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自閉症の男の子との出会いから生まれた、チリ発のピクトグラムつき絵本

いっぽんのせんとマヌエル

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この絵本は、チリ人の作家マリアさんが、「線」が好きな自閉症の男の子マヌエルくんと知り合ったことによって生まれたピクトグラムの絵本です。ピクトグラムとは、言葉を絵であらわした文字のことで、文字やお話の内容の理解の助けとなります。私たちの日常でも、今、コミュニケーションに絵文字をつかうことが日常となっていますよね。

2017年のピクトグラムの絵本の刊行から、2020年の続編まで、こちらにまとめておこうと思います。


お話をよむ権利について

マヌエルくんのお母さんは、彼にずっとお話を読み聞かせしてあげたいと思っていたそうです。けれど、それはかなわない夢だと思っていました。でも、ピクトグラムに出会ってから、彼とのコミュニケーションにピクトは欠かせないツールとなりました。オルガさんは言います。

私が本を楽しむように、どんな子もお話を楽しむように、彼にも本を楽しんでもらえたらと思うのです。なぜなら、それはすべての人々にある権利のようなものだと思うからです。

作者のマリアさんは、マヌエルくんとオルガさんに出会い、マヌエルくんのためにお話しをつくることにしました。マヌエルくんの家族や自閉症の専門家たち、そしてスペインに在住の画家パトリシオさんと一緒に本づくりをすすめ、2016 年にチリでマヌエル君の絵本が出版されました。けれど残念なことに、この絵本にはピクトグラムがついていませんでした。WEB版限定でのみ、ピクトグラム版を公開していたのです。

そこで、日本では編集の方と話しあい、日本で刊行するのであれば、ピクトグラムをつけた日本語版としてだしましょうということになりました。

それから時間はかかりましたが、チリ在住の作家さんとスペイン在住のイラストレーターさんと、日本在住の編集者の方とチームになって、監修の先生のご指導のもとで、ピクトグラムの日本語バージョンを修正したり、新しく追加しながら、ようやく2017年、『いっぽんのせんとマヌエル(偕成社)』が刊行となりました。

その後、ミュージシャンでもあるマヌエルくんのお父さんが、世界自閉症デーに向けて、自閉症者の理解と普及啓発活動のために『いっぽんのせんとマヌエル』絵本ソングをつくってくれました。‬

‪この歌はスペイン語、ガリシア語( マヌエルくんの暮らす州の第1言語) 、そして特別に日本語バージョンの3本で制作されています。マヌエルくんのお父さんとやりとりをするうちに、マヌエルくんが 川をわたる場面の歌詞のアレンジには、 お父さんの深い意味が込められていることが分かりました。

マヌエルが川を渡る歌詞の部分は、 実はメタファーでもあります。「川」は自閉症であるマヌエルと、 マヌエルソングを聞くリスナーとの間を隔てるものでありながら、 その川は人生をも意味しています。マヌエルが川を渡るのは、 新しい学校生活をおくるうえで、 ひとつの自発的なアクションです。それは、 リスナーという他者へつながろうとしていることでもあります。 そしてマヌエルとリスナーの各々の名前の線は、 いっぽんの川へつながり、その川(人生) の流れは中心へと導いてくれます。つまり、 マヌエルとリスナーが出会う中心点へとつながっていくのです。ーマヌエルの父 セソ・ドゥラン


日本オリジナル制作の続編

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2017年は、ちょうど日本チリ国交樹立120周年ということもあり、プロモーションのために作者と画家さんが来日してくれました。その時、日本の保育園でワークショップをしたのですが、日本の子どもたちとふれあう中で、彼らからたくさんの刺激を受けたことがきっかけとなり、続編の絵本『いっぽんのせんとマヌエル ピクニックのひ』をつくろうということになりました。

そんなわけで続篇となるこの絵本は、日本オリジナルの制作になります。外の世界に興味を持ち始めたマヌエルくんが、家族でピクニックに行き、いろいろな生きものに出会います。

続編では、お話づくりの段階からマヌエルくんのご家族やセラピストの方にもご協力をいただき、家族がピクニックへでかける1日を、せんといっしょにピクトグラムをつけて紹介しています。動物や虫や自然とふれあうマヌエルくんの成長はもちろんですが、日本の子どもたちのアイデアもたくさん取り入れました。また、ピクトグラムもバージョンアップして、新しい試みとなっています。

3か国を行き来しながら知恵を出しあい、それぞれの役割の中で愛情たっぷり注ぎ込んでつくりあげた作品です。だれもがみんなでたのしめるピクトグラムの絵本をめざしています。どこかでお手にとっていただけるとうれしいです。



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