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人件費の一律削減に反対します

昨日の投稿でも少し触れましたが,各自治体の来年度の予算編成はとても厳しくなりそうですね。
コロナの影響で経済が停滞し,税収が激減,しばらくは回復の見込みがない一方で必要な支出だけは増えていくという状況で何を削り,何を残すのか,各自治体で喧々諤々の議論がなされることと思います。
そのような中で私が懸念するのは,このような財政危機においてしばしば行われる「職員人件費の一律削減」が行われるのではないかということです。

東日本大震災の際には,復興財源に充てるため国家公務員の人件費が一律に削減され,その横並びで地方自治体の人件費も削減されました。
最近では,福井県や新潟県で財政健全化のために職員人件費の一律削減が行われており,新潟県では,2020年度から4年間,1.5%から2.5%削減し,毎年度41億円を削減,新潟県の1年間の財源確保目標110億円の主要な割合を占めると報じられています。

この数字を見てもわかるように,職員人件費の一律削減は労使が合意できれば大きな財源を生む効果が期待され,その分住民サービスの低下を招くような施策事業の見直しを行わなくて済むことから,財政危機に瀕する自治体において財政健全化のための財源確保手法として,これまでも全国各地でたびたび実施されてきました。

しかし今回のタイトルにもあるように、私はこの方法論に賛同しかねます。
最終的にはその自治体での首長,議会,住民の判断ですので,私が口をさしはさむことではありませんが,自治体の財政を預かる仕事をした者として,この職員人件費の一律削減は,それ以外の財政健全化策と明らかに目的や手法が異なるため,安易に採用すべき手段ではないと思い,一定の非難を承知のうえで今回筆を執った次第です。

私は,公務員の人件費を聖域化せよ,と主張しているわけではありません。
人件費であろうと,住民サービスに要する経費であろうと,より優先すべき施策事業の財源を確保するために無駄なものを省いていくことはまっとうな議論であり,人件費も含め見直すべき経費の種類としての聖域はないと思っています。
問題は「一律削減」というやり方です。

財政健全化の基本は,優先順位の高い経費に限られた財源を充て,優先順位の低いものが結果としてそぎ落とされていく,施策事業間での財源シフトだと思っています。
従って,人件費についても,優先順位の高い事業に従事する職員を増やす,あるいは事業費を優先的に確保していく,その財源捻出のために優先順位の低い事業の組織定員を縮小していくというのなら話はわかりますし,その結果,自治体として無駄な人員を抱えているという判断であれば整理解雇のようなものも起こりうると考えています。

しかし「一律削減」にはこの優先順位の概念がありません。
全職員の給与を一律で数%削減するというのは,職員の働きぶりのどの部分が資源配分する優先順位が低いと判断されたのか,全く理解できません。
無駄を省くという観点から言えば、働きぶりの悪い職員がいるのであれば,その者の公務員としての資質を問い,その者の身分や給与水準に対して必要な措置を取ればよく,一律である必要はありません。
組織全体として働きぶりが悪いということであれば,生産性を向上させる方策をとり,その分定員の削減や時間外勤務の縮減で効果を生むことも考えられますが、一般的には職員人件費一律削減の議論では職員の労働生産性の現状やその向上方策について語られることはありません。

そもそも「公務員の給与水準はもともと高い」というのであれば,それは人事委員会勧告の仕組みの中でコントロールされるべきものです。
このコロナの影響で民間の給与が下がれば,それは来年夏の人事委員会勧告で必ず民間給与に準拠する形で反映され,秋以降の議会で関係条例が改正されることによりその年の4月に遡って減額されることになります。
民間準拠による給与減額が行われればそのことによる財源確保の効果は得られますが,それは優先順位の低いものから高いものへの財源シフトという、本来の財政健全化方策とは異なるものです。

市民サービスの低下などの痛みを伴う改革を断行するのだから「自らが身を切る」必要があるという論理も理解できません。
「自ら」と言っても公務員は自治体の経営者ではなく従業員であり,財政状況が悪化したことについて全職員が連帯して経営責任を負う立場ではありません(首長や議員などの特別職であれば別ですが)し,市民サービスの低下は市民として等しく受けるダメージであり,職員も一市民としては同じ立場です。

財政が厳しい折に,もともと問題があったにもかかわらず手を付けにくかった職員人件費の問題について改革するというのであれば話は分かるのですが,単に財源を確保するために職員の協力を得て行う職員人件費の一律削減は,もともと公務員の身分や給与水準について隠れた不満を持っている層に対して行革での市民サービス低下や負担増などの痛みを強いる際のガス抜きとして、また、施策事業の優劣をつけることでそのサービスを享受する市民同士での新たな軋轢を生むことを敬遠するための方策として用いられているというのが実態ではないでしょうか。

公務員は全体の奉仕者で,公共の福祉増進のために働くことを義務付けられていますが,その報酬が適正でなければいけないのは労働者として当然の権利でそれを一律に削減するということは今までの給与水準は何だったのかという話になります。

民間企業のように経営不安によるリストラがないのだからこんな大変な時に職員人件費の一律削減くらい当然協力すべきという人もいるかもしれませんが,何も悪いことをしていない,働きぶりが悪いわけでもない,仕事の内容も変わらない(あるいはこのコロナ禍で業務量が増大しているかもしれない)公務員の給与が,理由もなく「財源確保への協力」として削減されるのは,まさに滅私奉公を強要するパワハラではないかと感じます。

「一律削減」が良くないのは人件費だけではありません。
優先順位の議論を避け、平等に痛みを分かち合うという感傷的な合意で本当に必要なものとそうでないものを分別することをためらわせることは、目指す姿を共有し、そのゴールに向かって真に必要なものに注力するために無駄を削ぎ落して持続可能な自治体へと生まれ変わるという改革を誤った方向に走らせてしまう愚かな過ちだと私は思います。

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
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