見出し画像

予算が余るのは悪いこと?

Noteを始めてから初めてDMでレスをいただきました。ある地方自治体の財政課に在籍され、私の本も読んでいただき、出張財政出前講座にも参加いただいたことがある方です。
この方からいただいたヒントを元に、今日は地方自治体の財政運営にまつわるお話をしてみたいと思います。

自治体の職員は「予算が余る」ことを嫌います。
大きな理由は二つありますが、まず一つ目は「財政課に怒られるから」(笑)。
これ、まことしやかに信じられていますが、大きな誤解です。
本当に怒っている財政課の職員がいたら、私に連絡してください(笑)
では、予算が余ると財政課が怒る(と思われている)のはなぜでしょうか。

財政課が毎年度の予算を組むためにどれほどの努力をしているのかを想像してみてください。
地方自治体の予算は年度ごとに定めることになっていて、その年度に見込むことができる収入の範囲でしか支出を計画することができません。
また、国と違って地方自治体は必要な支出を工面するための収入が不足する場合にその赤字を埋める借金をすることができません。

非常に限られた制約条件のもとで収入と支出のバランスをとることになっているのですが、予算編成の過程で各現場から上がってくるのは「あれもやりたい」「これも必要」という支出見積ばかり。
これを収入として確実に見込める金額の範囲に収めるために「あれは要らない」「これはこの金額で」という切込みを入れる、いわゆる「査定」を行い、血のにじむような努力を経て予算を組んでいるのが実情です。

なので、なけなしの金をはたいて必要最小限の金額を計上したのに「余りました」と言われると、せっかくお前たちが必要だというから用立ててやった貴重なお金を余らせるとは何事か、けしからん!という話になるわけです。
実際、財政課の立場からすれば、そのお金が余ることが最初からわかっていたらそのお金を別の支出に充てることも可能だったわけで、余らせるくらいなら最初から要求するな!なんて悪態をついてしまいそうですよね。
これが「予算が余ると財政課が怒る」と信じられている背景事情です。

しかし、実際に予算が余ったらどういう会計処理が行われるのかを理解すれば、予算が余ることを財政課が怒るというのは筋違いであることがわかります。
「予算が余る」というのは支出が予算で定めた支出予定額を下回ることですが、自治体の予算は通常、収入と支出が同額になるようにしていますので、支出が下回った分、収入が余ります。
また、支出はもともと収入を上回ることができないので、自治体の決算は必ず支出が収入を下回り、黒字になるようになっています。

この収入と支出の差額である黒字分は「決算剰余金」という名目で翌年度に繰り越され、翌年度の収入として翌年度の追加的な支出の財源に充てたり、基金として将来に向けて積み立てたりすることができます。
余ったお金がたくさんあれば、それだけ次年度以降の予算編成で使えるお金が増えることになるので自治体として損をしているわけではないし、財政課にとってはフリーハンドで使えるお金が増えるので「決算剰余金大歓迎!」なはずなのですが、この構造、実はほとんどの自治体職員が理解していません。

一方で、予算編成の段階で現場の予算要求額を削り込み、必要最小限の支出予算しか計上しないために財政課がよくやるのが「前年度決算額と同額」という査定です。
前年度と同じ業務なら同じ金額でできるはず、施策事業単位で少々内容が変わっても、金額を増やす理由はないので、前年度に同じ施策事業に実際に使った金額の範囲内で工夫してくださいという査定ですが、これには大きな無駄をはらんでいます。
それは「囲い込み」と「使い切り」です。

現場からすると、もともと過大な予算要求をしているつもりはないのですが、不測の事態が生じても予算を増やしてもらえる保証がないので、予備的な経費をこっそり隠して取っておきたいと考えるのも人情です。
また、予算を余らせると次年度の予算を削られるから、なるべく余らないように使いきってしまおうと現場が考えるのも無理はありませんよね。
しかし、これこそ当初予算編成時に本当にお金が必要な施策事業に回すお金が足りなくなるという窮状を生み、また予算執行時には必ずしも緊急性の高くないものに余った予算を使ってしまうことにつながります。
むしろこちらのほうが、財政課が声を大にして怒るべきことだと私は思いますけどね(笑)

福岡市では、予算の使い切りをやめ、決算剰余金を確保することを推奨するために「節約インセンティブ」という制度を持っています。
職員の創意工夫による支出予算の執行節減、歳入の確保などにより決算剰余金の増額に貢献した場合は、そのうち一定の額をその工夫を行った現場が次年度に自由に使える財源として予算措置するという仕組みです。
計上された予算からさらに工夫して、実際の支出を必要最小限の額に抑える努力を、現場自らが意欲的に行えるようにすることで、財政課と現場が一体となった効率的な予算の編成と執行が行えるというわけです。

というわけで、予算が余っても財政課は怒らないはずです(笑)
長くなったので、自治体の職員が「予算が余る」ことを嫌う二つ目の理由は次稿にて。

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。
https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?