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借金していいのはどんなとき

まだ借り入れができるかって?
見てわかんないのかい?
昔の人が贅沢したせいで,すでにこれだけ残高が積みあがってるんだよ!
#ジブリで学ぶ自治体財政

「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」
昨日の投稿でご説明した「会計年度独立の原則」からすれば,自治体が借金をすることは許されないはずです。


地方財政法第5条でも「地方公共団体の歳出は、地方債(借金のことです,筆者注)以外の歳入をもつて、その財源としなければならない」とされていますが,但し書きで地方債を財源とできる場合が限定列挙されています。
では,地方自治体はどういう場合に借金をすることができるのでしょうか?
きっと多くの人は「お金が足りないから」「赤字を埋めるため」に借金をするのだと思っていると思いますが、それは違います。
国は、必要な支出の額に対して収入が足りないとき、収入と支出のギャップを埋めるために「赤字国債」を発行することができますが、地方自治体では赤字を埋めるための借金は認められていません。
国が赤字を埋めるために毎年予算の大半を借金で賄っているので、きっと地方自治体もそうだろうと錯覚している方が多いのですが誤解です。
地方自治体は赤字を埋める借金はできません。
では、何のために地方自治体は借金をするのでしょうか。

地方自治体は原則として,道路や公園,学校などの社会資本整備のために借金をすることができます。
これは,将来にわたって長く使い続ける社会資本の整備費用について,整備を行う時期の市民だけで負担するのではなく,その社会資本の便益を受ける将来の市民にも負担していただくことで世代間の公平を図る,との考え方によるものです。
地方自治体の借金は,将来の市民が使う社会資本をあらかじめ整備する投資です。
整備するお金が貯まるまで待っていては,それまで不便な状態が続き,まちの成長を阻害することになります。
将来を見越して,住みやすいまち,働きやすいまちを創るために借金をすることは決して悪いことではありません。
大事なのは将来の市民に遺す資産とそれによって負うことになる負担のそれぞれが,本当に将来の市民が望むものか,その負担を受け入れることができるものか,そしてきちんと負担できる額か,が重要なのです。

では逆に,どうして社会資本整備以外の名目で借金をしてはいけないのか。
これがまさに「会計年度独立の法則」によるのです。
仮に,市民が必要とするサービスを提供するのに十分な収入が得られないときにその不足額を借金で賄ったとします。
そうすると,将来の市民はその借金を原資としたサービスを受けられないのに,その返済だけを負担することになります。
これは明らかに将来の市民の予算編成権,自分たちの収める税の使途を決める権利を侵害しています。
地方自治体が借金をして後世に負担を残すことが社会資本整備に限って許されるのは,そこで形成される道路や公園などの財産が将来の市民に確実に引き渡され,将来の市民がそれを使うことができる,すなわちその時点での負担に見合う行政サービスを享受することができるからです。
もちろん,過度に将来の市民に負担を負わせることは許されません。
このため,自治体の各年度予算では新たに借り入れる額を必ず定めることとされていますし,その返済額が自治体の予算の一定割合を超えないように国が監視する仕組みが執られています。

ところが,財政状況が厳しい昨今,社会資本整備ではない行政サービスを維持拡充するために借金をしても良いと言い出す輩が現れています。
社会の安定や将来の成長の種まきとして福祉や教育に借金を充てても良いという主張はもっともらしく聞こえますが,その理論の怪しさは前述の通り。
将来の市民からすれば,自分が受けてもない,過去の市民が使ったサービスの請求書だけ回されてはたまったものではありません。
また,現在の市民に給付する補助金の増額を選挙の公約に掲げ,その財源として借金を充てることを公言するような政治家もいますが,前述のとおり市民への補助金に充てるための借金は禁止されています。
さらにひどいのは大型箱物事業を凍結して浮いた財源で市民への給付を訴えるようなケースで,この場合そもそも箱物整備の財源は社会資本整備として借金で賄うので,事業を凍結した時点では現金が手元にあるわけではないし,社会資本整備名目で借りた金を市民への給付に充てることはできないので,この政策は完全に論理破綻しています。
こんな地方財政の初歩的な話が理解されず,このようなまやかしがまかり通る,本当に怪しげな世の中になっていることを財政のプロとしてとても嘆かわしく思っています。

悲しいのは,市民も政治家も職員までもが,地方財政の最も基本的なイロハ,財政のざの字もわからず,会計年度独立の原則も,自治体が借金をできる場合が限られていることもわからず,なぜお金が足りないのか,なぜ行財政改革を進めなければならないのかも理解できずに,財政運営に対する不平不満だけが募る現状,政治家のできもしない甘言に市民が騙される現状です。
繰り返しになりますが,私たちには、現在の自分たちへの行政サービスのために過去の資産を食いつぶす権利も、将来の市民が収める税金を先食いする権利もありません。
私たちは原則として、年度の収入で賄えないほどの臨時的なものを除いて、現在の自分たちが収める税金の範囲でしか行政サービスを受けられない、それが「財政民主主義」に基づく「会計年度独立の原則」です。
税収が減り,入ってくるお金が少なくなれば,借金や貯金に頼るのではなく,今やっていることを見直し,収入に見合う支出まで削減するしかないのです。
では,その見直しをうまく進めていく方法はあるのでしょうか。

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