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積算根拠の迷宮

自治体の現場では「予算が余ると怒られる」と合わせて「予算は決まった通りに使わないと怒られる」という感覚をお持ちの方が多数おられます。
まあ実際に,市民の皆さんから預かった大事な税金の使い道を,市民の代表である議会での議決を経て決めているのだから,そりゃ決まった通り使わないと市民から怒られるだろう,というのは正論です。
しかし,「決まった通り」に使わないと,誰から,なぜ「怒られる」のでしょうか?
「決まった通り」に使うことが,本当に正しい使い道なのでしょうか?

地方自治体の予算では,どのような内容の事業をどういう経費の内訳でやるか,ということを決めていますが,大きくは目的別(事業単位でその目的に応じて「商工費」「土木費」「教育費」といった分野で分類)及び性質別(事業費の内訳を「報酬」「賃金」「旅費」「印刷消耗品費」「委託料」「工事請負費」といった経費の性質で分類)で区分し,整理されています。
すべての予算は目的と性質によって区分整理されて束ねられたものが予算案として議会に提出されるため,その区分に従って使わなければ議決に反するように思われますが,実は議決後に「流用」という手続きを踏めば,改めて議会の議決を要することなく,予算に定められた区分を超えて使うことができるのです。

「流用」には大きく二つのケースがあります。
ある事業の内容を具体的に精査する中で,予算総額を変えずに性質別内訳を変更する,例えば「賃金」を減らして「委託料」を増やすといったケース。
もう一つはある事業の実施に当たり,予定していた事業費を上回る見込みになったため,同じ目的の別の事業の予算を減らし,不足する事業費に充てるケース。
いずれも,自治体の規則や内部の通達等でその可否や決裁の方法を定めていますが,ほとんどの場合は議会の議決を経ることなく区分の変更を行うことが可能ですし,事前にも事後にも議会に対して報告する義務は,法令上ありません。

では,議会の議決も報告もいらないなら決まった通りに使わなくてもいいのか,というと,そうは問屋が卸しません。
予算の編成過程では,必要経費の積算根拠を示し「この事業はこういう内容なので必要経費がこれだけかかります」と説明し,財政課で査定を受け,議会で議決を受けるという経過をたどります。
なので,大筋ではその説明に沿って予算を執行していくことが原則です。
ただ,だからと言って「決まった通りに使う」のではなく,もし事業の目的に照らしてより良い使い道に充てる場合に財政課や議会から「話が違う(怒)」と言われないようにしないといけないということなのです。

予算流用の手続きには財政課の合議が必要なものが多いのですが,流用について財政課に相談した際に「話が違う(怒)」と不機嫌になったり「きちんと説明してもらわないと困る」と詰め寄られたりするケースもあります。
議会でも,執行されなかった不用額,あるいは流用された事業,経費内訳を指し,予算編成時点での事業内容や積算の詰めが甘かったのではないかと指摘されることがありますし,事前に報告なく流用していることを「議会軽視」と怒られることもあります。

しかし,よく考えてみてください。
自治体の予算は1年間の計画をあらかじめ立てるもの。
今,執行している予算は昨年の秋から冬にかけて積算し内容を精査したものです。
半年以上前に考えた事業の内容やその経費内訳が,事業を実施する現時点で本当に適切な,妥当なものか,もっと良い方法はないかを改めて検討し,すでに与えられた予算をうまくやりくりしながらより効果的な方法を考えるのは,限られた財源を有効に活用しようとする観点からはある意味当たり前のことです。

「話が違う」と言いたくなるのは,予算編成の段階で事業の具体的な内容やその経費の内訳,積算根拠の妥当性といった枝葉の議論に迷い込んでしまい,事業の本来目的や得るべき効果,またその効果を得るための手法の選択についての根本議論を脇に置いてしまっているからではないでしょうか。
「話が違う」のはあくまでも手法,経費の内訳であって,目指す目的が同じでそれを予算編成時に共有できていれば「話は同じ」と受け止めることができるのではないでしょうか。

お金がない時代なので経費の積算根拠にこだわって無駄のない予算を組みたいと思うのも人情ですが,お金がない時代だからこそ,その少ないお金で「具体的に何をやるのか」よりも「何を達成したいのか」を予算編成の段階できちんと現場,財政課,議会できちんと共有する。
現場は予算執行段階でも「決まった通り」ではなく「何を達成したいのか」にこだわってより良い手法をぎりぎりまで追求する。
財政課や議会は,事業の手法や経費の内訳といった“箸の上げ下げ”は現場に任せ,具体的なやり方や細かい積算よりもあらかじめ共有した「何を達成したいのか」に沿って成果が出たかどうかをチェックしフォローする。
そんな三者の関係であってほしいと思います。

とはいえ,議決後に流用で予算内容を変更できるとしても,予算編成時点での積算が過大でない,誤っていないというのは現場が果たすべき最低限度の責任です。
いつも「間違ってました(汗)」「足りませんでした(涙)」「余りました(舌)」みたいなことを繰り返していると,その現場からの予算要求自体の信ぴょう性が失われますからね。

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