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2017年明けに聞いたもの

文章最後の「★」は最大4つの、アメリカの新聞方式

Pain of Salvation - In the Passing Light of Day
 ちょうど10年前に出たこのバンドの「Scarsick」を私は非常に好んでいて、それまで人類の進化だのカラチャイ湖への放射能物質不法投棄だのを変拍子多用のノリづらい楽曲に載せて歌っていた過去作とはまるで違う、社会への普遍的な憎悪と悪意が非常に分かり易く突き出たメッセージと、平均7分の長尺でもちゃんとパンチの効いた曲の数々から、異様な説得力を感じたものだ。中心人物のダニエルさんが当時家族を持ったのもあって、表題曲で「Sick!」と叫ぶのは息子のオムツ代にキレているんじゃないかとの、妙な想像を膨らませてくれたりもした。
 スカーシック以降のこのバンドのカタログは、何となく子育ても巧く行ってリラックスした感じが伝わってくる、正直あんまり面白くない内容だったのと比べると、今回は10年ぶりにキレた感が前面に出ていて、かなり聞き所が多かった。
 まあこのダニエルさんも、10歳で童貞を捨てただの、幼い頃に親戚から虐待に遭っただの、クセモノな語り手なもので、2014年には長期間の入院を余儀なくされるほどの生死の境を彷徨ったという逸話もあるから、それが今回の、人間としてはある意味で達観した歌詞やメッセージ性に、繋がったのかもしれない。
 今回はアップテンポの活きの良い曲や、目立って劇的な瞬間が殆ど無く、ひたすらドンヨリ進行なのだが、重い音を出す部分ではしっかりした鋭さを伴って出してくれるし(この手の音造りに定評ある、もう一人のダニエルさん起用が大正解)、何よりも曲目から想像がつく通りの世界観に即した暗さや生真面目さ、荘厳さには、ブレが一切ない。
 ロック音楽とは言え気軽に聞ける感じでは無いし、年間を通してたぶん4回聞くかどうか、ではあるけど、そうした気分になりたい時に、そういうものだとの心構えで対峙する事で、その1回で得られる情景は、重い分だけ、深い。(★★★1/2)

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AFI - Self Titled 2017:'80年代のイギリスを席巻していた「ニューウェイブ」と呼ばれるジャンルの特徴であった、朗らかさと陰鬱さの中間を行くようなメロディを奏でる音楽性に、アルバムタイトルに初めて自分たちのバンド名を冠した今回益々、焦点が絞られている。それこそ、このバンドが「Just Like Heavenをライブでカバーしたほど影響を公言する、全盛期のThe Cure的。とはいえ、元々はサンフランシスコよりさらに北のユカイアという田舎から出てきた人たちで、出目は能天気なパンクバンドである為、あの頃のイギリスのどのバンドよりも曲が明らかに速いし、それが今では立派な個性になっている。過去に2度ほど見れたコンサートも活気があって好印象だったし、何気に同年代のひとたちによるバンドだけに、結構応援したい。(★★★)

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Run the Jewels - Run the Jewels 3:このアルバムのミソは、公式が無料で全曲ダウンロードを推奨しているところ。カラのメアドを入れても、自動的にzipをダウンロードしてくれるようになってる。勿論肝心の曲も、このユニットらしいというか、昨年の大統領選ネタまみれ。何しろ中心人物のキラー・マイクは、コルベアに代わってからのレイトショーに出演して、インテリぶりを存分に披露するようなひとなのだから。まあ、怒りに集中しすぎて後半、けっこう息切れしてくるが、辛辣な言葉を矢継ぎ早に浴びせる点においてはヒップホップが他の音楽ジャンルを圧倒しているし、このユニットの怒りの発露はそれらの中でもズバ抜けて直情的で巧みなのは、今回も同様だ。(★★1/2)

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Sunburst - Fragments of Creation:知人が昨年のベストアルバムとして挙げており、そのひとのチョイスは毎回スジ通ってて頼りになるのだが、まあ彼が選ぶのも納得の、マニアックな愉しさに溢れた一作だった。100点満点で90点ではなく、88点や89点に悶えるような、メタル好きにはかなり響く要素が満載で、ギターの活躍ぶりがとにかく冴えてる(「このギターソロが堪らない」的な持ち上げも十分、可能)。ここ5年ぐらい、ギリシャから出てくるヘビーメタルバンドの数々は、先駆者たちの美点を踏襲しつつ、勢いと若さに溢れていて頼もしいが、このバンドのその中に確実に入る。ジャケや歌詞から想像できるままの子供っぽい世界観がまた、頼もしい。(★★★)

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Sumac - What One Becomes:サンバーストと共に、私含めて、これを結構、見落としてる人が多いかも……しれない。バンド消滅後にまさかその名が世界的に悪い意味で有名になるとは誰も思わなかったIsisだが、その中心人物が関わったユニットで、他のメンツを見たら、骨太なインディ系ロックバンドとして個人的に結構好きだったThese Arms Are Snakesの元ベーシストも居たりと、人選がマニアックだ。ところが出てきた音は、こちらの予想の遥か上を行く、グシャグシャに歪んだノイズの海。ヴォーカルも完全に吐き声。5曲で1時間近く、最初から最後までやることが一貫してる。末期アイシスのインテリ的でプログレッシブな部分がここまで潔く捨てられているのは、なかなか気分がいい。流石に、通して聞くと、こっちも持たんけど。(★★)

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Opeth - Sorceress知人もワーストに挙げていたが、100%同意。今のこのひとたちは、「こういうアナログな音楽ジャンルを器用に出来る自分たちがスゴい」的な雰囲気があまりに強すぎて、ちっとも面白くない。他人に作らされている感がもうスゴくて、聞き手を幽玄で不気味ながらある種の美しさに満ちた幻想的な世界に導いてやろうとの気概が存分に感じられたゴースト・レヴァリーズやそれ以前の作品で生み出した個性が、ここ10年ぐらいでキレイさっぱり消え失せてしまった、との印象にトドメを刺してくれる。それでも期待させられては聞いてみて、失望させられて、の点で、私のマゾな感性を刺激してはくれるンデスケドネ。だからワースト。(ZERO STAR

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