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群盲象を評す

もっと全体を見て俯瞰して眺めて 
多角的にとらえなきゃ
今いる場所から見えるもの聞こえることだけでなく
違う場所から見えるもの聞こえることに
目を向け耳を傾けて
#ジブリで学ぶ自治体財政

福岡市の令和3年度当初予算案が可決されました。
5年前まで私はこの予算案を議会に提出する財政課長でした。
財政課長時代の4年間は、毎年繰り返される予算編成の長い冬を終え春を迎えた際に、予算編成を通じて感じたこと、課題解決に向けての思いなどを職員専用掲示板とfacebookに掲示していました。
今日は、4回目の越冬が明け、財政課長としてはこれが最後だろうと思って書いた5年前の投稿の全文をご紹介します。

<以下、引用>
本日、福岡市の平成28年度当初予算案が無事市議会の議決を経て承認されました。
この職責に就いて4回目となりますが、福岡市を取り巻く外部環境、内部環境ともに生生流転。
予算編成も毎年違うかたちでの苦労を味わっていますが、産みの苦しみを乗り越え、こうやって今年も無事に当初予算案可決という形で世の中に送り出せたことについては、大変に大きな喜びと、関係者の皆さんへの感謝の気持ちでいっぱいです。
この予算編成作業に携わったすべての関係者の皆さんに改めて御礼申し上げます。

人口が順調に伸び、経済活動も好調で税収も伸びているという福岡市の現況は他の自治体から見れば垂涎の好環境で、何を財政運営でそんなに苦労することがあるのか、というご指摘もあるかと思いますが、全国的に進行する超高齢社会の到来は福岡市でも同様の状況であり、これまで整備を進めてきた大量の社会資本の維持、老朽化への対応も待ったなしの状況です。
その一方で、市民生活に必要なサービスを維持しつつ、伸び続ける人口や活発化する経済活動に対応するサービス供給力の向上を並行して進めなければならず、個人的な感覚としては、言わば「守りながら攻め続ける」ことが求められている全国でも珍しい環境に置かれた自治体ではないかと思っています。

義務的に必要となる「守り」の部分を担当しているセクションでは、日々の業務量だけがひたすら増大するなかで創意工夫の余地も少なく、仕事へのモチベーションがわかないこともあるでしょう。
過去の政策決定に基づき営々と経常的な施策事業を行っている担当セクションでは、自分たちの予算が毎年否応なく削られ、そのお金を誰がどのように使っているのかよくわからずに不満だけがたまり、疑心暗鬼になっているかもしれません。
また、「攻め」の仕事に従事しているセクションでは、目玉政策推進の最前線に立たされながらも、二言目には「お金をかけないように」と言われ、自分たちが満足に戦える補給路がこれからもきちんと確保されるのか不安に感じながら毎日の激務に耐えていることと思います。

これらはすべて、同じ福岡市役所で働く、同じ職員同士の姿です。
財布は一つ、トップも一人、業務は分担していますが、みんな同じ組織の一員です。
限られた予算や人員を奪い合ったり、あるいは仕事を押し付け合ったりしている場合ではありませんし、その調整を誰かに丸投げして自分だけ傷つかないように首をすくめているわけにもいきません。
やらなければいけないことが山ほどある中で財源も労力も限られているのであれば、みんなで力を合わせるしかないのです。
単なる精神論ではなく、実体として「みんなで力をあわせる」には、情報の「共有」と、そこから生まれる状況認識の「共感」、そしてそれぞれが自分の持ち場でできることを最大限やりとげる「共働」が必要ですが、いきなり「共働」はできません。
まずは「共有」と「共感」がしっかりできていないといけないのですが、今、福岡市の現状についての正しい「共有」と「共感」が、職員の間でできているでしょうか。

「群盲象を評す」という言葉があります。
150万人の人口を擁し、基礎自治体でありながら市域、県域を超え、九州・アジアのなかで存在感のある交流拠点となっている福岡には、様々な側面、要素があります。
私たちが担当する業務を通じて、あるいはそこに生活する市民として知っているのは、その一部でしかないのに、その知っている一面だけをとらえて、思い思いの福岡市像を描いているのではないでしょうか。

もっと全体を見ましょう。
もっと俯瞰して眺めましょう。
もっと多角的にとらえましょう。

そのためには、今いる場所から見えるもの、聞こえることだけではなく、違う場所から見えるもの、聞こえることに目を向け、耳を傾ける必要があります。
いったん職場、職責を離れ、立場を超えてお互いがそれぞれ持っている情報を出しあい、掛け合わせることで見えてくる福岡市の全体像を「共有」することができれば、もっとやりがいを持って、もっと楽しく、いい仕事ができると思います。

先日の「財政運営力向上にむけたプログラム研修」は、そんな市役所を作りたくて実施させていただきました。
研修のねらいは「『全体最適』を『対話』で導くヒトづくり」。
9000人を超える職員、150万人を超える市民を擁する大所帯ではなかなか難しい話だとは思いますが、できないとあきらめてしまう話ではないと思います。
目指すは、全体最適を対話で導くことができる組織。
これができるようになればいいなと、皆さん、そう思いませんか?
4年の歳月を経て、ようやくここまでたどり着きましたが、まだまだ道半ば。
私はあきらめずに、じっくり、じわっと、やっていきたいと思っています。
<引用終わり>

文中に出てくる「財政運営力向上にむけたプログラム研修」は、この年の3月に実施した、市職員向けの「財政出前講座 with SIMULATIONふくおか2030」。
市職員150人、他の自治体職員150人の計300人を対象に3日間の研修を実施し、自治体の財政状況や将来見通し、財政健全化の意義とその対処方策、そしてその中での「共有」「共感」に根差した「共働」と、そのための「対話」の重要性について熱く語らせていただいたところです。

4年間の財政課長生活の終わりを、このような投稿で締めくくることができたことを今更ながら本当にありがたく思い、当時の関係者の皆さんに改めて御礼申し上げます。
そして、この4年間で実践できたことを軸に、この投稿から5年経った今も、私は「『全体最適』を『対話』で導くヒトづくり」に勤しんでいるというわけなのです。

★2018年12月に「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」という本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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