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重圧の正体

議会に何の相談もないとは,議会軽視も甚だしい!
内容はともかく手順がおかしい以上,この案は断固認めない。
議会がそう言っていると市長にも伝えろ!今すぐにだ!
#ジブリで学ぶ自治体財政

「続・これからの自治体職員に求められるもの」で,私たち自治体職員は過剰に市民からの目線や声を恐れているのではないかと書いたところ,過剰な恐れという意味ではむしろ議会との関係性が難しいという意見を複数いただきました。

自治体職員なら誰でも感じたことのある議会からの重圧,経験ありますよね。
議員から陳情や要望を受けるとき,施策についての資料や説明を求められるとき,議場で質問を受けるとき,自治体職員の緊張感は否応なく高まります。
この緊張感のため,実際に矢面に立つ管理職の中には可能であれば議会と関わりたくないという方も少なからずおられます。
この管理職の議会との距離感を肌で感じ,それが災いして若いころから議員や議会に対して好印象を持てない自治体職員は数多く,職員の大多数がそう感じていることもあって,議会と執行部事務方との関係性は何でも語り合えるフランクなコミュニケーションが成立しているとは言い難い状況にある自治体が多いのではないでしょうか。

なぜ自治体職員,特に管理職は議会や議員に重圧を感じるのでしょうか。
その重圧の一因は,市民が行政にもとめる公平性,無謬性への過剰な反応であると「続・これからの自治体職員に求められるもの」で書きましたが,対議員というと対一般市民に比べて明らかに特別なプレッシャーを感じますよね。
そもそも議会は二元代表制のなかで首長と車の両輪となって地方自治における民主主義を支える存在であり,議会は首長が提案した予算や条例等の議案の審査,施策事業についての議会での質疑を通じて,首長や執行部の行う自治体運営全般を有権者に代わってチェックする役割を担っています。
チェックですからすべてがOKというわけではなく,不備な点があれば指摘を受けるのは当然のことであり,その声は有権者の声の代弁であるわけですから,緊張感を持って拝聴し対応するのは当たり前のことです。
しかし,確かに必要以上の緊張を与えられる場面があることも否定できません。
重箱の隅ばかりつつかないでもう少し建設的,大局的に議論してほしい。
議員側の主張ばかり押し通さずにこちらの意見も聞いて歩み寄ってほしい。
「聞いてない」「説明の順番が違う」と手続きの問題点に執着しないでほしい。
私もそんな思いをしたことが過去にはありますし,きっと全国の多くの自治体職員が同じようなことを体験しているでしょう。
では議員は,議会はなぜ私たちにそんな重圧をかけるのでしょうか。

考える前提として,議会はチェック機関であって執行機関ではないということを正しく理解しましょう。
私たち自治体職員は,自治体運営の執行機関である首長の補助として,すべての実務を企画立案し,議会の承認を受けたのちに執行します。
自分たちで情報を集め,自分たちで考え,自分たちで関係各所と調整し,自分たちで最終的な案を絞り込んで賛否を問うことができる,また議会で承認されたことの詳細を自分たちで決めて実施できる執行機関と,それをチェックし,意見を述べる議会には圧倒的な情報格差があります。
立案から実施に至るそれぞれの過程での様々な取捨選択や関係機関との協議合意においても,当事者としてその場その場で裁量権のある執行機関に比べ,議会はその過程や結果を後から聞くことしかできません。
このため,執行部がたった一つに絞り込んだ案や,執行部の責任において実施した実績に対して議会が賛否,評価の判断をするには「なぜこの案になったのか」「どうしてこんな結果になったのか」など執行機関の判断の経緯やその際に裁量で判断した事項について,質問を通じて立案から実施にいたる過程を追体験することでしか自らの賛否,評価を「自分ごと」として選択しえないのです。

賛否,評価であれば執行機関の案や実績の内容の良し悪しで判断すればよく,その経緯,過程に踏み込んで「自分ごと」とするまでもないとも思えるのですが,そこにもう一つの前提,議会が選挙で選ばれた存在ということが関係します。
議員は有権者を代理して執行機関の事務執行をチェックしますが,当然代理を委任した有権者に対しての受託責任を果たさねばならず,求められればその意に沿う行動をとっているかを有権者に報告しなければいけません。
さらに問題をややこしくするのは,議員が選挙の際に託された受任が明確であればあるほど,議員はそのことについて対話や議論等による心情の変化で判断を覆すことが難しいという側面です。
有権者から託された意見を代弁し執行機関に責任ある答弁を引き出したうえで,有権者から「なぜあの案になったのか」「なぜこの案に反対しなかったのか」と聞かれた際に自分の判断について自らの言葉で有権者に説明できるようにするのが,議会で判断を行う際に有権者の委任を受けた代理人として果たすべき責任と感じ,そのための判断ができるよう質しているのだと考えられます。

このように,執行機関との圧倒的な情報格差の中で有権者の立場を代位する代議員としての責任を果たすには議員にも相当な重圧がかかっているわけで,その重圧がそのまま私たち自治体職員に向けられているのだと考えると,少しは理解ができるのではないでしょうか。
議案ではない任意の報告や記者発表案件の情報提供で「聞いてない」「説明の順番が違う」と手続きの問題点に執着するのも根は同じ。
議会として,議員として,有権者に代理して執行機関のチェックを行っているのかと問われたときに「聞いてなかった」「意見を言う機会がなかった」ということでは議員としての有権者からの信頼を損ねてしまうことになりかねない。
そんな議員側の立場や心情も考え,議員が有権者に伝達することを意識した情報提供のタイミングや方法を採用することを心がけてみてはいかがでしょうか。

とはいえ,議員の多くは自治体職員に対して好意的だと私は思っています。
それは,今の地方議会で議員としての責任を果たすうえでは,各種情報の収集や精査,立案された政策の審査や議員自らの政策立案,実施された施策事業の評価などにおいて,圧倒的な情報力と執行の現場を持つ私たち自治体職員の下支えや協力が必要不可欠だからです。
議場でチェック機関として厳しくふるまう緊張感は大事ですが,その前段として様々な事象に対する共通の理解やその事象に対する執行機関のスタンス,判断基準や政策立案のプロセス,実務の現場で起こっている現実について,執行機関と同程度の情報を持つことは,議員個人の力でなし得るものではありません。
議員はチェック機関としての使命を果たすために自治体職員との良好な関係を持ちたがっているはずなのです。
そう考えれば,過度に畏怖するのではなく,執行機関と議会との立場の違いを互いに理解しそれを尊重したうえで,同じ土俵で正々堂々と勝負するための基礎的な鍛錬として,政治的な中立を保ちながら日ごろからの対話と議論で互いの距離を縮め,切磋琢磨しあう関係性を自治体職員側から率先して築いていくことが望ましい道でしょう。
それを歓迎しない議員はいないはずですし,それを厭わずにできれば,議会なんて怖くないのではないですかね(笑)

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