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【映画レビュー】ファースト・マン

宇宙関連の映画はタイトルだけで既に見た作品か見分けがつきにくく、とりあえず見始めてみたら初見の作品だった。しかもポスターからSF宇宙ものだと思って見始めたら、ノンフィクションに近い現実の宇宙開発もので、予想とは全く違ったけどものすごく良い映画だった。

という事で、この映画のジャンルは人間ドラマだ。ソ連とアメリカが宇宙開発でしのぎを削っていた頃の、アメリカ側の宇宙開発に携わっていた人々やその家族の人間模様を描く。偉業を成し遂げた彼らをヒロイックに描くのではなく、彼らの苦悩や置かれた状況を冷静に描いている。映画のほとんどは宇宙ではなく地上の話だ。現実の仕事や人間関係や政治や世相の話だ。

現代の宇宙開発は、かなり安全に配慮されたものに変化した。もちろん宇宙飛行士は未だに危険な仕事であろう事に変わりないが、かなり安全性は高まっているはずだ。そんな現代よりもずっと未知の事が多く、技術も発展途上で、人命よりも競争が優先されていた頃の話だ。
映画を見ていると、この頃の宇宙飛行士は兵隊みたいだなと感じた。宇宙飛行士はとんでもないエリートで選ばれし者というイメージだったが、大義のために命の保証のない危険な場所へ赴く必要がある当時の彼らを兵隊と重ねてしまった。しかしそれも当然だ。当時の宇宙開発がソ連とアメリカの代理戦争だった状況を鑑みると、その最前線で危険な任務を行う宇宙飛行士たちは名実ともに兵隊と言える。巨額を投入される宇宙開発を批判する当時の市民たちの気持ちも理解できるし、しかしこの代理戦争を放棄する訳にもいかない政府の立場も理解できる。そして現場で宇宙開発に携わる彼らが目の前の仕事を全うしようとするのも理解できるし、そのために犠牲になる家族の気持ちも理解できる。

そういう複雑な当時の状況を、どこにも肩入れせずわかりやすく描いている。しかし冷静ではあるが、冷めた映画ではない。いろんな人に感情移入できるし、いろんな立場の人の気持ちを理解できる。ただの仕事人間ではなかった、ヒーローではない、一人の人間が偉業を成し遂げる様子を描いた映画である。

『ファースト・マン』 3.5

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