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『観念結晶大系』―人見知りの考思石―

◆ 『観念結晶大系』高原英理 著 (書肆侃侃房)を読んで

4月7日、庭に犬のお墓を作る。スコップで地面を掘りながら、いつかここに「結晶樹」が生えたらいいなと思う。メソメソしつつも『観念結晶大系』のおかげでずっとおだやかな気持ちでいられた。
そう . . . 2月、いくつかの偶然が重なって手に取ることになったこの本は、終末期の犬の世話をしながら読むのにぴったりだった。物語に夢中になって、治療費の心配やいろいろ忘れることができた。
「石英粉」「風来星」――言葉のひとつひとつが、声にするたびに喉と耳のあたりで発光し、息に混じってきらきら、髪や肩にも降りそそぐ。光はやがて静かに、生も死も隔てなくやさしく包み込んでくれたのだった。

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読めない漢字や知らない言葉が多かったから、いつにも増してつっかえつっかえ、かみしめるように読んだ。それでも音楽が聴こえる、わからないことも楽しい、そんな本だった。

途中で何度か、Twitterに気休めの感想を載せた。こんなふうに生真面目な小説は初めてで、緊張していたのだ。物語の雰囲気や登場人物をいちいちなにかに例えたりもした。初めて会った人のことを、すでに知っている誰かとすこし似ている . . .  とカテゴライズし認識していくように。

一回目を読了した3月9日には、写真を載せてツイートしている。

#観念結晶大系  壮大な叙事詩のようなお話だから、読後感を書くの難しいな。共感するところがいっぱいだけど、それを言ったら、自分は繊細で夢見がちな人間だと公言するみたいだし。それでも、だれかと感想を分かち合いたいと強く思わせる、不思議な一冊だ。再読のためのポストイット、貼り過ぎ(笑)

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ほんとうに。好きだと表明するのをためらうくらい、まっすぐで哀しく美しい物語なのだった。
でも、だからこそ分かち合いたいわけで、(この本は少なからぬ読者を救うことになるんだろうな)という予感めいた思いもあった。
失意や悲しみの中にある人には、すばらしい気晴らしになるだろう。”石化”するタイプの人にとっては、いたわりや励ましそのものだ。
それに、こうした上質のファンタジーが読めたなら、人は、科学とエセ科学を一緒くたにしたり、おかしな陰謀論やカルトに染まらずにすむのではないかしら。

先日も友人と、「イギリスの伝統的な小説世界を背景にして登場したカズオ・イシグロが、いまSF的設定の小説を描いているのは、SFや幻想文学だからこその仕事があるから . . . 」と話したのだけれど、『観念結晶大系』もそんなミッションを持った作品に違いない。
倫理の教科書/副教材にしてほしいよ。

第二部の途中に、「煩雑な説明が不要な向きは……を飛ばしてその先をお読みいただきたい」との断りのもと、物語世界の事象辞典の抜粋があって、めっちゃツボ。「ピット」(石綿毛)という生き物の説明とか、かわいい。細部が楽しすぎてあぶない。 (^-^*)♪

そこには、わたしが石のついた指輪が好きな理由も、余すところなく描かれている。今後「なぜそんなに宝石が好きなの?」と訊かれたときには、この本を読んでもらうことにしよう。

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鉱物や結晶が好きだし、人見知りだしするから、”石化”する人たちに深く共感する。
でも、わたし自身はもう少し有機質な感じだろうと思う。
拾い集めた石やガラスの中に、貝殻や木の実が混じっているような . . . 。

義母の形見の犬のハッピー(16歳)は、4月7日、義母の誕生日に息をひきとった。
『観念結晶大系』は、2021年の春を象徴するような一冊になった。


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       『観念結晶大系』高原英理 著 (書肆侃侃房)


💕 以下ご参考まで。Twitterに投稿した雑感から抜粋します。
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◆ 一月前、本好きの二人の友人が教えてくれた豊﨑由美さんの書評、80年代サブカルへの愛も溢れていてすてきだった。
https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/84664
◆ Facebookの野鳥観察の会 「Facebook Birders」に、カンムリシジュウカラの美しい写真が投稿されていた。赤い花の上で、額に白いものをいっぱいにつけて、かわいい。数年前の4月の写真で、撮影場所はブータンとあったから、白いのはもしやヒマラヤの雪なのかと思って尋ねると、「シャクナゲの花粉なんですよ。この仲間は木の実か虫を普通は食べているので、花の蜜を食べているのは珍しいと思います」とのお返事。
花粉だって! 
そういわれてみると、写真のカンムリシジュウカラ、おいしい蜜を食べて、得意そうにも満足げにも見える。
ブータンの春を想像する。
お礼のコメントをしてPCを閉じた。そのとき、注文していた本が届く。
◆ 本の扉のエピグラフには、次のように記されていた。
「わたしたちは、宇宙を旅することを夢みている。だが宇宙は、わたしたちの内にあるのではないか。わたしたちは精神の深みを知っていない――内に向って神秘にみちた道が通じている。
ほかならぬわたしたちの内にこそ、永遠とその世界――過去と未来があるのだ」  ノヴァーリス『花粉』(青山隆夫訳)
花粉だって!
『観念結晶大系』いい予感しかしない。
◆ 期待はるか以上。宝石でもビー玉でもキラキラ好きにはたまらない。この「奇書にして希書(by 豊﨑由美)」に共感する読者が多いといいな。
◆ 『観念結晶大系』キラキラきれいで道草ばかり喰ってしまう。たとえば
「トック鳥は深い緑色をした有翼の鉱物性生物で、六角形の翼四枚を使って岩塊間を飛ぶ。‥‥塵芥性の石英を餌とする(P. 180)」
エドワード・ケアリーとショーン・タンの描く絵をそれぞれ思い浮かべては、しばしうっとり。贅沢な読書。
◆ 連想が止まらない。聞こえてくる音楽のせい? それとも空間の感じのせいかな、ケン・ウィルバーのWitness(目撃者)やインテグラル理論も、心をよぎる。
◆ 第二部「精神の時代」のアランフェとサピオは、銀河鉄道の夜のジョバンニとカンパネルラみたい。
◆ 『観念結晶大系』きれいだった。読了したくなくて、いつにもまして遅読みしていたけれど、ついに読了(涙)。。
◆ 最後のほうに扉のノヴァーリスの「花粉」がまた出てきてうれしかった。
絵描きの友人やピアノの調律師だった昔の恋人、科学や信仰や宗教、 いろんな人やものやことを何重にも想起させてくれる物語だった。全体としては、せつなくて悲しくて、カート・ヴォネガットの「猫のゆりかご」かな?アイス・ナインとか。
★★ 『観念結晶大系』
キリスト教徒のみなさんの感想が聞きたい。
「永劫回帰」、「善」、ユングのグノーシスなどいろいろ考えさせられて、まだすこし戸惑っている。
日本ではクリスチャンは少数派で、異端とか異教とか . . .
『薔薇の名前』や『背教者ユリアヌス』も連想したり。
哲学的社会派幻想文学?

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P.S. さらに猫のしっぽ。上記 ★★にすこし補足します。
+*+-+*+-+*+

ここで、感想が聞きたいと思ったのは、作中に、ニーチェの「神は死んだ」をはじめ、宗教的なよりどころを持つ者にとって耳の痛い話がたくさん出てくるからです。
帯にも、神よりさらに高い次元 . . . 
「神よりさらに 高い次元に 響く音を この小説の中に 聴きました。 
 すべての着地点を 知りました。 町田康」
と印刷されていて . . . 。

わたしには、物心ついたときからずっと神様がいて、それは宇宙の摂理そのもののような大きくあたたかい存在で、感じ方としてはUU(ユニテリアン・ユニヴァーサリズム)が一番近いのですが、とにかく、デフォルトで神様が「いる」のです。信じる信じないではなく、ふつうに、たとえば母親や弟みたいに、確かにずっと ”いる”・”存在している”。ですから、わたしには、「神などいない、必要ない」と言う人のことがほんとうには理解できません。人生のある時期に、ちゃんと勉強したり考えたりして、または突然のひらめきや啓示を受けて、あとから神様をインストールした人たちのことも、想像はしても実感としてはわからない。
そして、そのことが子どもの頃から、わたしの人見知りの原因だったので――
『観念結晶大系』という哲学的な(宗教的ともいえる)作品を、なんらかの信仰を持つ、あるいは持たない人々が、どんなふうに感じ、受け止めるのか、心から知りたいと思うのでした。
みなさんの読後感を、ぜひお聞かせください。

                    2021年4月 💕 Always, やみぃ


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