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イタリア映画の久石譲?アカデミー賞から盗作問題まで!

今年7月に91歳で亡くなったイタリア映画音楽の"マエストロ"、作曲家のエンニオ・モリコーネ氏について追悼の意を込め、モリコーネ氏の世界的ヒットの原点となった"マカロニ・ウェスタン"作品について、今回の記事に取り上げる。

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(Wikipediaより)

モリコーネ氏は、イタリア国内では日本でいう久石譲氏のような存在であったようだが、日本国内ではあまり名前が知られていたわけではなかった。しかし、映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の大ヒットや晩年の2016年にアカデミー賞作曲賞を受賞したこともあり、彼の死は日本でも様々なメディアに取り上げられ、その存在の大きさに改めて気付かされた。

●日本経済新聞 2020年7月7日付「エンニオ・モリコーネさん逝く 哀愁誘う旋律で映画彩る 」

●朝日新聞デジタル 2020年7月6日付「エンニオ・モリコーネさん死去 映画音楽でアカデミー賞」

そこで、今回は、モリコーネ氏の60年以上に及ぶ輝かしいキャリアの代表作を取り上げつつ、モリコーネ氏の世界的ヒットの原点となった"マカロニ・ウェスタン"音楽について書きたいと思う。

個人的な話ではあるが、留学先の大学の授業がきっかけで調べ始め、日本との関わりも興味深いものがあったので、今回記事として紹介したいと思う。


エンニオ・モリコーネ氏の生涯

1928年ローマ生まれ。
サンタ・チェチーリア音楽院(ローマ)で学んだ後、作曲家としてのキャリアをスタートした。デビュー作として一般的に知られているのは、1961年に公開の映画「ファシスト」である。

(映画「ファシスト」よりメインテーマ"Il federale")

1960年代には、幼馴染であったイタリア人のセルジオ・レオーネ監督とのコンビで、映画「荒野の用心棒」が公開、主演のハリウッド俳優クリント・イーストウッドの出世作としても大変話題になった。(「荒野の用心棒」については、次の項で詳しく触れる。)

1964年公開の「荒野の用心棒」(メインテーマ"Titoli(さすらいの口笛)")に続き、1965年「夕陽のガンマン」(メインテーマ"For a Few Dollars More")、1966年の「続・夕陽のガンマン」(メインテーマ"The Good, The Bad and The Ugly") が公開され、全三作は「ドル箱三部作」と呼ばれた。

レオーネ監督とのコンビは、1984年公開の映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(メインテーマ"Debora’s Theme")まで続いた。この作品が、レオーネ監督の遺作になった。映画のメインテーマは、優しく包み込まれる様で、とても印象に残る。

その後、1986年公開の歴史映画「ミッション」で新境地を開拓。この映画は、18世紀スペイン植民地化の南米で、先住民へのキリスト教布教に従事した宣教師たちを描いている。

劇中で宣教師ガブリエルが先住民の前で吹くオーボエのメロディ「ガブリエルのオーボエ」は、歌手サラ・ブライトマンによって"ネッラ・ファンタジア"としてイタリア語の歌詞がつけられた。このメロディーは、一度は耳にしたことがあるかもしれない。

(映画「ミッション」より"Gabriel's Oboe")

(Sarah Brightman / "Nella Fantasia" 、動画は日本語の翻訳歌詞あり)


1987年には映画「アンタッチャブル」(メインテーマ"Main theme")でグラミー賞を受賞、

さらに1989年公開の映画「ニュー・シネマ・パラダイス」(映画「ニュー・シネマ・パラダイス完全オリジナル版」日本版劇場予告)で世界的な知名度を得た。

2016年には、クエンティン・タランティーノ監督のミステリー映画「ヘイトフル・エイト」で、実に35年ぶり西部劇のために作曲した。(西部劇については、次の項で詳しく触れる。)

物語は、猛吹雪の中の家屋に閉じ込められた8人を主題に密室劇を描いており、劇中歌は、ミステリアスなメロディーのものが際立つ。

この作品で、第88回アカデミー賞作曲賞を受賞。(アカデミー賞には、生涯合計で6回ノミネートされた。) この劇中曲の"L'Ultima Diligenza per Red Rock"をモリコーネ氏自身が指揮した動画がこちら↓

(映画「ヘイトフル・エイト」より
"L'Ultima Diligenza per Red Rock (versione integrale)")


日本においては、2003年の市川海老蔵氏主演・NHK大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」(オープニング曲"Brivido Di Guerra")の音楽を担当したほか、

2004年(東京)と2005年(東京・大阪)におこなわれた来日公演では、自身の映画音楽を演奏したオーケストラを自ら指揮。2019年には、旭日小綬章を受章した。2020年7月6日ローマの病院で死去、91歳だった。



"マカロニ・ウェスタン"作品におけるモリコーネ氏の音楽

"マカロニ・ウェスタン"とは、1960年代から1970年代前半に作られたイタリア製西部劇を表す和製英語である。

西部劇とは?
19世紀後半のアメリカ合衆国における当時フロンティアと呼ばれた主にアメリカ西部の未開拓地を舞台にした時代劇・アクション作品の総称。原語のカナ表記にしてウエスタンとも言う。(ピクシブ百科事典より)

このイタリア製西部劇、欧米では、"スパゲッティ・ウェスタン"と呼ばれた。(そのほかにも、"イタロ・ウェスタン"や"ユーロ・ウェスタン"という呼び名もあるそう。)

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(Wikipediaより、映画「荒野の用心棒」の主演クリント・イーストウッド)

マカロニ・ウェスタンブームの先駆的存在となった「荒野の用心棒」(1964)は、世界的に大ヒットし、この映画の音楽を担当したモリコーネ氏の名が知られるきっかけになった。

モリコーネ氏の音楽は、それまでの西部劇とは違った全く新しいものであったため、世界中を驚かせたのである。それには、3つの要素があった。

(映画「荒野の用心棒」より"Titoli(さすらいの口笛 )")

①まず、映画のテーマ曲である"Titoli(さすらいの口笛 )"は、特徴的な"口笛"の音ではじまる。その後、フルートの変わった奏法の音や、馬の鞭を叩く音など"従来の楽器の使い方"というものをしていない。
というのも、この映画には制作費の余裕がなかったので、ハリウッド映画のようにオーケストラを雇うお金がなかったのである。そのため、変わった楽器を使用したり、従来とは違う楽器の使い方を取り入れたりして、面白さ・個性を出していったという訳である。

②また、劇中曲には、エレキギターが使用された。"西部"の時代には、電子楽器はまだ存在していなかったこともありそれまでの西部劇には使用されたことがなく、真新しかったのである。1960年代は世界でビートルズが大流行していた時代でもあったため、さらにヒットするきっかけとなった。

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(Wikipediaより)

③そして、モリコーネ氏は、1960年当時流行っていた"実験音楽" のグループの中にいたので、これを映画音楽に持ち込んだ。

実験音楽とは?
1950年代以降のジョン・ケージから始まる、一つの音楽作曲の考え方。既成の芸術概念におさまらない、新たな音楽をつくり出そうとする活動
詳細はこちら 

つまり、「荒野の用心棒」は、"マカロニウェスタン"だが、"実験音楽"でもあったのである。


①と③の要素は、重なる部分もあるが(①の"従来の楽器の使い方"をしないことは、実験音楽にも当てはまる)、①は制作費の問題が大きかったのに対し、③はモリコーネ氏自身の個人的な音楽作曲に対する考え方が現れているといえるだろう。

たった3分ほどの楽曲にここまでの要素が詰め込まれて、聴く人を飽きさせない。もはや映画音楽の枠を超えて、ひとつの独立した曲のように感じる。


「荒野の用心棒」の盗作問題

映画は大ヒットを記録、音楽も大変話題になった「荒野の用心棒」であるが、なんと公開後には"盗作問題"が取り沙汰された。

1961年公開の黒澤明監督「用心棒」とストーリーや背景設定が酷似していたのである。「荒野の用心棒」主演のクリント・イーストウッド氏は、黒澤氏のファンであったこともあり、台本を読んだ際にすぐ日本で公開された「用心棒」だと分かったそう。

1962年、映画製作配給会社の東宝は、イタリアの映画製作会社からの映画購入の依頼を受けて、試写会を開いた。そこで「荒野の用心棒」と「椿三十郎」を上映した。

ところが、1964年の「荒野の用心棒」公開後、東宝が「用心棒」からの盗作に気づき告訴、勝訴した。裁判の結果を受けて、イタリアの映画製作会社は黒澤氏たちに謝罪し、日本台湾韓国などのアジアにおける配給権10万ドルの賠償金、「荒野の用心棒」の全世界における配給収入の15%を支払うことになった。

と、中々に衝撃的なストーリーだが、「荒野の用心棒」は、先に述べたようにイタリア国内にとどまらず世界的にヒットした"マカロニ・ウェスタン"の先駆的存在であり、主演のイーストウッド、監督のレオーネ、そしてモリコーネ氏にとっての出世作として今も語り継がれているだから、どれだけこの映画が1960年代の映画史に影響を及ぼしたかがわかるだろう。

おわりに

今回は、モリコーネ氏にフォーカスし、そのキャリアと素晴らしい作品、そして彼が築きあげた「マカロニ・ウェスタン」音楽についてを取り上げた。

"マエストロ"が指揮する生のコンサートはもう叶わないが、彼の音楽は人々の心に生き続けていくだろう。






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