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対話への目覚め

今でこそ、財政課と現場の対立、行政と市民との対立を「対話」で乗り越えることができると説いて触れ回っている私ですが、私も「対話」という言葉を自分のものとして使い始めたのはそう昔のことではありません。
私が初めて自分の言葉として「対話」という単語を用いたのは、財政課係長時代暗黒の5年間を卒業し、2008年4月から半年間参加した「東京財団市区町村職員研修プログラム」でのことです。

この研修は、受講を希望する全国の基礎自治体職員が3ヶ月半早稲田大学大学院公共経営研究科で、さらに約2ヶ月アメリカ・オレゴン州ポートランドにて地方自治や行政経営、プロジェクトマネジメントの技法などを学ぶ半年間のプログラムです。
この半年の間、地元を離れ、日々の仕事を離れ、学生と言う身分で仲間と苦楽を共にした時間が私を変えたのです。
※研修生活の詳細はお暇なときにこちらをご覧ください。
https://ameblo.jp/yumifumi69/entry-12550824673.html

私はここで「対話」について三つのことを学びました。
一つは、個人として他人と向き合い、互いに語り合う「対話の妙味」です。
研修のプログラムは大教室で講義を聴くだけという時間はほとんどなく、少人数のグループワークが中心でした。
全国各地から集められた13人の研修生は年齢も当時の職責や経験年数もバラバラでクセの強い連中ばかり、加えて他の大学院生や社会人大学生、個性派ぞろいの先生方や研修をサポートしてくれる現地スタッフなど、多種多彩なメンバーに囲まれ、濃密な時間を過ごしました。

毎日朝から晩まで、他人の意見を聴き、自分の意見を聴いてもらい、お互いの思っていることを理解しようとする時間を過ごす中で、自分を開示すること、自分と他者との違いを前提とすること、論破しようとせず互いの良さを認め合うことなど、「議論」ではなく「対話」を楽しむことでより良い関係性が作れることを体感することができました。
半年間、互いに本名ではなくファーストネームなどの研修ネームで呼び合い、年齢も立場も超越したフランクな関係を築けたことも、他人の懐に飛び込み距離を縮める感覚を身に着けることができたいい経験だったと思います。

二つ目は、行政と市民との協働に必要となる「対話の重要性」です。
地方自治体の職員研修である以上、自治体が抱える課題の解決に資する学びがプログラムとして与えられるのですが、この研修でプログラムを提供する事務局側が最も重要視していたのは「市民との協働」とその前提となる「対話」でした。
そのことは、取り立てて講義で教え込まれるというものではありませんでしたが、我々が自分の自治体の課題を語り、その解決に向けた方策を考えるときに必ず問われたのは「それは本当に市民が求めているものか」という問いかけでした。

行政の抱える課題の解決に市民との協働が必要だということは当時よく聞かれた主張ですが、協働の前提として市民とどう課題を共有するか、課題解決の方向性についてどのように意見交換を行い、当事者意識を持ってもらい、自らの意思で行動してもらうか、といった、協働を動かすための具体的な取り組みについて繰り返し問いかけられ、具体的に考えさせられ、脳みそに汗をかくような思いで学ぶなかで、自然と「市民との対話が必要不可欠だ」という認識に至ったことは、プログラムを提供いただいた事務局の先生方の狙い通りだったのだと思います。

この研修では、研修後に自分の自治体に持ち帰って実現させる課題解決プロジェクトの立案が課せられており、私は「行財政改革」をテーマに掲げていましたが、ここで半年間考え続けたことが「予算編成に関する庁内分権プロジェクト」。
いわゆる現場と官房の「対話」による相互理解と分担を基礎とした「枠予算制度による組織の自律経営」で、今私があちこちで話している内容の原型となりました。
研修が始まる前から持っていた市役所内部の意思疎通不足という課題認識が、研修で最も力を入れていた「対話」という解決策に導かれ、それを持ち帰って実践することができたのは仕組まれた偶然としかいいようがありません。

三つめは、対話の場づくりに必要となる「ファシリテーション」の技法です。
プログラムそのものもグループワーク中心であったこと、また、市民との意思疎通、対話が自治の根幹であるとの考えが研修を貫く基本姿勢であったこともあって、その対話を円滑に進める場づくりのノウハウは必須アイテム。
ありとあらゆる場面で、対話の場づくりの実践を任され、それをこなすことでいろんな技法とその裏にあるファシリテーションの基礎的な考え方を学びました。
人と人が互いに分かり合うために、どんな場が必要なのか。
「対話の場づくり」はおろか「ファシリテーション」という言葉さえも、40年近く生きてきて、20年近く仕事をしてきて、初めて学びました。
今は偉そうに全国で「対立を対話で乗り越えろ!」「対話に必要な要素とは何か?」なんて説法しているのですから、お恥ずかしい話です。

この研修では「課題解決能力」「プロジェクト立案能力」などの個人のスキルを磨くとともに、地方自治や行政経営、自分がテーマとして掲げた「行財政改革」についての知識やノウハウを学び体得することを期待していましたが、研修が終わる時点で一番心に残ったのは「対話」と、その大切さを共に学び、自分に教えてくれた「仲間」でした。
この半年間の出逢いと学びがなかったら、私は今でもただ財政課時代の暗黒の思い出を恨み、その怨念を愚痴っているだけのつまらない公務員人生を送っていたかもしれません。
この機会を与えてくれた関係者の皆さんに改めて感謝したいと思います。

とはいえ、自治体の派遣研修ではよくある話なのですが、私は研修から帰ってきて5年もの間、この学びを活かすことなく全く違う業務に忙殺されることになります。
その5年のブランクを経て、なぜ私が「対話の伝道師」に目覚めたのか。
それは本にも書いていますが、この場でもまたいつかご紹介したいと思います。

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50

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