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【映画レビュー】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

私はこの映画を見るにはあまりに知識が足りなかったけど、それでもとても魅力的なタランティーノ作品として楽しめるものだった。

まず、この作品で私が見るタランティーノ作品は4作目なので、タランティーノ作品がめちゃくちゃ面白い事がわかっているし、空気感も理解している。その上、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットはちょうど青春時代のイケメン・ハリウッドスターの代名詞みたいな人たちで、彼らが共演しているだけですごい。二人ともおじさんになったなぁ、でもカッコいいなぁと彼らが会話しているだけなのに特別な時間に思える。物語は役者のリック(ディカプリオ)とその専属スタントマンのクリフ(ブラピ)を軸に進む。

ディカプリオはかつてドラマシリーズでいくつもヒット作の主役を張ったものの、今は仕事が少ない落ち目の元スターだ。納得ができないオファーに自分が落ち目だと痛感させられて落ち込んだり、酒を飲んで仕事現場に行き上手くセリフが言えず控え室で暴れたり、彼は私たちが「昭和のスター」を連想するような、「昔のハリウッドスター」だ。きっと昭和のスターもそうだったように、彼もなぜか憎めない。隣の家に住んでいる若くて勢いのある映画監督を見かけて、アイツは超有名人なのにオレは……といじけるかと思いきや、あんな有名な人の隣に家を構えているオレはまだまだ捨てたもんじゃない!と元気を取り戻す。NGを連発し控え室で暴れた直後に気合いを入れ直し、会心の演技を披露してさすがスターだと思わせる。ナチュラルに尊大なところはあるが、悪い人間ではないなと思わせる絶妙な描き方だ。

彼が撮影所で出会った共演者の役者の女の子との交流がとても良かった。女の子は小さいのにとても意識が高く、役者として出来る準備に最善を尽くしている。その横でディカプリオは酒が抜けず調子が悪そうだ。まるで生活の全てを野球に捧げる大谷翔平と、酔っぱらって練習に現れるのに試合ではホームランを打つ事を自慢している往年のプロ野球選手のようだ。でも、どちらも魅力的だ。全く価値観が違うのに反発することなく、女の子は泣き出したディカプリオを優しく慰めたりする。いいところがなかったディカプリオが彼女の前で快演を見せ、認められたところはとても嬉しい。大人びているのに無邪気で、しかも美人で、ほんとうにかわいい女の子だった。

一方、ディカプリオの専属スタントマンのブラピも、ディカプリオの仕事が減ってスタントマンの仕事はほぼ無い。運転手や付き人のような仕事ばかりで、スターの残り香のある裕福な暮らしをするディカプリオとは違って、車もボロく貧乏暮らしだ。しかしブラピにはそれを感じさせない心の余裕が常にあり、雇われ人でありながらディカプリオを親友のように支える。彼の心の余裕はきっと、自分が「強い」事を知っているからなのだろう。スタントマンの仕事が無くても見事なドライビングテクニックで車を飛ばしたり、はしごを使わず屋根に飛び乗ったり、彼の強さは錆び付いていない。他人から嫌われたり刃を向けられても自分を侵されないとわかっているから何とも思わないから余裕があるし、自分を認めてくれている主人の事は好きだが、依存していないので友人のような関係を築ける。

雇用関係以上、家族未満の彼らの魅力的な関係と、ハリウッドで実際にあった殺人事件を融合した映画、という事なのだろうけど、私はこの事件を知らなかった。アメリカでは大変に有名な事件らしく、この映画はそもそも事件を知っている前提で作られていると思う。なので事件を知らない日本人からすると、事件を知っている人がわかる繋がりや感じる緊迫感が見えないまま映画が終わってしまい、あれ?何だったんだろうと思ってしまう部分もある。

映画マニアのタランティーノ監督がちりばめた映画好きのための伏線も、きっとわからないものが多かっただろう。それでもこの映画は、事件を知らなくても映画マニアじゃなくても魅力を大いに感じられる映画だ。この作品を通して映画を知る事ができるという部分もある。何よりタランティーノ作品らしい、唐突に差し込まれる下品さとか、グロくてやりすぎな暴力とか、カッコいい会話とか、それら全てがめちゃくちゃ面白いトコとかを楽しめるので、自分がわずかな暴力耐性・グロ耐性があって下品が好きな、タランティーノ作品が楽しめる人間で良かったなと思った。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 4.0

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