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愛が買えるなら

あなたといるととても安心できるのよね
お金持ちで何でも買ってくれるわけでもないけど
正直で,何事にも一生懸命で,いつも誰かのことを思いやっているから
#ジブリで学ぶ自治体財政

福岡市内を走る救急車,時々人の名前や企業名が書いてある(例えばヒロシ号とか)車両をみかけたことはありませんか?
福岡市では個人や企業から寄贈を受けた車両には,寄贈車への感謝の気持ちを込めて寄贈者のお名前を記載するようにしています。
そして,福岡市の消防局が保有している救急車38台のうち,なんと半分以上,22台が市民の方や企業からの寄贈車だそうです。
「命を助けてもらったから」「家族が救急隊に世話になったから」など,消防局職員の活動内容を評価いただいてのことですが,どうやらこの寄贈車の割合,他都市と比べても相当程度高い(正確な統計がないので日本一と言えないのが残念ですが)らしいです。

政令指定都市の中で最も人口あたりの消防局職員数が少ない福岡市で,これだけ市民から感謝され,慕われているということは本当に誇らしいことですし,消防局の皆さんには頭が下がります。
私も財政課長時代に消防局の所管する「救急救命基金」を設置する議論に加わっていましたが,1台何百万円もする救急車を直接自費で購入し寄贈される方だけでなく,そこまでの金額は難しいが消防局の活動に感謝の意を込めて寄付したいという方がたくさんおられることを聞き,その寄付金をいったん受け入れ救急救命活動に必要な物品等の購入に充てるために積み立てる基金を設置することとしたもので,市民からの感謝の意がハンパない福岡市消防局ならではの基金だなあ,と感じていたものでした。

以前、消防局での財政出前講座でこんな質問を受けました。
「財政健全化のために無駄な事業の予算を削減する必要なのはわかりましたが、消防局の予算はほとんどが人件費なので削れる余地がありません。どうすればいいでしょうか?」
私は答えました。「無駄を省いてお金を作ることだけが財政健全化の取り組みではありません。市役所の多くの部署では予算を使って市民の満足を実現していますが、職員の笑顔や誠実さなど、お金ではないものでも市民の満足を実現することができます。
消防局であれば市民の生命を守る迅速さ、真摯な態度がそれにあたります。その証拠に、消防局では毎年市民から命を救ってくれたお礼として救急車の寄贈を受けています。
マクドナルドの笑顔はプライスレスですが、消防局の皆さんの働きはしっかり財政に貢献しています。ありがとうございます。」
この話は結構テッパンで、全国の出張財政出前講座で披露させていただいています。

何が言いたいか,というと「市民の満足度向上はお金が全てではない」ということ。
厳しい財政状況のなかで何を選び,何をあきらめるかという議論が今全国各地の自治体で議論されています。
もちろんお金がなければできないこともたくさんありますが,市民の行政に対する満足度というのは決して予算投入の規模に比例するものではありません。
福岡市消防局の事例では、特に予算を投じて市民の満足度を高めているわけではないのですが、市民の皆さんからの感謝の気持ちが寄付、寄贈というかたちで示されるに至っています。
逆に市民はどれだけ役所が市民福祉のためにお金をつぎ込んでいたとしてもその事実を知らなければ当たり前のことと受け止めて特に何も感じませんし,ニーズの高い施策が実現できない際に,その背景や理由について丁寧に説明しているのとしていないのでは市民の納得感、満足感は雲泥の差です。
また,施策や事業に関する満足とは別に,職員の市民への対応や不祥事の有無,自治体と市民との距離感や風通しのよさなど,好感度,信頼度,親密度といったいわゆる“人間味”の視点から評価されることも往々にしてあり,毎年度の予算執行による政策の実現以外に,住民が市政に満足する要素は多岐にわたります。

であるならば,お金のない今こそ我々自治体職員はもっと「お金でないもの」で市民の満足を実現していくことへの意識を高め,そこに向かって注力していくべきではないか,というのが今日の論旨です。
市民と接する際の笑顔,市民の声を傾聴する真摯な態度,丁寧に説明を尽くす誠実さ,当然市民が求める仕事の正確さ,公平さ,迅速さは言うまでもありません。
隠し事をしない公明さ,気軽に相談できる敷居の低さなど,我々自治体職員の日ごろの態度一つで,市民の満足度が上がったり下がったりするということを,財政状況が厳しく市民のニーズに応えきれない今こそこれまで以上に意識しておく必要があるのではないか,と思うのです。

若い人には今一つピンと来ないかもしれませんが「お金が全てではない」という話をすると必ず思い浮かぶ歌があります。
私の敬愛する浜田省吾の「丘の上の愛」。

愛が買えるなら その涙の理由(わけ)を教えて
愛が買えるなら ため息の理由(わけ)を聞かせて
偽らずに

貧しい青年との恋を捨てて金持ちと結婚し丘の上の豪邸に住むことになった女性が,愛のない生活に満足できず夜ごと丘を駆け下りていく夢を見る,そんな歌です。
これはどんなにお金があったとしても手に入れることができない幸せがあるということを歌ったものですが,逆にお金がなくても手に入れることができる幸福感というものがあるということを感じる歌でもあります。
このお金で買えない幸福感をどう市民に感じてもらえるかという視点が自治体運営にいっそう求められていく時代が必ず来ると私は思っています。
その時に必要なのは,昨日も書いた「対話力」をはじめとする“人間力”です。
職員個人としてはもちろん,自治体組織全体としても“人間力”を磨き上げなければいけないと思うのですが,皆さんはどうお感じでしょうか。

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