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結論は同じでも

市主催の花火大会来年からやらないんだって
人が多すぎてごみとかのモラルが守られないからみたい
えーそんな理由?見に行く私たちのせいなの?
そんなに大変ならひとこと言ってくれたらよかったのに
#ジブリで学ぶ自治体財政

前回の投稿で,行政運営リテラシーの向上を図るべきは,財政制度や政策の構造,意思決定の仕組みといった行政運営の根幹に係る部分だけでなく,我々自治体職員が常日頃どのような法制度やシステム環境下で,どのような手順で実務を行っているのか,正確,公平,迅速に事務を遂行するためにどれだけの労力をつぎ込んでいるかについても知ってもらう必要があるのではないか,ということを書きました。

このことに関連して思い出したことがあります。
これは私の知人Aさんのマンションで起こった話です。
Aさんは昨年,新築のマンションを居住用に購入し,引っ越しました。
複数の棟が順次建設される大型マンションの第一期完成時に入居したAさんが当時,この場所でこれから育っていく「まち」への期待をうれしそうに語っていたことを思い出します。
初めてAさんの家を訪れた時,マンションには複数棟の中心に居住者共用の円形の車寄せがあり,その中央に大きなシンボルツリーが植えられていました。
しかし今年,久しぶりにAさんの家を訪れたところ,その木がなくなっていたのです。
理由を尋ねたところ,Aさんは残念そうにその顛末を話しました。
車寄せは,中央のシンボルツリーの植わった石造りのサークルの周りを一方通行で車が通るようになっており,車が停車していてもその脇を別の車が通れるような構造にはなっていたのですが,停車車両が十分に幅寄せしていないと外車や貨物車両などのサイズでは通行に難があり,駐車トラブルや接触事故騒ぎなどが頻発したそうです。
利用者はみな居住者であり,お互いに譲り合えば支障なく運用できそうなものですが,第二期の入居が始まったことで車寄せを利用する人が増え,警備員を配置して駐車マナー遵守を呼びかけたり,張り紙やカラーコーンを置いたりしてトラブル回避に努めたようですが,状況は改善されず,今年の管理組合総会でシンボルツリーを石造りのサークルごと撤去し,車寄せの車路幅員を確保する議案が採択され,完成からたった1年でシンボルツリーは撤去されてしまったのだそうです。

Aさんが残念がるのは,シンボルツリーが撤去されたという結果ではなく,その過程です。
Aさんは,今年の総会資料としてツリー撤去議案が配布されるまで,撤去の検討が行われていることはおろか,駐車トラブルや接触事故騒ぎが頻発していたことも知らなかったそうです。
自分たちがきちんと状況を知っていて,利用者としての努力がもっと十分行われていれば,木を守ることができたのではないか。
一部の理事と管理会社,そして駐車トラブルの当事者たちだけで話を進めず,もう少し状況報告が行われていれば,結論は同じでもこんな残念な思いをすることはなかったのではないか。
総会で実際にこのことを質問された方もいて,同じようにまったく状況を知らなかったことを憤慨していたそうです。
Aさんは,管理組合の理事たちがこの大規模マンションの運営を管理会社だけに任せず積極的に関与しようと立候補された方が大半で,入居後に明らかになった瑕疵とは言えないような問題点も非常に精力的に管理会社との折衝を行い,改善を進めてくれていて,その尽力には頭が下がるとも言っていました。
その熱意ある理事たちがこのマンションのことを真剣に考えて検討した結果がこのツリー撤去案なのだからきっとそれしか選択肢がなかったのだろうとは思うけれども,それが最良の選択だったとしても釈然としないのは自分がそのプロセスに関与していなかった,できていなかったからなのだろうとAさんは言っていました。

私はこの話を聞いていて,まるで自治体と住民との関係のようだと思いました。
よりよい市民生活を支えるため,私たち自治体職員はそれぞれの職場で様々な課題解決に取り組んでいますが,良かれと思って選択した課題解決策が一部の関係者に受け入れられず,トラブルになっている事例は全国にゴマンと転がっています。
その多くは,実は課題解決策として示された内容そのものではなく,その過程に問題がある,そんなケースを私は多く見てきました。
今回のAさんのマンションの件で改めて私は,議論の前に対話を置くことの意義を感じました。
一連の過程の中で,管理組合理事,管理会社,駐車トラブルの当事者だけでなく,居住者にも広く情報が開かれ,ジブンゴトとして考えられる状況があればどうだったか。
情報を共有する中で,居住者それぞれが自分ではない立場の者が置かれた境遇を想像し,そこに思いをはせることができたとしたら,車寄せの利用実態はどうなっていただろうか。
これから数十年間同じ場所で暮らす居住者同士が,この場所を自分たちの「まち」としてどう育て,そこに自分たちの生活をどう息づかせていくかということについてビジョンを共有することができていたら,どういう展開になっていたのだろうか。
すべては仮定の話ですが,そんなことを考えずにはいられません。
議論の中で結論の妥当性を理論的に導くよりも,その過程での対話によって結論の妥当性が感情的に裏付けられるということのほうが,結論に対する納得性が高まり,結論を実行する者への信頼性が増し,その結論に従おうとする当事者意識が形成され,そのことが結果的に結論の実効性を高める。
私はそう思うのです。

私たち自治体職員の抱える仕事の内容,現状は今,市民にどれだけ共有されているでしょうか。
妥当な結論を導くことに気を採られ,情報や立場の共有,将来ビジョンの共有による納得感や当事者意識の醸成がおろそかになっていないでしょうか。
良かれと思って導いた結論を「役所はいつも決めたことしか持ってこない」と拒絶されていないでしょうか。
Aさんは次の管理組合総会に出るのをどうしようかなとためらっています。
どうせ理事会で検討し結論を選択した議案を追認するだけで,自分たちの意見を言う場ではないから,と思ってしまったのがその理由です。
私たちの自治体では,市民はどんな風に感じているでしょうか。
私たち自治体職員の多くは,決して明らかな間違いを犯しているわけではありません。
ただ,一生懸命課題に向き合うそのエネルギーの一部でも外側に目を向けることに充て,今の私たちがやっている仕事そのものについて,もう少し市民に知ってもらうこと,一緒に考えてもらうことも大事にできるようになりたいし,なるべきなのではないか。私はそう思います。

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★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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