待ち合わせる
上野駅で、友人と待ち合わせ。
この日のお目当てはフェルメール展。17世紀オランダの画家ヨハネス・フェルメールの作品を中心とした展覧会だ。
チケットに記載された入館時間まで、美術館の周辺を二人で散歩した。やっと咲き始めた桜や、雪柳の白い花。襲いかかってくる鳥たちに、少し黒い雲を映す水面。春の気配が漂う上野を、わたしたちはコロコロと話題を変えながら歩き続けた。
途中で足を踏み入れた神社に「必勝祈願」の文字が見える。すれ違う制服姿の高校生が眩しい。なんとなく参拝の列に並ぶも、わたしは一向に願い事が思い浮かばなかった。悩んだ末、隣にいる友人に幸せが降り注ぎますように、と願った。
「ここからスカイツリーが見えるよ」
そう言われて目を上げた。一人ではきっと気づけなかった景色だ。
聞きたいこと、話したいことは尽きない。歩いて歩いて、結局予約していた入館時刻ギリギリに美術館へと滑り込んだ。
東京都美術館の展示室へ入ると、薄暗い室内で金色の額縁たちが鮮やかな存在感を放っていた。最初の作品——ミヒール・ファン・ミーレフェルト《女の肖像》に描かれた女性と目が合う。引き込まれそうなほど凛々しい瞳の黒。彼女の髪やドレス、背景も黒っぽい色をしているが、それらは一つとして同じ色ではない。おそらく画家は黒色を意識的に使い分けたのだろう。それも、この女性をいっそう美しく描くために。
楽しみにしていたヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》は、画中画のキューピッドをめぐる物語が壮大だった。フェルメール自身の絵と、後世の何者かによる上塗り。調査によりそれらの間に塵埃の堆積が確認されたという。絵画はその存在自体が歴史なのだ。
最も印象に残ったのは、ヤーコプ・ファン・ライスダール《城山の前の滝》。少し黒い空に木々や大地の緑、それらを映し出す水面——まさに今日わたしたちが歩き回った上野の風景だった。開かれた窓のような額縁の向こうから、まだ肌寒い春の空気が伝わってくる。遠くにそびえ立つお城は、ああ、スカイツリーかもしれない。
豊かな時間はあっという間に終わってしまう。閉館時間を告げるアナウンスが響き、慌ただしく美術館を後にした。静かな展示室内から出た瞬間、わたしたちは次々と感想を口にする。同じものを見ても、まったく違う角度で感動していたりするから面白い。
「スカイツリーが光ってるよ」
友人の言葉に再び目を上げる。東京の夜ってこんなに綺麗だったんだ。互いが見て感じた世界を交換し合う。素敵なことだ。次はどこで待ち合わせしようか。
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