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森羅万象の声を聴け

わかりあえないのは当たり前
私たちがどんな世界に住んでいるか
意見の違いが生じる根っこは何なのか
それを知り向き合うことからじゃないのかな
#ジブリで学ぶ自治体財政

うまく「対話」ができない人,うまく「対話」が進まない場合への対処方法の話として私なりの思いを書きましたが,少し観念的になってしまいましたね。

これでは参考にならないとお怒り(笑)の諸氏に,実際に私が「対話の場」で自分が思うような「対話」ができず窮した事例をご紹介します。
これは今から10年前,私がまだ「対話」の何たるかをほとんど理解していなかったときの話です。
2012年5月,飲酒に起因する職員の暴行などの事件が立て続けに発生しました。
飲酒運転撲滅の新たな取り組みをはじめようとした矢先の不祥事に市民からの信頼は地に落ち,業を煮やした市長は,職員全員に対して,自宅外での飲酒を自粛するよう要請しました。いわゆる「禁酒令」と呼ばれるものです。
当時,facebookで開設されていた福岡市職員限定のグループでは,やり場のない感情をぶつける投稿が延々と続き,私もその渦中で長々と誰彼構わずコメントのやりとりをしていました。
そんな複雑な感情が交錯するなかで私がふと思い立ったのが,このweb上でのやりとりではだめだ,直接会って誰かと話したい,この感情を誰かと共有したい,という衝動でした。
以下にご紹介する「ラブストーリーは突然に」は5回にわたる大作です。
あの日抑えきれない衝動に駆られて私がオフサイトミーティング開催を発案し,それが展開を経て禁酒令の明ける1か月後に私の「対話」に対する思いや行動にどう影響したかという私の原点をご笑覧ください。

特に思い出深いのは「ラブストーリーは突然に③」です。
伝説の第2回と呼ばれる2012年5月26日のオフサイトミーティングは,「何とかしたい人全員集合!」という私の思いに合致したプラス思考の「対話の場」にはならず,時には怒号すら飛び交う混沌とした場となりました。
ある意味,この悶々とした状況が私のオフサイトミーティング人生の原点。
同質ではない様々な意見を持った人間が世の中にいること,混乱の中でみんな自分の意見を誰かに聞いてほしいこと,そのどの意見も優劣なく尊重しあうことができる「自由で安全な場」でなければ,尊重されなかった者はその場には二度と参加しないし,わかりあうこともできないこと。
私はそのことに気づかされたのです。

これが「すべての人が適任者」と私が考える原点です。
そもそも社会を構成する者は同質ではないし,その立場,考え方が様々であるということは,頭でわかっていてもいざ自分と違う意見を持つ者が目の前に現れると,自分の立場や意見を理解してもらえると考えてしまう,「対話」が成立しない原因をその相手方に求めてしまう,そのこと自体が間違いなのです。
人はそれぞれ同じではなく,完全に理解し合えるものではない。
それは夫婦だって親子だって同じこと。
自分以外の他人と100%わかりあえることなんて永遠にあり得ないのです。

人と人とがわかりあえないのなら「対話」する意味なんてないのではないか,と言う方もおられるかもしれませんが私は逆にとらえています。
人はひとりで生きているわけではなく,社会生活を営む上ではどこかで誰かとともに暮らし,何らかの意見の合一を見なければいけません。
その際に,完全にわかりあえないからこそ,何も努力しなければまったく平行線になってしまうからこそ,少しでもわかりあえる部分,お互いの考えが交わる接点を探す努力が必要になるのであり,その接続点を探す行為が,相手を尊重し,受容し,理解する「対話」によって試みられているのだと思います。

財政課在籍当時も,毎年の予算編成ではたくさんの現場と「わかりあえない」苦労をたくさんしてきました。
そんな中で私が考えていたのが「わかりあえない相手」を見るのではなく「わかりあえない相手がいるという事象」を見ることでした。
どうしてこの課長は財政課の事情をわかってくれないのか,ではなく,どうして市職員には財政課の事情をわかってくれない人がたくさんいるのか,というとらえ方です。
これは,先ほどご紹介した禁酒令下でのオフサイトミーティングで私が学んだことと同様で,禁酒令のことを自分と同じように受け止めていない人がたくさんいるということを事実として受け止め,それが社会の縮図であるということ,自分はその一部しか見ておらず自分と同じようには考えない人が世の中にはたくさんいるということを事象として受け止めたうえで,その「事象と対話」するのです。
その事象をつぶさに観察し,事象から読み取れる声に耳を傾け,それをいったん何の先入観も持たずにありのまま受け入れる。
もしなんらかの先入観を自分が持っているのならそれをいったん脇に置く。
そっちの考えもアリかもしれないと立場を変え,視点を変え,あるいは自分を含めたその事象全体を俯瞰できる位置に自分の目線を置いてみる。
そうやって事象の全体像をありのまま受容し,理解することで,自分の思いが変容していくこともありますし,思いが改めて確信に変わり,それをどう発話すれば伝わるかという次の展開を考えることができるようになることもあります。

私はこの10年,いろんな場所でリアルな対話を重ねてきましたが,それと同じくらい,世の中で起こること,自分の意見と違う人たちの意見や行動に対して,その「事象との対話」を試みてきました。
直接その当事者と「対話」するわけではないので,私の理解は本当のところとは違うのかもしれませんが「事象との対話」によって理解や納得ができたこと,自分との立場の違いが鮮明になったこともたくさんあり,これはこれでいい訓練になっていると思います。
財政課での「わかりあえない」体験から,財政出前講座や枠予算制度導入といった市役所全体の対話的コミュニケーション改革に舵を切ることができたのもこの「事象との対話」のおかげです。
また,この訓練のおかげで,「対話」の成立しない本当に厳しい場面でも,自分なりの立ち位置で相手と接することができるようになったとも感じています。
対話力を高める「事象との対話」,皆さんもお試しになってはいかがでしょうか。

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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