が話題になっていたかと思います。私も書店で見かけ、社会科教員としてもぜひ読んでおきたいなと思っている一冊です。

左巻氏は中学・高校の教師から大学教員になり、数々の書籍を出版されています。「Rika Tan(理科の探検)」編集長として、その最新号でもニセ科学をバッサリと斬っています。

(2)「いい話」の危うさ

さて、本題に入ります。
本書は著者のニセ科学シリーズの学校バージョンです。この本で著者はニセ科学について以下のように定義しています。

ニセ科学は、科学の装い、科学っぽい雰囲気を出しているのに科学ではなkものを指すので、はじめから目に見えない、オカルト、心霊現象、占いの類いは、基本的にはニセ科学とは言わない、ただし、オカルト、超能力の類いの中には「科学っぽい装い」のものもあるので、それはニセ科学に含まれるだろう。

(p234)

科学は大切だと思っているからこそ、「科学っぽい装い」に騙されるとは何とも皮肉です。そして、学校現場はそれらをきちんと検証せずに受け入れる傾向があることも実感します。

本書に出てくるニセ科学も「ああ、何か聞いたことあるな」と思うことばかりでそっとします。例えば、

  • 『水からの伝言』

  • EM菌

  • 神経神話(私たちは脳の10%しか利用していない/右脳型の人と左脳型の人がいる/脳に重要なすべては3歳までに決定される)

  • ゲーム脳

  • オオカミに育てられた少女

『オカルト化する日本の教育』同様、本書からも自分たちの都合のいいように結びつけたり解釈したりして「いい話」として教育に落とし込むことの危うさを感じます。

(3)ニセ科学が学校に入り込む理由を考える

実は、私が以前勤務していた学校においても、EM菌がプールに投入されていました・・・。「これって効果あるのかな」と疑問に思う教員も多かったのですが、少なくとも私が異動するまでは続けられていました。なぜでしょうか?

答えは単純です。

一部の地域住民が要望したからです。

当初、EM菌がどのような経緯で学校に持ち込まれたのか、詳細はわかりません。しかし、地域住民の方が毎年ボランティアとして実施していたことは確かです。こちらが頼んでなくても・・・です。

学校は地域に支えられています。学校、家庭、地域の連携なくしては教育活動は行えません。これはこれで大切な考え方です。

しかし、学校は「地域の要望に答えなくてはならない」と過剰に反応せざるを得ないのが現状です。(今の学校を取り巻く社会状況を考えれば理解していただけるのではないでしょうか。)

EM菌も「なんだかよくわからないけど、○○さんがいいものだって言うし、断る理由もないからさー。」くらいの雰囲気で実施されていたように記憶しています。もちろん効果があるかどうかは検証されません。検証もされないので何となく続いていくということになります。

これはあくまでも私の個人的な経験ですが、このような状況は他の学校でも起こっているのではないでしょうか。

もちろん、入り込む理由は地域だけではありません。校内で影響力をもつ教員から持ち込まれることもあるでしょう。こちらの方がパターンとしては多いと思います。

いずれにせよ、共通しているのは「それはおかしい」と言えないこと、見えない圧があることです。たとえ持ち込んだ当人が学校に関わらなくなったり異動したりしても、だれかが「おかしい」と声を上げない限り、それは続いていくのです。

(4)万能な教育実践などない

私も教員としてキャリアを積み、ある程度自分なりの教育観ももつようになりました。自分に近い考えの人、そうでない人、いろいろな人と関わりながら、自分ができることを日々模索しています。もちろん、教員としてこれだけは譲れないというものもあります。しかし、それが強すぎると周りが見えなくなってしまいます。だからこそ、様々な立場の人の話を聞いたり、ある事象に対して多面的・多角的に考察したりすることが大切だと思います。

そしてもっとも大切なことは、万能な教育実践などないことです。

「クラスみんなが笑顔になる」や「絶対学力が伸びる○○」などといったことを自信満々に語る教員や教育書には注意が必要だと思っています。教育に携わっている人なら、「みんな」や「絶対」だなんて簡単に使える言葉ではないことは自明ですから。

著者が本書の最後に記したこの言葉を、胸に刻んでおこうと思います。

このような認知バイアス、確証バイアスの存在を教員はしっかり理解しておく必要がある。

(p242)