企業向けITや文書情報管理からみたChatGPTのインパクト

AIによって仕事を奪われる、という話をあちこちで見かけるようになってから、それなりに時間が経ちました。しばらくは具体的なイメージが持てなかった人も、昨年にはMidjourneyやStable Diffusionのテキスト指示から画像を生み出す能力を目の当たりにし、意図せず画風を真似られてしまったイラストレーターの苦悩に触れるなどして急に現実味を帯び始めたと感じているかもしれません。そこに、自然な対話で雑多な質問、リクエストに応えてくれるChatGPTが登場し、一気に拍車がかかった感があります。(事実、非技術系である弊社の社長も強く反応していました)。絵を使った仕事よりも、言葉を使った仕事の方が圧倒的に間口が広い、ということでしょうか。

技術面に明るい人達が創意工夫を凝らして得た面白い結果が耳目を集めた最初期に比べ、有償プログラムの話も具体化し、早くもプチ幻滅期とでも言いますか、控えめなトーンで今後の使われ方を検討している人も多く出てきています。

Mathematicaの開発者Stephen Wolfram氏の上記記事は特に印象的です。Wolfram Research社はMathematicaベースで自然言語の質問インターフェースを持つ検索エンジン Wolfram|Alpha を提供しています。これは自然言語の処理の部分は予め想定されている特定のパターンにしか対応していないものの、それに合致すれば非常に信頼性の高い回答を返してくれるものです。それに対してChatGPTは、あくまで「それっぽい」回答を返してくれるだけ、とも言えます。しかし、受付可能な質問のパターンは極めて広範です。この実装方法も得意分野も異なる2つの技術が「自然言語」という共通のインターフェースで繋がることで、相互補完的により高いレベルの結果を生み出せる、というわけです。

「ChatGPTはしれっと嘘をつく」、ということ自体は今では割と広く認識されています。従って、嘘を嘘と見抜ける人でないと使いこなすことは難しい、と。これは恐らく一面の真理であり、このようなAIによる支援を受けたアウトプットは少なくとも現状では、人間の判断を経由して初めて使い物になる、とされています。それが自然言語によるそれっぽい回答、である場合は、さらにその「裏を取る」能力が判断する人間に求められます

この点に着目しているであろう技術として、Perplexity AI社のPerplexity Askがあります。

こちらはChatGPTよりも学習データが新しいことに加え、その回答に至った根拠へのリンクを返してくれます。(ChatGPTもおまじない次第で似たような出力を得ることができるようですが)

出典情報が明らかであれば、それを直接人間があたって信頼性を判断することはある程度は可能になります。

結局全部読んで判断するのでは意味が無い、と考える人もいるかもしれません。確かに「それっぽい」ものを鵜呑みにしてしまうことよりは相当に手間がかかります。しかし、何処にどんな情報があるのかを調べる前に、意味のある形で提示された、これら出典情報へのリンク集は、従来のリサーチ方法に比べれば相当に高効率のものであるとも言えます。Microsoft社によるChatGPT採用の報もありましたが、やはり人間と分散されてしまっている諸情報を繋げる検索サービスとしては、大きな潜在能力を持っていると言えます。

企業内情報システムや文書情報管理からみて

かれこれ20年あまり企業向け文書管理システムを取り扱ってきた立ち場からすると、あまりにも繰り返し語られた話ではあるのですが、ホワイトカラーの就労時間の多くが「情報探索」に浪費されていると言われています。この問題を解決するために、文書管理システムや企業向けの検索エンジン(エンタープライズサーチ)などが導入されてきました。そうした長年の努力にもかかわらず、実態としては個々の業務システムの中に埋め込まれた情報やそこに添付されたファイルの中の文言まで一括で検索できるような環境が実現することは稀です。また、仮に検索の範囲を広げるような技術的な基盤が用意できたとしても、業務ルール上誰にどの情報を見せても良いか、ということを(未来の分まで含めて)意思決定することは難しいという事情もあります。この辺りはビジネスとIT、それぞれの知見だけで判断できるものではないのですが、大抵はどちらかの責任者に一方的に判断が委ねられてしまうという歪みがあります。しかし、本論と外れてしまうためここでは立ちいりません。興味がある人は是非ご連絡ください

(中略)

結果、ナレッジマネジメントの極意はKnowWhoである。ということになっています。文書の形になっている情報だけでなくなっていない情報にこそ価値がある。関連する文書を見つけることがそもそも難しい上に、それが正しい最新情報である保証を得ることはさらに困難である。となると、前述の見せても良いかどうかというアクセス権の問題も含めて総合的に判断できる当事者という人間を経由するのが一番間違いが無い、というわけです。仮にその担当者がまだ社内にいて、問い合わせをすることが可能であれば、いったんその人に相談することさえ出来れば、多くの問題が一気に解決します。そこまで細かく憶えていなくても、確認すべき情報の所在かそのヒントくらいはくれそうです。そうでなかったとしても、「社内で一番詳しい人に聞いてもわからなかった」という事実を授けてくれます。

このような事情を踏まえると、ChatGPTのような技術は、企業内の検索サービスにとっても大きな可能性があるということがなんとなく想像してもらえるのではないかと思います。実は現状でもっとも洗練されたナレッジマネジメントであるKnowWhoが最終的に提供してくれる情報は、それ単体ではそれ程価値があるものとも言い切れない、AIによる代替の可能性が大きいものである、ということです。また、これまでの検索サービスは、「あいまい検索」の実現やそれに対する期待ギャップの解消にもそれなりに苦慮してきました。AIの言語モデルを経由することで、その面での摺り合わせも合理化できる期待があります。

しかし、まだ大きな問題が一つ残されています。ChatGPTのような技術は、社内の情報についても「それっぽい」回答をさながら記憶が曖昧で今ひとつ責任感も薄そうな元担当者のように返してくれるだけ、というのが現実的な絵姿だとすると、どうやって裏を取ったらよいのか

やはり残された情報を直接見て判断するしかありません。つまり、後から見て信憑性を判断できるような形で情報を残しておく必要があるわけです。これは、将来的に裏取りまでもが自動化される状況が来ても、恐らく変わらない原則になるのではないかと思います。その信頼性情報付の一次ソースを見るのが人間なのか別のAIなのかという違いになるはずだからです。

一気にセールストークっぽくなってきてしまいましたが、必ずしも「文書管理システム」が必要なわけではありません。それはとても強力なツールではありますが、正しく運用しなければ信頼性の保証はやはり生まれません。また、別の種類の情報共有ツールなどであっても運用の仕方次第では十分に事後的な信憑性の評価に耐える体制を構築することも可能なはずです。組織は、未来の人やAIが「嘘を嘘と見抜ける」様にする責任を負うことになった、というのがChatGPTが与えたこの方面でのインパクトである、と言えるのではないでしょうか。

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