見出し画像

続・枠配分予算のススメ

「市長,経常的経費も一事業ずつ全部ご説明が必要ですか?」
「当たり前だ。財政課も事業所管課も,私の見ていないところで勝手に何をしているかわからんからな!」
#ジブリで学ぶ自治体財政

今日は「こんな予算編成はいやだ」という一幕。
福岡市ではこんなことありませんが,自治体職員たたきあげの首長,特に財政課OBとかだとこんなことが起こるらしいです。
全てを掌握したいのでしょうが「このくらいのこと,任せてくれよー」って言いたくなりますよね。
実際問題,すべての事業を一人が見て判断する,というプロセスはとても多くの時間と労力がかかります。
福岡市の場合,一般会計だけで事業数は約3,000あり,この調書をすべて読み込み,その経費の積み上げを全部適切かどうか財政課長が判断することは,スーパーマンでもなければ無理だというのがその立場に居た私の率直な感想です。
また,経費の積算をすべて財政課でチェックするため,資料が膨大になり,現場と財政課とのやり取りも大変頻繁に行われるため,財政課が予算査定に忙殺される繁忙期には,予算要求を行う現場も同じくらいの負荷がかかり,全庁的に時間外勤務が増えてしまうという弊害もありました。
働き方改革の観点からもお勧めできない手法です。

とはいえ「枠配分予算制度」を導入した際には役所内のいろんな方々から反対の声が聞かれました。
「財政課が査定しないとはどういうことだ。査定するのが財政の仕事だろう。」
「財政課が楽をしたいから枠配分で事業を査定する痛み,苦しみを現場に丸投げしているだけだ」
そんな揶揄に対して私はこう答えていました。
「一般会計だけでも3000もある事業のすべての内容を財政課長が把握して優先順位をつけることが本当にできると思いますか?私はできないと思います。それよりも市民に近い現場に責任と権限、そしてその権限を行使するために必要な財源をお渡しして、現場で感じている最も有効なお金の使い方を考えていただき、実行していただく方が市民のためになると思いませんか。」

市役所の奥で,現場から何人もの又聞きで伝えられる情報だけを頼りに理屈をこねて査定する財政課の判断だけですべてが決まるというのは恐ろしいことだし、どこで誰がどう議論したかわからないで出された結論だけ聞かされる現場も、その結論は当然他人事で、市民に対して正しく伝えることもできないはず。
これだけ厳しい財政状況の中で何を優先させ、その結果何をあきらめるのか、それをどういう言葉で市民に正しく伝えるのかを考えれば、市民に一番近く、市民の声を一番聞いている現場で責任をもって判断できる仕組みであるべきだと私は考えました。
また、そのような状況に置かれた現場の職員は、きっと初めて「財政」を自分事と考え、優先順位を自分でつけるために情報を収集し、判断し、責任をもってその判断を語れるようになると信じたのです。

一方,枠配分予算のデメリットとしてよく指摘されるのが「それぞれの部局が部分最適に走り全体最適が果たせなくなる」とか「財政課が全体を束ねる中で徹底している財政規律が守られなくなる」ということです。
「各部門において,与えられた枠予算をもとに部局での最適な予算を編成できる人材やノウハウがいない」「配分できる枠が厳しすぎてとても現課では納めきれないだろうから財政課が第三者の視点で厳しく査定したほうが良い」といった意見もよく聞かれます。
しかし,これらのデメリットは本当に枠配分予算では払拭できないのでしょうか。
あるいは,一件査定で行っている財政課であれば,全体最適を果たし,財政規律を守る能力やノウハウを有しているので問題ないと本気で言えるのでしょうか。

全体最適を目指すのであれば,誰かひとりにそのジャッジを中央集権化しなくてもその目指すべきゴールを予算編成にかかわる多くの人がきちんと共有すればいいのであり,財政課だけにその能力があるとは言い切れません。
自治体の抱える課題,市民のニーズ,自治体が目指す方向性などは,どの部局にいても職員であれば本来は知っておかなければいけないことでしょうし,その全体像を知らずに自らの部局の領域のみにこだわっても首長は一人ですから最終的には首長がその優先順位などを調整し,判断を下さなければなりません。
この調整,判断の機能を補佐するのが企画や財政といった官房部門ですが,現場がすべて別々の方向を向いていれば,その調整には膨大な労力を生じます。

そこで,限られた人的資源をコップの中の嵐を収めるのに費消するのではなく,可能な限り市民サービスに充て,市民満足の向上を図るには,この内部調整に係る労力(例えば予算編成におけるヒアリングや折衝に係る膨大な時間外勤務など)を極力削減できるよう取り組むことが望ましく,そのための一手法として財政課にすべてを丸投げする一件査定ではなく,財政課と現課が自治体の目指すゴールを共有したうえで,その部分,部分の判断を各部局に委ねる枠配分予算のほうがよいと私は考えています。

もっとも,各部門に予算のスペシャリストを配置することは直ちには難しいでしょうから,制度移行の初期には財政課が技術的なサポート(ここをこう査定すれば枠に収まるのではないかという提案など)をする必要があるでしょうし,その前提として,財源が厳しいからといってそのまま厳しい財源を一律に各部局に配分するのではなく,財政課は財政課としてできる財源確保や調整に奔走しつつ,各部局の状況をつぶさにヒアリングし,それぞれの部局が自分たちの努力で達成可能な目標となる枠を与えるように努めなければならない,と私は考えてい
ます。

予算は財政課のものでも,現課のものでもありません。
予算編成は,市民からいただいた貴重な財源をどの施策事業にバランスよく効果的に振り向けるかという調整ですが,長い冬の間,そのことにどれだけ時間と労力をかけているか考えてみてください。
市民は,そこにかけた時間ではなく,その内部調整の結果しかみてくれません。
内部調整にどれだけのエネルギーをかけることを市民が求めているのか,そのエネルギーをかけた分だけ,市民満足度が高まるのかを考えてみたら,おのずとわかると思いますけどね。

★「自治体の“台所”事情 ~財政が厳しい”ってどういうこと?」をより多くの人に届け隊
https://www.facebook.com/groups/299484670905327/
グループへの参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。
https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50/
フォロー自由。友達申請はメッセージを添えてください(^_-)-☆
★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
2008年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?