【読書】原田実『オカルト化する日本の教育ー江戸しぐさと親学にひそむナショナリズム』(ちくま新書)
教員になりたての頃、全校集会で校長が「江戸しぐさ」の話をしていました。「傘かしげ」を例に、「思いやりの心をもちましょう」とか、そんな話だったのを覚えています。
道徳でも「江戸しぐさ」が取り上げられるなど、当時は確実に「いい話」として教育現場で扱われていました。私は積極的に取り上げませんでしたが、かといって違和感を感じることもありませんでした。
しばらくして、「江戸しぐさ」は存在しなかったという話をテレビか何かで知りました。ああ、作り上げられた話だったのかと思うのと同時に、以前からうっすら感じていた道徳教育へのもやもやが強くなりました。
本書は「江戸しぐさ」だけでなく、親学が教育現場に広がった背景などについても丁寧に記されています。
「江戸しぐさ」がなぜ何の記録にも残らず、1970年代まではただ一人の伝承者の記録のみに残っていたかという疑問に対して、「江戸しぐさ」の普及に努めた越川氏が著書で「江戸っ子狩り」(明治政府の弾圧)があったという答えを提示している話には笑ってしまいましたが、こんなトンデモ話が真面目に道徳教育として扱われていたことは決して笑えない事実でしょう。
親学についても、「伝統的子育て」という非科学的な思い込みを公教育が真面目に導入しようというのですから、これまた笑えない事実です。
何の根拠もない「江戸しぐさ」や親学がイデオロギーに関係なく教育現場に広がったという原田氏の指摘は鋭いなと思います。
「明白な虚偽」が「いい話」として持ち込まれる教育現場の危うさに対して、教員はどう向き合うのか。与えられたものが必ずしも正しいわけではないこと、鵜呑みにせず自分で調べたり考えたりすること、ものごとをあらゆる角度から批判的に見ること・・・。自分は大丈夫と思わずに、そういう「危うさ」の中に身を置いていることを常に意識していたいです。