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シーリングは何のため

どうして指定管理料にシーリングがかかるの?
どうしてPCのリース料を前年度より5%カットしなければいけないの?
長期継続契約だから前年度と同額でないと契約できないってことわかっていてなぜ財政課はこんな理不尽なことを言うの?
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨日書いたシーリング(要求上限額)を守らない現場の話には釈然としなかった方もおられたのではないのでしょうか。
冒頭に掲げたこの少女の悲痛な叫びは,毎年シーリングと称して予算の削減を強制される現場の共通の声ではないかと思います。
一方的に無理なシーリングを押し付けておいて「守らないのは無責任だ」という財政課よりの私の意見には反論も当然あると思いますが,ここで改めてご説明しておきましょう。
財政課はなぜ毎年シーリング(要求上限額)を示し,予算削減を求めるのか。

「シーリング」は「天井」という意味ですから,予算編成においては「要求上限額」を意味します。
予算編成で,各部局がそれぞれ必要だと思う経費を必要なだけ積算し要求してきたら,その膨大な額を限られた財源の範囲に収めるために経費を精査し査定していくことは気の遠くなるような作業です。
昔は「要るものは要る」という理屈を振りかざし,所要額を要求することが組織の存在意義だった時代もあり,過大な要求も当たり前でしたが,高度経済成長が終わり,時代が低成長へと移る中で,要求を過大に見積もっても要求側も査定側も労多くして実りがないということで,一定の上限を設けることした,それが「シーリング」です。
最初は前年度の予算額を上限とするというキャップのはめ方でしたが,税収が伸び悩む中社会保障費の増等で政策的経費にかけられる財源が一向に増えないことから前年度の額を下回る額を予算要求の上限とする「マイナスシーリング」が始まったのです。

ここからがあまり理解されていないところなのですが,財政課の示すマイナスシーリングはすべての経費を一律に削減せよと言っているわけではありません。(もしそのようなことを言っている財政課の職員がいたらそれはシーリングの意味を理解していないことになります。)
マイナスシーリングは財政課に予算要求調書を束ねて提出する部局単位で順守すべき要求額の上限に過ぎず,各課,各係,それぞれの小事業の単位で一律に前年度比〇%の削減を達成せよというルールではありません。
前年度比〇%削減と言ったって,指定管理料やリース料,事務所家賃など前年同額でないと契約できないものが含まれていることは財政課も当然承知しており,そういった削減できない経費の分は何か代わりの削減できるもので削減し,削減しにくい,見直しのできない事業の削減ノルマは同じ部局内のより優先順位の低い事業の見直しでカバーして,部局全体で要求上限額の範囲に抑えてほしい,というのが財政課の意図するところなのです。

しかし,現場ではそう受け止められていません。
部局の予算取りまとめ担当課が各課,各係に財政課から示されたシーリングを示すうえで,シーリングの意味が分からずにただ安直に各課,係に一律削減の義務を課しているか,あるいは意味は理解していてもそれぞれの課,係,事業に濃淡をつけ,「不平等な」調整をすることが難しいという理由で一律に削減を求めているというのが実情ではないでしょうか。
ひょっとすると,予算担当課でシーリングの意味は理解しているものの,あえて各課に対して一律削減を指示している場合があるかもしれません。
シーリングは予算編成の過程で「この額までしか要求してはならない」と言っているだけで枠配分予算のように「この額まではあなたの部局で自由に使っていい」という意味ではありません。
シーリングの上限額に収めて財政課に提出したとしても,そこから鬼のような査定が待っていることが原因かもしれません。
せっかく厳しいシーリングの範囲内に収めるためにコツコツ削ってやっと出来上がった予算要求調書は財政課担当者による査定による見え消しで数字が見事に書き換えられ,場合によっては影も形もなくなることもあります。
そこで部局内での調整を行ってどこかの部門に手厚く配分したとしても,その裁量を財政課が許容しているわけではないので結果的に,平等に痛み分けしようというベクトルが組織内で働き,「一律削減」にという選択をしているということもあるのかもしれません。
予算とりまとめ担当課がそう判断しているのか,各課,各係に至る現場までそういうコンセンサスがあるのかはわかりませんけど。

どのみち,なぜシーリングがかかるのか,が正しく現場で理解されていなければ,自分のかわいい事業を削ることも,シーリングで削減した予算の説明責任を市民に対して果たそうというモチベーションもわきません。
自ら予算の削減というリスクを冒すのであればあえて他の事業への優先配分を自ら判断したとかでないと,市民に面と向き合って説明できないですよね。
ではマイナスシーリングで一律削減なのに市民への説明は現場が負わないといけない,という場合,現場の担当者はどうしたらいいのでしょうか。
まず,なぜマイナスシーリングなのか,全体の財政状況や見通しを財政課に聞きましょう。
税収がなぜ増えないのか,社会保障費はなぜ増えるのか,その結果,自分たちが予算で裁量的に使える経費がどのくらい減るのか,その根拠も示さずに昨年より〇%カットでお願いします,というのは財政課の横着だと思います。
また,シーリングによる要求額の圧縮で生み出された財源はどこに行くのか。
税収の減,社会保障費の増に充てられるのか,それとも優先順位の高い政策的な経費に充てられるのか,というあたりも財政課が各事業所管課や議会,市民に対して果たすべき説明責任だと思います。
そのうえで,シーリングを守るために自分の部局内でどのような取捨選択,調整ができるのか,対話し議論し,責任ある者が決断をしていく必要があるのです。

以上「シーリング」についてご説明してきましたが,これはあくまでも予算をつける・つけない,あるいは金額の多寡を財政課が決める「一件査定」の一手法であり,配分された枠の範囲内であれば自主的,自律的に現在の施策事業の内容を現場で判断して組み替えることができる,私が提唱する「枠配分予算」とは全く異なる方式だとご理解ください。
枠配分予算については,稿を改めたいと思います。
拙著「自治体の“台所”事情 “財政が厳しい”ってどういうこと?」もご参照ください(^_-)-☆

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2008年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。

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